「なにわ花まつり」品質はかわらないのに価格差はなぜ? | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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前回はなにわ花まつりを開催した「シンなにわ花いちば」についてのウダウダ話でした。
今回のお題は、なにわ花まつりに出展されていた切り花から「品質と価格およびいちばの役割」を考えます。

画像 第7回なにわ花まつり(2024年2月16日)の出展者となにわ花いちば社員

    (なにわ花いちばFBより引用)

 

なにわ花まつりは展示会、商談会であって、品評会ではありません。
まあ、商談会といっても切り花では、鉢もの・苗もののような具体的な商談はむずかしい。
鉢もの・苗ものは個人出荷であり、出荷時期、出荷数量が決まっているので、来場した花屋さんと即断即決の商談ができます。
なにわ花まつりは切り花ですし、個人での出展はバラのクニエダさん、草花・ハーブの早坂園芸さんなどわずかです。
大多数は全農県本部や経済連、JA、県の協議会など。
商談できる権限をもった担当者は多くありません。
長期予約相対などの具体的な商談は、別の場で、市場主導でおこなわれているのでしょう。
花まつりは、つくるがわと、売るがわの顔合わせ、商品紹介の役割が大きい。
完全オンラインせりになったなにわ花いちばではなおさら「対面」が重要。

なにわ花まつりは、品評会ではありませんが、出展されている花は品評会に負けない品質でした。
品評会の入賞は名誉であり、表彰状やトロフィーはもらえますが、市場価格には直結しません。
品評会は、出品規約、審査基準が明文化されています。
しかし、市場価格は見た目の美しさだけでなく、産地、個人の過去からの評価や信用・信頼などさまざまな要素があわさった結果です。
それらは、わかったようでわからない基準、仲間うちしかわからない基準です。
要するに、ようわからん。

今回、異質な出展がありました。
「なにわカーネーション部会」。
なにわ花いちばに出荷しているカーネーション生産者の集まりで、所属はバラバラ。
全国の腕自慢の若手カーネーション生産者が出品。
さすがに腕自慢だけあって見事です。
関東東海の12都県が競う品評会、「関東東海花の展覧会」のカーネーション部門に負けていません。



画像 なにわ花まつりに出品したなにわカーネーション部会の腕自慢の若手生産者の面々

    ひとり爺さんが混じっていますが

 

日々出荷されてくる切り花では気づきにくいですが、全国の産地が集まったなにわ花まつりを見ると、カーネーションだけでなくすべての品目で品質が向上していることがわかります。
それは生産者の栽培技術、ハウス・温室の環境調節技術の向上に加えて、鮮度、日持ち向上のための前処理技術、輸送技術などが貢献しています。
内外の種苗業者の育種の成果も加わります。
国内の生産者が激減したことで、栽培技術が劣る生産者が退場し、ハイレベルの生産者が残ったことも品質が向上した要因です。

淡路花き組合連合会も出展しています。
連合会は生産者組織であり、出荷は個人、農協共撰、グループ共撰などさまざまです。
今回は、カーネーションの個人出荷とストックの農協共撰が出品。
淡路島の花は、いちば、花屋さんから高い評価はうけていません。
品質について具体的な指摘はありませんが、市場価格が物語っています。
なにわ花まつりの展示でわかったことは、淡路カーネーションの品質は、全国の腕自慢、他の産地カーネーションとほとんどちがいはありません。
明らかに勝っている生産者もありました。
それにもかかわらず、日々の市況には大きなちがいがあります。



画像 淡路花き組合連合会の出展

    かの有名なPCガーベラさんのお隣でした

 

もともと花は、青果物とちがいわずかな品質差が大きな価格差になる業界。
キク、バラ、カーネーションなど成熟した品目では、品質の差はますますわずかになってきていますが、市況の高値と安値では天文学的な差があります。
下の図1は、なにわ花まつり当日(2月16日)の大田花きの市況。
なにわ花いちば、大阪鶴見花き地方卸売市場の市況は高値と中値しか公表されていません。

