希少植物と園芸植物、盗掘と山採りを考える | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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宇田 明が『ウダウダ言います』、『まだまだ言います』に引き続き、花産業のお役に立つ情報を『もう少しだけ』発信します。

愚ブログの守備範囲は、生産園芸、生産花き。
農家が花を栽培し、その生産物を販売して、生計を立てる経済活動。
花農家、市場・仲卸、花店などと、その関連企業の業界。
つまり、「儲けてなんぼ」の世界。


花・植物の世界には、経済活動と縁がない分野がたくさんあります。
そこが、おなじ園芸仲間でも、野菜や果樹とちがうところ。
経済活動と無縁のひとつが植物保護。
世の中には絶滅した、あるいは絶滅しかかっている植物がたくさんある。
植物だけにかぎらず、哺乳動物や鳥類、魚類、昆虫・・。
日本のそれらは環境省のレッドリストにくわしい。
長くなりますが引用します。


環境省レッドリスト
https://ikilog.biodic.go.jp/Rdb/

地球上にはさまざまな種類の野生生物が生息、生育しています。
その数を正確につかむことはできませんが、500万とも5,000万とも言われています。
これらの生物は、地球上に生命が誕生して以来のおよそ40億年という永い進化の歴史のなかで生まれてきたものです。
また、その進化の過程では、絶滅して地球上から姿を消してしまった生物ももちろんいます。

恐竜は、もっとも分かりやすい、よく知られた例でしょう。
このように、絶滅することも自然のプロセスなのです。


しかし、今日の絶滅は、こうした自然のプロセスとはまったく異なるものです。
さまざまな人間活動の影響で、かつてない速さと規模で絶滅が進んでいます。
森林伐採や埋め立てなどの開発による生息地の破壊や消滅、農薬などによる環境汚染、毛皮や牙、羽毛、そしてペットや鑑賞などを目的とした乱獲、元々いなかった生物を持ち込んだことによる圧迫、さらに里山などでは、そこで暮らす人々の生活スタイルが変わってしまったために姿を消した生きものも数多くいます。
こうした原因が単独で、あるいはさまざまに重なり合って、今、多くの野生生物が絶滅の危機にさらされているのです。


レッドリストとは絶滅のおそれのある野生生物の種のリストです。
これに対して、レッドデータブックとは、レッドリストの解説として掲載種の生息状況等をとりまとめ編纂した書籍です。
レッドリスト及びレッドデータブックは、専門家による科学的・客観的評価により作成されています。
レッドリストにより、絶滅のおそれのある野生生物を的確に把握することができ、また一般への理解を広げることができます。
環境省では、これらの目的のためレッドリスト及びレッドデータブックを作成・公表しています。


そんな絶滅が危惧される植物の保護活動を紹介する、伝統園芸研究会の小さなシンポジウムがオンラインでありました。

伝統園芸研究会
東海大学名誉教授 田中孝幸さんが主宰する会費なし、規約なしの研究会。

メールで、古典植物だけでなく、あらゆる植物に関する情報交換。
田中先生にメールを入れるだけで誰でも会員になれます。
ttanaka@agri.u-tokai.ac.jp


第17回伝統園芸研究会(オンライン) 
日時:2022年 9月8日(木)
 1. 京都の「和の花」保全と普及啓発 ~フジバカマ、キクタニギク、オケラなどを例に~ (公財)京都市都市緑化協会 佐藤正吾 
2. 阿蘇の草原植物の現状と草原再生 NPO法人阿蘇花野協会 瀬井純雄

今回は、希少植物の保護から園芸植物と生産園芸を考えます。


NHK日曜日、大河ドラマ前の「ダーウインが来た」で放送された阿蘇の野焼き

(2022年9月4日放送)
その活動をされている「NPO法人阿蘇花野協会」瀬井純雄さんの報告

 

NPO法人阿蘇花野協会

http://www.asohanano.com/about_us.html



画像 阿蘇草原の野焼き

   会員の高齢化などで野焼きすることが困難になってきている

 

