怪我をして動けないawakinのマイブームは『木枯し紋次郎』でしょうか。

 

中学生だった昭和47年(1972年)にテレビで放映されていた番組ですから、50年以上前に作られた時代劇ですが、スカパーの時代劇専門チャンネルで再放送されているのをよく観ます。

 

『木枯し紋次郎』は古いもの好きにとっては見どころがたくさんあります。

 

激しく斬りあうシーンが印象に残りがちですが、もっと細かい草鞋(わらじ)を履くシーンや縄を綯(な)うシーン、あと行燈(あんどん)に火を灯すシーンなど、手抜きのない各シーンからは、作り手の本気度が伝わって来て、テレビ画面から彼らの息遣いが聞こえてくるような気がするほどです。

 

キャストも好きな俳優さんがてんこ盛りです。

主役の中村敦夫さんはもちろん阿藤海さん、改名前の火野正平さん、大滝秀治さん、大原麗子さん、加藤嘉さん、蟹江敬三さん、高橋長英さん、原田芳雄さん…と本当にキリがありません。さすがに放映から50年余り経過していることから多くの方が鬼籍に入っておられますが、きょうは2012年に亡くなられた大滝秀治さんを取り上げてみたいと思います。

 


第38話「上州新田郡三日月村」で、組頭・徳左衛門を演じる大滝秀治さん。

 

『祭りの日に生まれた子供は間引きしてはいけないんだろう。』と、生まれたばかりの紋次郎を間引きさせたくない姉のみつが、組頭の徳左衛門に訴えるシーンです。

過去に遡ってのシーンなので、カラーからモノクロに切り替わっています。

 

光と影が印象的で息を飲むような、美しささえ感じるこのシーン、それもそのはずで撮影は日本映画界を代表する映画カメラマンである宮川一夫さんです。

 

黒澤明監督の『羅生門』、溝口健二監督の『雨月物語』の撮影では国宝級とまで評された方で、<モノクロ映画では黒と白の間に無限のグレーがある>との名言を残されている宮川一夫さんです。木枯し紋次郎の最終話(市川崑監修分)の映像は、金獅子賞や銀獅子賞を獲った作品を彷彿させると言ったら言い過ぎているでしょうか。

 

大滝秀治さんが出演された数多くの作品の中で、特に印象に残る作品はやはり遺作である『あなたへ』でしょうか。

高倉健さんの遺作でもある同作品は、大滝さんがお亡くなりになる約1か月前の2012年8月25日に封切られました。(大滝さんの命日は2012年10月2日)

 

『あなたへ』で大滝さんは長崎県の平戸・薄香で働く漁師を演じておられます。

 

NHKの番組(プロフェッショナル 仕事の流儀)の受け売りですが、健さん演じる倉島に乞われて彼の亡妻の散骨を終え、港に帰り着いたときに大滝さんが発した『ひさしぶりにええ海ば見た。』という台詞、東京物語の『ああ、きれいな夜明けだった。』を思い起こさせる少し聞き取りにくいこの台詞に接したとき、健さんは涙を流されたそうです。

 

『(大滝さんの)ああいう芝居を目の当たりで見ただけで、この映画に出てよかったと思ってます。それぐらい強烈だった。うへえって思いましたよ。そういうことができる、俳優っていうのが商売なんですよね。(大滝さんに)負けたくないねえ。負けたくない。勝負しようとは思わないけど、何とか追っかけたいと思いますよ。まだ何年かは働けるもんね。追っかけたいと思う。縁があって俳優を選んだんだからね。やっぱり出会う人でしょうね。どういう人に人生で出会うか。そこで決まるんじゃないですかね。やっぱりいい人に出会うと、いろいろなものをもらいますよね。』

   (高倉健インタビュースペシャル・2012.9.10に放映されたNHKの番組から)