「えっ、じゅりいぬって二兵衛の官兵衛だったの?!」

「しーーーーっ!!………お前デカい声出すなって……!」

ある日の昼下がり、俺とねこおうじはメシを食いに外へ出ていた。そこは湯豆腐食べ放題の店で、何でこんなところに連れてきたんだとか、白いよとか、大豆を肉に変える神はどこだとか、散々俺を罵った挙げ句の果てに、俺より余計に豆腐を食いやがったねこおうじが、周囲の迷惑も顧みず思いっきり叫んだところだった。

俺たちがアワレンジャーだってことは、世間的には一応内緒ってことになってるわけだし、俺の過去の通り名だってそこそこ有名だったりするわけだから、こんな公衆の面前で軽々しく叫んだりするもんじゃないってのに。

まったくこいつは、いくつになっても天然キャラが抜けねぇんだから、困ったもんだぜ。

まぁ、そこが可愛かったりもするんだけどな。

「え、それじゃあじゅりいぬは、おれたち兄弟とあのおばあさんの家で別れてからずっと、半兵衛さんと一緒にいたの?」

目をキラキラと輝かせて、ねこおうじは身を乗り出している。まるで寝る前のベッドの中で、わくわくしながらおとぎ話の続きを催促する子供のようだ。

俺は周囲を気にしながら、あまり気が進まない過去の話をし始めた。

「ああ、以前俺たちは一緒に戦ってた。当時の司令官の元でニクショークを相手にしてた。やってることは今とあんまし変わんねぇよ」

「ええーっ!そうだったの?何でもっと早く教えてくれなかったんだよっ!二兵衛はおれの、憧れの軍師なんだって前に言ったよね?」

ちょっとばかり拗ねたようにねこおうじが言った。俺は知らん顔をして水を飲んだ。

「それで?どんな風だったの?二人で一緒に戦ってた頃って」
俺の気持ちをよそに、ねこおうじは食いついてくる。あんまり身を乗り出し過ぎて、今にも俺とあいつの鼻先がくっついちまいそうだ。

俺は身を引いて、椅子の背にもたれた。

水の入ったグラスが汗をかいて、テーブルの上に作った水滴を人差し指で所在なくなぞりながら、俺は言った。

「だから、今と変わんねぇって。まぁいわゆる、コンビってやつ?作戦練って、攻めて、まぁそんな感じ?今お前とやってるのと同じだって」

やる気のない俺の様子を見て、ねこおうじは不満そうに言った。

「何だよそれー。つまんない。色々あるでしょーほら、有岡城の戦いとか、 三木城攻めとか。聞きたいんだから教えてくれてもいいじゃんかー!」

「……つーか、メンドクセー( *`ω´)

俺が放った一言がきっかけで、言い合いのケンカが始まった。

「何だよそれ?メンドクセーとかなんだよ。てゆーかじゅりいぬはいつもそうやっておれのこと無視するよね。バカにしないでよ!」

「バカになんかしてねーよ」

「してるよ!」

「してねぇ」

「してるじゃない!おれのこと半人前扱いしてさ。この前だって俺が今攻め込んでも勝ち目ないって言ったのに、無視したでしょー?結果どうなったっけ?勝てなかったよね?おれの言うとおりだったよね?」

ねこおうじは勝ち誇ったようなドヤ顔で俺を一瞥した。

「おれの占いは当たるんだよ?ていうか占いっていうのはそもそも非現実的なものじゃなくて、昔からちゃんと科学的根拠に基づいて研究されたものなんだよ。統計的なデータを元に分析された結果の産物なんだよ。おれがだいたい霊だとかなんだとか、そういう非現実的なものを信じないってことくらい、じゅりいぬ知ってるはずじゃない」

こいつ…いつもこうやって理屈でおれを言い負かそうとするんだ。理詰めで来られると俺は、ぐうの音も出ない。

とりあえず反撃に出た。

「いっつもそんな風に頭使ってばっかいたらな、いざという時素早く動けねーんだよバーカ。いいか、戦場ではな、兵法3割カン7割だ。グズグズ考えてたらあっちゅー間に攻め込まれて負けちまうぜ」

「カンとかいう根拠のないもの、おれは信じないね。バカバカしい」

「お?お前、動物的カンってもんを信じてないな?俺は今までそれで何度もピンチを切り抜けてきたぜ?」

俺の言葉に対して、呆れたようにねこおうじが肩をすくめる。

「てゆーかおれたち動物じゃん。動物的、ってなんだよ。そもそも説明になってないよ」

そしてドサッと椅子の背にふんぞり返った。

「まぁ…そうだけどさ」

言い負かされて俺は、グラスの水を一気にあおった。

「それよりさ、なんで半兵衛さんとのコンビ、解消しちゃったわけ?かつて官兵衛と呼ばれたじゅりいぬほどの軍師なら綱吉さんに拾われるまでもないし、俺たち寄せ集めと一緒に戦ってるってゆーの、思えばふしぎな話じゃん?」

キタコレ。一番聞かれたくない質問キタコレ。

飲み干したグラスを両手で包んで所在なく弄びながら、俺は口ごもった。

「まぁ、色々あんだよ…」

「色々ってなんだよ。てゆーかそれを聞きたいから質問してるんでしょ」

「色々はいろいろだよ。イロイロ!あーもういいだろこの話は!」

「なんだよケチ!半兵衛さんとのこと、そんなにおれに話したくないの?独り占めしたいわけ?」

「そんなんじゃねーよ」

「じゃあなんだよ?」

「思い出したくねーの!」

自分でもビックリするような強い口調で、俺は言い放っていた。

ねこおうじの顔色が、一瞬にして曇った。

「え……なんで……」

気色ばんだねこおうじの顔を見て、俺は悪いことをしたと思った。

「・・・・まぁ、アレだ。あの時は、もう戦うのとかちょっと休憩しようかなーと思っててさ。別に疲れたとかそーいうんじゃねーけど、しばらく戦から離れようかとちょっと思ったんだよ。それで」