なぜ野焼きをするのか?
目的のひとつが、ススキ草原に生息している希少植物、絶滅危惧種を守ること。
ススキに覆われたままでは、希少植物が十分な生育ができない。
野焼きをして、土中のタネ、根、球根を新たに生育させることで種を保全。


どんな植物か?
ヒゴタイ、ハナシノブ、マツモトセンノウ、ヤツシロソウ(カンパニュラ・グロメラータ)、カワラナデシコ・・。


小花(こばな)、野草風切り花やデザインを好む花屋さんや仲卸、市場担当者は首を傾げるでしょう。
それらはふつうに流通している商品、それぞれの開花時期には花屋さんで買える。
それなのに、なぜ絶滅危惧種?



画像 絶滅危惧種「ヒゴタイ」と、普通に流通している「エキノプス・ベッチーズブルー(ルリタマアザミ)」と はどう違うのか?

 

わたしのこたえ、
「それが園芸だから」。


珍しいもの、美しいものを所有したいのが人類のDNA。
山野できれいな花を見つけると、自分の庭で育てたい、愛でたい。
他人が、きれいな花を持っていたら、自分も欲しい。
希少植物なら、なおさら。
かくして大量生産され、商品となり、売買される。
それが園芸。


いったん、ひとの手を経ると、野草はすぐに園芸植物にかわる。
ひとの好みで選抜され、さまざまな交雑がおこる。
見かけはおなじようでも、内的な特性は変化。
名前は変わらなくても、遺伝的には変わる(はず)。
外的にも花色、花型、花の大きさ、草丈など変化してゆく。
野生種は絶滅しかけていても、園芸植物としては成長しつづけることができる。
それが園芸。


園芸はもともとプラントハンター、プラントハンティングで発達してきた。
世界の有用植物、珍しい植物を本国に持ちかえり、栽培、増殖。
これは、大航海時代やその後の列強帝国主義時代の欧米だけではない。
わが国でも、はるか昔、遣隋使、遣唐使はプラントハンターでもあった。
さまざまな有用植物を持ちかえった。

 


画像 遣唐使

    命がけで唐にわたり、先進国から多くのことを学んだが、優れたプラントハンターでもあった

 

その後も、大陸に学んだ留学僧や、渡来人などにより、多くの植物が日本にもたらされた。
たとえば、「日本」と名前がつけられている「日本水仙」。
日本固有種ではなく、原産は地中海沿岸、
唐の時代に、シルクロードを通って中国へ伝来、
日本へは室町時代に渡来。
海路漂着説と、留学僧が球根を持ちかえったとする説がある(樽本勲2016)。



画像 淡路島南岸の水仙郷

    中国上海付近から、球根が海路流れ着いたといわれているが・・・

 

海外に新規植物を求めただけではない。
身近な山野に生えるきれいな花や葉の植物の採集は、いまも続いている。
趣味家だけではない。
生産園芸も山野に依存することがある。
たとえばリンドウ。
いまのようなメジャー切り花になる1970年代までは、山野に自生している株を採集。
それを畑で育てて切り花を販売。
その後、タネから育てられるようになり、品種改良、大量生産が可能になった。


現在は、

海外へのプラントハンティングはワシントン条約などで原則禁止されている。

国内であっても、

希少植物の採集には制限がある(環境省「種の保存法」)。

https://www.env.go.jp/nature/kisho/hozen/hozonho.html

 



図 環境省「種の保存法」概略

 

阿蘇の希少植物が絶滅しかかっている要因、
環境省は、

営農形態の変化に伴う草原や里山などの維持管理の放棄と、「盗掘」をあげています。


時代が変わっています。

「盗掘」と「山採り」はどう違うのか?



次回は、
希少植物と園芸植物との関係、
絶滅危惧種を保存するために、栽培する場合の問題点を考えます。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.344 2022.9.18)

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