そこで、切り花市況の厳しさがわかるように、安値も公表している大田花き市況を使わせていただきました。


せり カーネーション高値 81円、中値(平均)48円、安値12円
相対 カーネーション高値187円、中値(平均)55円、安値10円

消費税抜き
ちなみに、せり率は10.5%

残りは、相対すなわちweb販売

ほかの品目でも似たような高値-安値



図1 大田花き市況(2024年2月16日)

 

どうして、

高値-中値-安値のこれだけの価格差がつくのでしょうか。
しかも、

対面せりを廃止し、完全オンラインせりになった大阪鶴見花き地方卸売市場では、仮想空間でのせり。
生産者が箱詰めして市場へ送ってから、花屋さんが持ちかえって箱を開けるまで、市場担当者、花屋さんのだれも品質を確認していません。

だれも現物を見ずに、平気でこれだけの価格差をつけて、生産者にかえしている。
せりでせり台にあがった箱は開けられ、現物を見ますが、9割はweb販売でせり前、着荷前に売れています。

 

また、

最初にせりにかけられた花は高く、せりの順番があとになるほどガクガクガクと劇的に下がっていく。
これって市場担当者はどういう価値観で上場する順番を決めているのでしょうか?
web販売では一斉にアップされるので、上場の順番はありません。
そのかわり、担当者が価格を記入してアップされます。
現物の花を見ずにどんな根拠で、価格が決められているのでしょうか。
花業界では、そんなことあたり前とみんな平気ですが、なにわ花いちばのシン社員はどう感じてているのでしょうか。

 

花は市場経済の申し子、

生産者・産地間の競争が活力の源。

負ければ退場が原則ですが、

卸売市場法には、「公正・公平な取引」が明示され、

「差別的な取引」が禁じられています。

市場価格が安いのは、たまたまとか偶然とかではありません。
安いのには理由(わけ)があるはずです。
それを産地、生産者にわかりやすく、ことばで伝えるのがいちばの仕事。

生産と小売の間に立つ、いちば(卸売業者)の重要な機能は、「情報の発信」。


仮想空間で仕事をしているシン社員は気づいていないかもしれませんが、市場は金銀財宝のような情報の宝庫。
生産者と花屋さんの間に立ち、双方に情報を発信するのがいちばの重要な役わり。
仮想空間での取引は、情報で成りたっています。
いちばの優劣は、情報発信力にあるといっても過言ではないでしょう。

花市場で唯一株を上場しているのが大田花き。

(オークネットも上場していますが、たくさんあるセグメントのひとつが花の卸売で、いちば専業ではない)
 

上場企業は株主や世間に対して経営内容を開示。
毎年の有価証券報告書、四半期ごとの決算短信、報告書の開示は、経営者だけでなく社員にも分析力、情報発信力が求められています。
相場が安かったので売上が減った、暑かったので入荷が減った・・、来期はがんばります程度の報告では許してもらえません。
図2は、その大田花きの2024年3月期 第3四半期報告書の一部

大田花きは「情報発信を強化します」


「経営成績に重要な影響を与える要因」
当社グループは、需給双方への情報発信を強化し安定的均衡を図るとともに・・・



図2 株式会社大田花きの第36期第3四半期報告書(2024年2月9日)

 

オンラインせりは、いちばの業務改善、生産性の向上などにおおいに役だっているようです。
一方で、切り捨てたものも多くあるように思います。
そのひとつが、産地、生産者への情報発信。
もともと口べた、説明べたなのが花業界。
懇親会では雑談の達人である市場人が、産地への情報発信になると、口数がすくなくなり、口べたになるのはなぜ?
生産者、農協担当者が、いちばからの情報に聞く耳をもたないからでしょうか?
クレームを伝えても「暖簾に腕押し」、「糠に釘」だからでしょうか?
それともシン・市場人は、(わけがわからん)農家のおっさんと話をするのは時間のムダと考えているのでしょうか?

いちばは、生産者がハッピーになり、花屋さんがハッピーになって、ハッピーになれる業種。
みんながハッピーになれるように、業界の悪弊に染まっておらず、フレッシュな頭脳の「シン市場人」が、品質がほとんどおなじなのに安い理由(わけ)を生産者に伝えてください。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.417. 2024.2.25)

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