実はさ、俺一番最初にあいつ見たとき、すげービックリしたんだよね。
 いやもちろん、女の子だしさ、絶対ありえねーとは思ったけど、でもホント、驚いた。
 半兵衛によく似てたんだ。まぁ、白うさぎだから当たり前っちゃぁ当たり前なんだけども。
 あいつが中野の御囲い周辺でウロウロしてたのを見かけて、まさかと思って声をかけたのが始まりだった。
 俺に肩を叩かれて文字通り飛び上がって振り返った時のあいつの顔が忘れられない。
 
 俺は普段あまり過去のことを思い出さないようにしている。
 過去より今の方が大事だろ?過去はもちろん今の俺を作った大切な要素ではあるけど、それに縛られて生きていくのは性に合わないし、アホらしいと思ってる。
 歴史だってそうだろ?俺達が今生きていられるのは、過去に多くの人達がいろんな場面でいろんな努力をして、命を落としたり助けられたり新たな命が生まれたり、そんな風にして培ってきたものだから、感謝したり思いを馳せたりすることはあっても、過去に生きてた人たちがやらかしちまったことについて、俺達がクヨクヨしたって始まらないからな。
 まぁとにかく、こだわるってのはある意味大事なことだけど、それに縛られちゃいけないって、俺は思ってる訳だ。
 だから、半兵衛のことも、普段は忘れて生活してる。
 だが時々、ふとあいつのことを思い出すことがある。
 どんなタイミングでとかは特に決まっていない。本当にふとしたきっかけで、あいつのことを思い出すんだ。
 それは言葉だったり、仕草だったり、表情だったり、後ろ姿だったりする。まぁ厳密に言うと、思い出すというよりも、頭に浮かぶって感じだな。
 記憶の断片が、なんの脈絡もなく、表層意識にプカリと浮かび上がってくるような、そんな感覚。
 そうやって本当は気づかないうちに、あいつのことを意識してるんだろうな。
 だから、その時も、そんな脈絡のない連想の結果かと思ってた。白うさぎだから、単純に無条件に結びつけちまっただけかと思ってた。
 だから俺は平静を装って、うさばっちを基地に連れていって、話を聞いたんだ。
 でもって二度驚いた。女のクセに、軍師になりたいとか言いやがるからさ・・・。
 よりによって軍師だぜ?まったく、半兵衛がなんか、俺に恨みでもあって、困らせようとしてるんじゃないかと一瞬疑ったよ。でもうさばっちときたらめちゃめちゃ真剣で、女に生まれたからこそ、軍師としてお役に立ちたいとか言うからさ、とりあえず危険のないように、実戦には出さないことを条件に綱吉司令も了承してくれた。
 そしたらまんまと、ニクショークに捕まっちまって・・・。
 俺は思わず最悪のシナリを思い浮かべちまった。半兵衛の最期の場面が嫌でも脳裏にちらついて、胸がムカムカして吐き気までしてきた。ねこおうじが天気で吉凶を占ってから戦にいい日を決めるとかバカなこと言い出すから、思わず無視して飛び出した。とりあえずギリギリで間に合って救出できたから良かったが、もう少し遅かったら、うさばっちとスケちゃんが喰われちまうところだった。
 本当にあの時は、あいつらを助けることができて良かったと胸を撫で下ろしたよ。もうこれ以上仲間がニクショークの餌食になるのを見るのはたくさんだからな。
 
