ホームユース用切り花の栽培技術はさまざま | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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前回、前々回には、

ホームユース・フラワーは提唱されて25年たつが、未だに定着していない理由を考えました。

2020年7月26日「25年たってもホームユースの花が定着しない理由(わけ)」

https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12613297070.html

2020年8月2日「ホームユースが定着しない理由の隠れ1位は生産と小売のマッチングができていない」

https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12614834491.html


この「定着していない」は、厳密には正しくありません。
ホームユース販売の主力である量販・スーパーの取扱金額は年々増えています。
スーパーで野菜や肉など食料品を買ったついでに、仏花や家庭に飾る花を買うことは、もはや日常。
スーパーのパック花=ホームユースと考えると、ホームユースはかなり定着しています。

 

定着していないのは、

ホームユース用切り花の生産です。
その原因は、

「(1位)単価が安くなるため、生産者が作りたがらない」。

技術的には、「(4位)短茎栽培技術が普及していない」。

「卸売市場が考えるホームユース用切り花が定着しない理由(農水省2009年)

今回のお題は、「短茎栽培技術」を考えます。


その前に、花屋さんがホームユース用として売る切り花を調達する方法をみてみましょう。
その方法には、「小売主導」と「生産主導」があります(図1)。


図1 ホームユース用切り花の調達方法には「小売主導」と「生産主導」がある

 

1.小売主導
現状のホームユースはこのかたちです。
生産者はなにもしない。
花屋さんにおまかせ。

 

生産者は、

秀2L、高単価を目指して生産しているが、同時にM、Sもできてしまう。
それらを等階級で選別して、市場へ出荷。
専門店、量販・スーパー、加工業者は、それぞれのホームユース商品にあう等階級および価格の花(ほとんどはM、S)を選択して仕入れる。


生産者がのぞむ市場価格がでない一因は、ここにある。
生産者は、

高単価が期待できるブライダルなど業務需要を目的に、生産し出荷。
業務需要に買われるのは一部。

多くは量販・スーパー、加工業者のホームユース需要に安く買われている。
生産者側と販売側とのミスマッチ。
いちばにはミスマッチを解消する力が不足。


2.生産主導
生産側が積極的にホームユース需要に関与する。
高価格な業務需要とは区別して、生産。
現実に動いているのは、「スマートフラワー」、「アジャストマム」などのブランド名でよばれているごく少数。


ホームユース規格生産の前提は、安藤敏夫先生提言の生産・流通・販売3者の合意。
つくる前に、

品種、規格(茎の長さ、太さ、輪数、切り前、脱葉など)、数量、納品日、出荷形態、単価などを取り決める。

このように積極的に関わることで、市場価格が底上げされ、売上がアップする。

さらに、3者の合意(契約)で、収入が安定する。



図2 安藤敏夫先生が提唱するホームユース・フラワー(カジュアルフラワー)の概念

 

ホームユース規格をどのようにつくるのか?


ホームユース規格は、茎が短く、ボリュームが小さいので、単価が安い。
それを、面積当たり収量を増やすことと、生産・流通コストを減らすことでカバー。
収量増のひとつが「短茎多収」とよばれる栽培技術。

「ホームユース=短茎多収」とひとくくりで語られるが、中身は品目ごとに異なり、さまざま。


以下にその多様性を紹介します。
(切り花規格、等階級は品目、産地でさまざまですが、以下の説明では、「2L、L、M、S」と表現しています。)

①ホームユースに対応できない品目(バラ)
消費者には、バラは憧れの花。
バラの花に囲まれて暮らしたい。
しかし、

国産のバラはそんな消費者の要望に応えることはできない。


国産のバラ生産は重装備で高コスト体質。
暖房はもちろん、夜の冷房、昼間の冷房、炭酸ガス、養液栽培などコンピュタで複合制御。

施設栽培で考えられるすべてを装備しなければ、高品質なバラはつくれない。
設備投資ができない生産者はすでに脱落。

いま残っているのは高コストだが高単価な優良経営の生産者。
つまり、

バラ生産者は「金銀飛車角」ばかりで「歩」がない将棋。
「金銀飛車角」が量販・加工業者に安く売っては経営できない。


画像 国産バラ生産者は、「金銀飛車角」ばかりで「歩」がいない

 

バラの市場入荷量の16%は量販・加工業者のホームユース需要(図3)。
これらは国産ではなく、ケニア産などの輸入品。
したがって、バラのホームユースは輸入に任せる。
国産はブライダルや高級ギフトなど高級品生産に専念。



図3 バラの用途を推定(2017年)

    なにわ花いちばの販売先データから推定(以下、同じ)

 

②用途がホームユース用(スプレーマム、スプレーカーネーション、ガーベラなど)
スプレーマム、スプレーカーネーションなどの用途はホームユースが60%前後(図4、5)。

(2013年の推定値で少し古いですが、現在もさほど変わらないだろう)。

図4 スプレーマムの用途推定(2013年)

 


図5 スプレーカーネーションの用途推定(2013年)

 

