輸入切り花は船舶輸送の時代 | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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2022年、23年は品薄単価高。

国産切り花はなかなか増えませんが、輸入切り花はじわりと増えています。
植物検疫統計では、2023年(1月~12月)の輸入切り花(枝もの・葉ものを含む)は13.1億本。
コロナ前の2019年13.4億本にはまだ及びませんが、13億本台にまで回復(図1)。

 


図1 輸入切り花数量の推移

   植物検疫統計のサカキ・ヒサカキ数量を1/20に読みかえた切り花輸入数量(枝もの・葉ものを含む)


切り花の輸入数量には、「サカキ・ヒサカキを除く」があり、要注意。
植物検疫統計ではサカキ・ヒサカキは枝数で表示され、3.4億本と3.1億本(2023年)で膨大な数量。

その荷姿は、束になったいわゆる「ククリ」がほとんど。
実態に合わせるため、農水省花き産業振興室は、小枝20本を1束、1束=1本と読みかえた輸入数量を公表しています。
したがって、当ブログでの切り花輸入数量は、サカキ・ヒサカキを植物検疫統計の1/20に換算しています。

今回のお題は、輸入切り花の数量ではなく、その輸送手段。


切り花は鮮度が命。

花業界人の多くは、輸入切り花は飛行機による輸送があたり前と考えます。
いまでは、近場の中国、ベトナムはもとより、南米コロンビア、エクアドルなどの地球の裏側からの輸入でも船舶輸送が増えています。

2023年の輸入切り花13.1億本(サカキ・ヒサカキは束数)の輸送手段は、空輸が5.1億本で45%、船舶が7.2億本で55%(図2)。
輸入切り花の半分以上は船で運ばれてくる。
2014年の輸入切り花は12.7億本で、空輸が67%、船舶が33%でしたから、空輸が減り、船舶が22ポイント増えました。



図2 2023年の輸入切り花数量と輸送手段を2014年と比較

   植物検疫統計のデータに基づき宇田が作図


日本から近い中国からは、大量の下草(ヒサカキ)輸入でわかるように船舶輸送が多いだろうということが推定できます。
そこで、距離の遠近で船舶輸送率がどうかわるかを図3に示しました。
輸入上位国の船舶輸送率です。
輸入切り花ダントツ1位の中国からは4.2億本が輸入され、その98%が船です。
キク、カーネーションはもちろん船。
空輸は、バラなどほんの一部にすぎません。



図3 輸入切り花の国別輸送手段と船舶輸送率

   図2におなじ

 

南米コロンビアからは2.6億本が輸入されていますが、船は12%にすぎません。
コロンビアからの輸入総数2.6億本のうち、2.4億本がカーネーションです。
そのうち3,000万本のカーネーションは船舶輸送。
カーネーション以外には、リューカデンドロン、ルスカス、ユーカリが船。
コロンビアの切り花農場は、標高2,600mの首都ボゴタ周辺。
米国フロリダへの空輸体制が整っているので、日本へも空輸が主体。
ボゴタから港へはどう輸送しているのでしょうか。

コロンビアも本当は、船で送りたいのでしょう。
図3には示していませんが、隣国のエクアドルからの輸入は3,800万本。
まだコロンビアの補完的なポジションです。
しかし、その輸送は、空輸は27%で、船舶が73%。
カーネーションだけなら、91%が船舶輸送。
さすがにバラ(290万本)はすべて空輸ですが。
カーネーションはエクアドルから1か月かけて船舶輸送できているのですから、コロンビアからも問題はないはずです。
鮮度、日持ちについて、エクアドル、コロンビア産の問題点は聞こえてきません。

 

キク類では圧倒的なシェアのマレーシアは空輸が81%で、船舶は19%にすぎません。

そのマレーシアを猛追しているベトナムは新しい産地だけっであって船舶が主力で96%。

長期間の船舶輸送に耐えるか、耐えられないかは切り花の品目によって違います。
図4は、輸入のキク類、カーネーション、バラの船舶輸送率。
キク類が最も高く72%、次いでカーネーションの43%、バラは2%しかありません。
バラは、韓国(130万本)のすべて、中国(170万本)の36%だけが船舶輸送。



図4 輸入キク類、カーネーション、バラの輸送手段と船舶輸送率(2023年)

   図2におなじ

 

キク類は中国(7,900万本)の99%は船舶ですが、マレーシア(1.3億本)の船舶輸送率が26%しかないので、キク類全体では72%です。
もともと重くてかさばるキク類は船舶輸送が適しています。
いずれはすべて船舶輸送になるでしょう。

カーネーションは全体では43%ですが、コロンビア以外はほぼ船舶輸送になっています。

このように、切り花輸入ではバラ以外は船舶輸送になりつつあります。
逆にいうと、

バラの輸入が4,000万本しかなく、一向に増えないのは船舶輸送ができないからです。

カーネーションの輸入率が60%を超えているのは、1か月の船舶輸送に耐えることができるからです。
しかも、カーネーションは気候依存性がもっとも高い品目です。
赤道直下の高地で、1年中冷涼で日射が豊富な地域で生産されたカーネーションには、高度な栽培技術と経営力を誇った米国、オランダでも品質、生産コストなどにおいて勝てず、消滅。

中国から1週間、ベトナムから2週間、コロンビア、エクアドルから1か月の船舶輸送で、1年中大量に安定して輸入されるカーネーションに対して、国内カーネーション生産者はどう対抗するのか。

 

イメージとしては、

硫黄島の占領をめざし、沖合をうずめるように集結している連合国の船舶です。

すでに水際作戦は失敗し、兵士が続々と上陸、

日本兵は洞窟に身を潜め、反撃の機会をうかがっている。

さて、国内の切り花生産者、

とくにその先兵、カーネーション生産者の反撃は?

 

・徹底的に切りたての鮮度をウリにする
・輸入にまねができない超高品質・超高単価をめざす

・船舶コンテナで1か月輸送できるということは、乾式で1か月の冷蔵貯蔵ができるということ、貯蔵を組みこんで花屋さんが欲しいときに欲しい量を出荷する体制を構築
・栽培技術を駆使して面積当たり超多収で売上を増やす


もはや生産者、それぞれの経営方針、得意ワザで戦うゲリラ戦です。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.419. 2024.3.10)

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