 で、何でこんな話をしてるかっていうと・・・。
 実はさ、最近、ねこおうじとうさばっちがこう…なんつーか、いい感じっていうの?
俺はそういうの鈍感だから良くわかんねーんだけど、いぶねこがあいつらアヤシイとか言い出しやがってさ。
んで、ちょっと気をつけて見てたらやっぱり、何かちょっと妙なんだよね。
いや、別にあいつらがくっつくのがどうとかそういうんじゃなくて、ちょっと心配っつーか、その……。
 とにかく、前とは雰囲気がちょっと違う感じなんだ。
 七夕のちょっと前くらいからかなぁ…だからそう、ここ1週間か10日くらいの間の変化なんだけどね。
 でだ、俺よくわかんねーし、いぶねこに聞こうと思ったらあいつ気まぐれじゃん?基本的に自己チューな奴だから勝手なことばっかやってるわけ。いつもテイよくかわされるっていうか…。で、困ってひろねこに相談したんだよ。
 そしたらさ……あいつ、何て言ったと思う?
 じゅりいぬさん、そういうことは当人同士に任せておくべきですよ。あれこれ外野が口を出すことで、まとまるものもまとまらなくなりますからね。野暮な勘ぐりはやめて、見守りましょう(ニコッ)♪
・・・だってさ。
 ま、ひろねこらしいっちゃ、らしいけどな。
 俺は惚れた腫れたのってまったくわかんないし、それが自分や周りにどんな影響をおよぼすのかもよくわからない。だからこそ逆に、ねこおうじとうさばっちのことが心配だったんだ。何がって言われるとわかんないけど、とにかくわかんないからこそ心配だったんだ。
 でも、誰も話を聞いてくれないから、うさばっちに直接聞いてみることにした。
 まぁちょうど、一つ気になってることもあったしな…。
 だからある日、うさばっちと二人だけになれる機会を伺って、俺は切り出した。
 「うさばっち、お前その・・・・・ねこおうじのことさ」
 そこまで言った時点で、すでにうさばっちの白い耳が真っ赤になったのがわかった。
 目をそらし、不安定に泳がせる。明らかに挙動不審だ。
 俺は若干躊躇したが、思い切って続けた。
「お前さ、姫なんだろ?しつこいようだけど、こんなところにいていいのかよ。こんなところ、お姫さまがいるようなところじゃねーし、それにねこおうじだって・・・・」
 俺の言葉に、うさばっちは身を硬くした。
 その意味がわからず、俺は続けた。
 「あいつさ、王子様ってことになってるだろ?知らないと思うけど、あいつ本当は王子なんかじゃ・・・」
 「知ってます。彼が本当は王子様じゃないってこと、私知ってます。・・・・・・あっ!!」
 うさばっちはまるで言ってはいけないことを言ってしまったかのように、両手を口元に当てた。
 いろんなことが軽くショックで、俺は思わずうろたえてしまった。続く言葉が見つからない。
 俺がアワアワしていると、うさばっちがおそるおそる俺を見て言った。
「じゅりいぬさん・・・・?あなたもしかして・・・ご存知だったのですか・・・・?」
 「え・・・・・あ、いや・・・・・・えっと・・・なんて言うか・・・」
 ねこおうじが本当の王子じゃないってことは、俺が勝手にそうじゃないかと思ってただけで、確信してたわけじゃなかった。あいつも特に言わなかったし、別にそんなことどうでもいいと思ってたから。ただ、あいつの昔のことを知ってる俺は、どう考えてもあいつが王子だとは思えなかったんだ。
 だから姫なんかと釣り合うのかどうかって、心配してたんだけどさ・・・。
 だけど、まさかうさばっちがそれを知っているとは思わなかった。ていうことは、ねこおうじはうさばっちに本当のことを話しているということだ。つまりは、本気だということなんだろう。
 俺はまだショックから立ち直れていない状態だったが、なんとか気持ちを奮い立たせてこう尋ねた。
 「あー・・・・そう、知ってたなら話は早いな。お前さうさばっち、あいつが王子じゃないって知ってても、あいつのこと好きなのか?」
 質問がストレート過ぎたのか、耳ばかりか顔も手足も真っ赤になってうさばっちはうつむいた。
 ・・・・ちょっとカワイイじゃねーかよ。
 俺は一瞬うさばっちに見とれたが、すぐに我に返って反応を待った。
 しばらくうつむいて黙っていたが、やがてうさばっちはゆっくりと頷いてこう言った。
 「私は・・・・ねこおうじさんのこと、好きです。王子様だとかそうじゃないとか、そういうの、関係なく好きなんです」
 両手を胸の前で組んでモソモソやってるうさばっちが、俺にはとっても可愛く見えた。その様子から、本当にねこおうじのことが好きなんだと確信した。たとえ王子じゃなくても、好きでいてくれると言ってくれたことが、俺は嬉しかった。
 「そっか。いや、なんか悪かったな。尋問しちまったみたいでさ。でも、俺なんか安心したよ。お前の気持ちが聞けて」
 そしてその場を去ろうとして立ち上がった。
 「ねこおうじのこと、よろしく頼む。あいつああ見えて寂しがり屋だし、甘えん坊だからさ。まぁ大体はいっちょ前に虚勢張ったりしてるんだけど、根は優しくていいヤツだ。俺が保証する。お前たち、身分は釣り合わないけど、なんかお似合いだと思うし、きっとなんとかなんだろ」
 俺はドアのそばまで歩きながら、うさばっちに背を向けたまま手を降った。ここ数日ずっと抱えてたモヤモヤが溶けたような気がした。あいつらなら身分とかそういうのも乗り越えて、上手くやってくれるだろう。
 俺がドアノブに手をかけた時、うさばっちが俺を呼び止めた。
 「待ってくださいじゅりいぬさん!」
 ドアノブにかけた手を下ろし、俺はうさばっちの方を振り返った。
 「ん?まだなんかあんのか?」
 「あの・・・・・私・・・・・その・・・・・・・私も・・・・・本当は・・・・・・・」
 俺は完全にドアに背を向けて、うさばっちの方に向き直った。うさばっちの体が小刻みに震えているのが見えた。俺は何かとんでもないことが起きるような気がして、背中に震えが走った。
 ちょっと待て。何かがおかしい。なんか俺が望まない展開になりそうだと本能が告げていた。俺の得意の動物的カン、てやつだ。
 だから本当は良くないことだと分かっていたが、俺はうさばっちの話を最後まで聞かないことに決めた。
 「それ以上言うなよ。言わなくていいよ。俺はお前がねこおうじのことを真剣に考えてくれてるかどうかを知りたかっただけだ。それがわかった今、他に俺が知りたいことはないよ」
 そうだ。確かに、ねこおうじのことについてはクリアになった。俺は単純だから、本題に付随する細かいメンドクセーことはどうでもいいし、気にもしない。だからこれで良かったはずだ。
 だが、直感的に何かを感じた。他に俺が知りたいことはない、そう言ったが、それは実は、正しくはない。
 ねこおうじのこととは別に、俺はもっと知りたいことがあったんじゃなかったのか。
 過去を振り返りたくないという理由から、あえて避けてきたけれど、俺が一番クリアにしたかったのはもっと別のことではなかったのか。
 俺はゆっくりとうさばっちに歩み寄った。そして再び、彼女の前に立った。うさばっちは警戒する色をたたえた眼で、俺を見上げた。
 俺は、ともすれば荒唐無稽だと思われるような質問を、彼女にまっすぐにぶつけていた。
 「お前さ、もしかして、半兵衛なのか?」
 