花の数が多く、逆三角形でスリーブに収まりがよい。
水あげ、日持ちがよく、ロスが少なく、取りあつかいやすい。
輸入が50%以上を占め、いつでも潤沢にある。
なによりも、価格が40~50円(税別)で安定していることがホームユースとして魅力。


ガーベラも用途は万能で、ホームユースの必需品。
花型が単純明快で、鮮やかな花色が家庭を華やかにする。
輸入がなく国産だけにもかかわらず単価30円はホームユースの優等生。


これらの品目は、

ホームユースを意識した特別の栽培技術はいらない。
通常の栽培技術を向上させるだけでよい。
高価格帯のマーケットが小さいので、収量増をめざす。


③年間作付回数を増やす(輪ギク)
輪ギクは、

仏花の主役であり、和花セットなどホームユースの主役でもある。
仏花・ホームユース規格の40~70cmの短茎で収穫すると、生育期間が短くなるので、年間の作付回数が増え、結果として収量が増える。
また、

短茎栽培では植えつけ本数を増やせる(密植)ので、この点でも収量が増える。
なお、

2020年6月14日「コロナ渦がチャンス!輪ギクの規格を80cmにして国内生産を守ろう」

https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12603860222.html

では、輪ギクの規格を現在の90cmから80cmに10cm縮めることを提唱しました。

これは、

「通常品の2L規格を80cmにする」であり、

「ホームユース規格を80cmにする」ではありません。

ホームユース規格は40~70cmでさらに短い。


④生育期間短縮によるコストの削減(小ギク)
輪ギクと同じ原理。
丈が短いと、

植えてから花が咲くまでの期間が短くなる。
小ギクは、露地で年に1作だけなので、生育期間が短縮しても、メリットが見えにくい。
しかし、

生育期間が短くなると、その間の水やり、肥料やり、農薬散布などのコストが減り、その労力も減らせる。
なによりも、

無理をして草丈を伸ばし、ボリュームをつける必要がないので、高度な栽培技術がいらない。
そのため、

ブランド力がある小ギク専業産地にはホームユースは適さない。
高齢者、女性、定年帰農者などによる集落営農や、ハウス専業農家の副業に適している。
相場が乱高下しやすい露地小ギクにとって、量販・加工との契約で価格が決まり、売上が安定することは大きなメリット。

画像 滋賀県のホームユース用小ギク栽培(アジャストマム)


2018年8月19日「滋賀県の挑戦-女性、高齢者、定年帰農者で国産の花を守る-」

https://ameblo.jp/awaji-u/archive-201808.html


⑤頂芽優勢を利用して収量増(STカーネーションなど)
1株から何回も切り花するカーネーションやバラでは、花を短く切るほど、次の花が早く咲く。
花を切った後に残る葉(節)が多いほど、次の芽が早く伸び、花が早く咲く性質を、頂芽優勢(ちょうが・ゆうせい)という。


カーネーションの通常切り花は65~70cm。
ホームユース用として40~50cmの切り花にすると、頂芽優勢で次の花が早く咲くので、収量が増える。
カーネーションは短茎多収の代表的な品目。


バラも同じ原理だが、現在多いアーチングおよびその変形では、葉(節)を残さずに切るので、短茎多収には適さない。
また、

①で説明したように、バラにはホームユース生産は経営的に適さない。

⑥密植(トルコギキョウ)
トルコギキョウは、

品種改良と栽培技術の向上が大成功した品目。
おかげで、高単価な切り花の代表にもなった。
しかし、ホームユースには大きすぎるし、高価すぎる。
皮肉なことだが、

ホームユース用に小ぶりにつくるには昔のつくりかたを思い出せばよい。
生育期間が短い(したがって草丈が低い)早生品種を、10a(1,000㎡、300坪)4万株の密植(昔の標準)にする。


⑦通常栽培のMSに付加価値(リンドウ)
短茎多収技術がないリンドウのような品目は、通常栽培ででるMSを活用する。
花農家の経営向上の手段は、秀品率を高め、二級品やM、Sを極力少なくすること。
産地ブランドを維持するため、M、Sは廃棄し、出荷されないことが多い。
出荷しても、セリにかかれば二束三文。


現実は、

それらが仏花などのホームユースにつかわれている。
それならば、

産地が積極的に関わるほうがよい。
M、Sを、3者の合意のうえ、ホームユース用の商品としてブランド化して、付加価値をつけることで、売上を増やすことができる。


⑧MSが多い品種選択(カスミソウなど)
通常栽培のMSを活用するだけでなく、積極的にMSが多い品種を選ぶ。
MSが多いことは品種、経営としてはマイナス。
マイナスをホームユース用としてプラスにかえる発想の逆転。
単価は安いが数量が多く、選別、出荷コストなどが削減(荒選別)できる。
量販・加工業者は、通常品の枝をばらしてホームユース用とする手間が省け、両者がウインウイン。

 

その他、球根切り花や草花類がありますが、紙面の都合で紹介できません。

次回は、ホームユースを総括します。

 

宇田明の『まだまだ言います』」(No.239 2020.8.9)


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