最近読んだ本で特に印象的だったのが谷崎由依「遠の眠りの」です。

この物語は昭和初めの福井を舞台にしたもので、えびす屋という百貨店の中につくられた少女歌劇団でお話係をすると言うエピソードが出てきます。これは実際に福井市内にあった「だるま屋百貨店」(現在の西武福井店)の少女歌劇をモデルにしたもので、他にも様々な要素が絡んできますが、当時の農村の風景と生活、そこに暮らす人々の心象を当時の世相とともに描き出していて、それでいて読み終えた後はファンフタジー小説を読んだような、心に不思議な余韻が残る作品でした。

(ちなみに、この本には粟崎遊園について一行だけ言及しているところがあります。)

 

今回、ちょうど福井市に行く機会があり、時間もあったので、だるま屋だった西武福井店と小舟渡遊園の跡地に向かってみることにしました。

福井県には今まで仕事などで来た事はありましたが、その時はあわら温泉や東尋坊方面に行っていたので福井市内はほとんど知らず、ずっと前から一度「遠の眠りの」の舞台になった街を散策したいなと思っていました。

 

西武福井店は駅前から伸びる通り沿いの商店街の一角にあり、ごく普通のデパートで、昔の名残と言えば地下一階の新館と本館を結ぶ「だるまロード」という名称ぐらいでした。

通りの向こう側の商店街の一部は北陸新幹線延長に伴う再開発のため、完全に閉鎖されていて、駅前の一等地ががらんどうになっており、人々が行き交うJR福井駅真横の新しいビル(ハピリン)と対照的でした。

 

小舟渡遊園はえちぜん鉄道小舟渡駅から脇の坂道を上がったところが入口でした。

他の方のブログを見ていたので、今の小舟渡遊園がどうなっているかは想像はしていましたが、今は「私有地の為入山禁止」と上り坂の手前に柵が建っていて、それ以上は行けません。

この道から線路を隔てて向こうには九頭竜川が流れていて、川向こうには広い草はらが広がっています。ここが競馬なども行ったグラウンドだったのかも知れません。

橋を渡って遊園の方を見ると小高い山になっていて、深い緑の木々がこんもりしています。なぜこんなところに遊園を作ったのだろうと思ってしまう場所です。ここは山と山に挟まれた場所ですが、九頭竜川の北側(グランウンド側)はわりと平らな土地で、畑が多く、場所としてはこちら側の方が何を建てるにしても便利な気がしますが、わざわざ山側に遊園をつくったのは、それだけ上からの眺めが素晴らしいと言う事なんでしょう。(もしかすると平地側の土地がうまく工面できなかったのかも)

今回は山の上には行けなかったのでパンフレットの謳い文句「北陸随一の絶景」を残念ながら確認できませんでした。

 

遊園跡を背景に小舟渡橋に立つと左手側が福井方面、右側が勝山方面で、勝山方面の山腹に銀色の大きなドームが見えますが、これは県立恐竜博物館の建物です。九頭竜川はわずかに蛇行していて、川幅も広く、日に照らされた水面と緑のコントラストが綺麗です。

 

橋と駅の間の道路脇に架橋記念碑がひっそりと建っていました。記念碑を建てたと言う事はそれだけこの橋が重要だったのでしょう。それまでは小舟を連ねてつなげて橋にしていたため、車は通れず、川が増水するたびに小舟が流されたり、繋げてる縄が切れたりしていて修復も大変だったのでしょう。上志比村史(今は合併して永平町)には小舟渡遊園の事は書かれていないですが、小舟に代わって新しい橋ができた事についてページを割いて書かれています。

この記念碑の脇には古い建物が建っていて、良く見ると色褪せたコカコーラの看板が掛かっているので、遊園やかまぶろ温泉があった頃はここは売店だったのかも知れません。今は廃屋?の様になっています。

同じく年季の入った近くの「高志タクシー」と文字がかすれた建物も入口にブルーシートが掛けられて随分前から営業していないように思えました。

 

現在はひと気がない場所ですが、30年ほど前まではもっと活気があったのでしょう。