 
 七夕の短冊に書いた願いは、『世界平和』。
 俺はこの世から争いが無くなって、みんなが安心して暮らせる世界を作りたい。
 それが半兵衛の遺志だったし、俺が救えなかった命たちへの償いでもあると思ってる。
 俺が迷い、くじけ、自棄になった時に、いつも優しく包んで往くべき道を指し示してくれる、あのひとへの恩返しでもある。
 共に戦い、共に生きていく仲間たちへの誓いでもあり、訳あって別々の道を往くことになってしまったが、必要な時にはいつもその力を貸してくれる天邪鬼なあいつとの約束でもある。
 俺は今ひとつ、気づいたことがある。
 記憶は塗り替えられるものじゃない。
 増えてゆくものなのだと。
 辛い過去を忘れるために、上から何かを塗りたくろうとあがいてきたのが、俺の今までの人生だった。
 半兵衛のことだってそうだ。意識して思い出すまいとしていた。ねこおうじに半兵衛のことを聞かれた時も、思わず怒鳴るようなデカい声を出してあいつを怯えさせてしまった。
 無理をしていた証拠だと、俺は思う。
 でも、うさばっちの存在が俺に教えてくれた。
 大切な思い出は、心の中の引き出しに、一つ一つしまっていけばいいんだって。
 時々取り出して、眺めたり懐かしんだりするものなんだって。
 記憶とは古くて、そして新しいものだ。痛みを感じさせもするけれど、癒しを与えてくれることもある。俺達は過去を生きた人たちの英霊に支えられて、今こうして生きているのだから。
 過去を否定するな。そして自分を責めるな。
 過去はお前の、生きた証だ。
 うさばっちの影が、俺にそう囁く。
 愛する者たちを守れ。そして強くあれ。
 わかったよ、半兵衛。
 俺はもう逃げない。過去からも、そして未来からも。
 だからお前はうさばっちを守ってやってくれよな。
 ねこおうじと幸せになれるように、見守ってやってくれよ・・・。

 


生類戦隊アワレンジャー-タンザク