怒鳴ったりして悪かったと言いながら、おれはバツの悪さをごまかすために店員を呼んで水のおかわりを頼んだ。

ねこおうじは俺をじっと見つめている。ちょっとした顔色の変化から何かを汲み取ろうとしているようだ。
別に、こいつに話したくないとかいうわけじゃない。半兵衛と一緒にいた頃のことは、おそらく俺の一生において、一番輝いていた時代だと言ってもいい。なんのしがらみにも囚われず、ただ心の赴くままに、ニクショークと戦っていたあの頃。静かに戦いの方向性を選択し緻密に事を進める半兵衛に対し、俺は自分のイメージや直感を信じる戦法を好んだ。一見水と油のような二人だったが、たぶんお互いのデコボコがぴったりはまったのだろう。本当に、今考えても、素晴らしいコンビだったと思う。

「そういえば半兵衛さんって、今どうしてるんだっけ・・・」

ねこおうじが記憶を辿るような目をして宙を見上げた。俺は黙っていた。半兵衛の最後の場面が脳裏に去来する。俺は大きく息をついた。

何か言おうかと思ったが、言葉が出てこなかった。

俺は小細工が出来ないタイプだ。だから嘘はつけない。ついたとしても、すぐにバレる。いつだって直球勝負だ。

ねこおうじはまっすぐに俺を見ている。・・・だよな、半兵衛、お前に言えなかったことを、俺はいつか伝えたい。いや、伝えなきゃならないんだ。

もう一度大きく息をつくと、俺は話し始めた。

「半兵衛は、ニクショークに殺された。首を一捻りされて、あっという間だった」

ねこおうじの目がまんまるになる。俺はなんだか責められてるような気分になった。

「俺はなんにも出来なかった。半兵衛のお陰で俺、立ち直ったようなもんなのに・・・面と向かって礼を言ったこともなかった。半兵衛が死んで初めて、俺は自分の成すべきことに気づいたんだ」

さっき新しく注がれた水のグラスに目を遣る。氷が溶けて、カランと小さな音を立てた。

俺は続けた。

「笑われるかもしれねーけど、俺、運命だって思ってるんだぜ。あの時、俺が立ち寄ったあの婆さんの家に、お前たちがいたっての」

ねこおうじが微かに喉を鳴らした。声にならない声だった。俺は奴を見ないようにして、なるべく淡々と続けた。

「あの家でお前ら兄弟に出会ったことは、運命っつーか、まぁ……必然?じゃねーかなって。なんも知らねーまだほんの子犬だったお前を見てたら、過去に救えなかった命を思い出したんだ。思い出したら辛くなるからお前が寄ってきても俺はテキトーに相手してるだけだったけど…。でさ、婆さんが死んで、あの家出る時別れて、それっきりかと思ってたらさ、綱吉さんとこで偶然再会してさ。あの時俺、これは運命だって確信したんだ」
「じゅりいぬ……」

ねこおうじはじっと俺の目を見つめながら食い入るように聞いていたが、俺の名前をつぶやくとそっと視線を落とした。

「俺さ、お前のこと無視したりとか半人前扱いとか、たまにすることあるけどさ、でも本気でバカにしたりしてるわけじゃねーよ。まぁお前の兵法にはたまにイラッとすることもあるけど…」

「なんだよそれ……」

ちょっとだけ泣き笑いみたいな声で、ねこおうじが言った。

俺は続けた。

「半兵衛が死んだ時、あの人の軍師としての生き様を、俺が継ぐって決めたんだ。それまで色々逃げてたけどさ、ちゃんと向き合って戦い抜くって決めたんだ。チビすけだったお前が軍師としてアワレンジヤーに居たってのも、きっとなんかの思し召しとかいうヤツじゃねーかと、俺は勝手に思ってる。だからこれ以上言わせんな。お前はちゃんと、一人前の軍師だぜ……」

あーーっくそっ!なんでこんな流れになるかなぁと両手で頭を抱えて、俺はテーブルに肘をついて照れ隠しに俯いた。

頭を掻きむしってる俺に向かって、やがて静かにねこおうじが言った。

「そんな風に思っててくれたなんて知らなかった……ありがとう、じゅりいぬ……」

くっそ何だこの妙な展開……キモチワリーったらありゃしねー!!

俺はどうしていいかわからなくなって、伝票を掴んで席を立った。

「おし、腹も膨れたし、帰るぞ!」

そしてねこおうじを顧みもせずに出口に向かって歩き始めた。

「あっ、待ってよじゅりいぬ!」

ねこおうじが文字通りしっぽを振って俺のあとを追った。

ああ、俺たちは二人で一人の軍師だ。

生まれた背景も扱う兵法も性格も何もかも違う、デコボコなコンビた。

だがな半兵衛、お前の志は、俺たちが受け継いでみせる。

俺たちは違うからこそきっと、一緒に戦って行けるんだって、そう俺は信じてる。

口が裂けても俺がそんな風に思ってるなんて、ねこおうじには言えねーけどな!( *`ω´)ハズカシ‐!!

半兵衛・・・俺達がきっと、お前の意志を継ぐ。いつかきっと、ニクショークを殲滅してみせる。

そして大願 叶ったその時に、俺はあの時お前に言えなかった言葉を言うよ・・・。