市場法が改正されましたが、それがなにか問題でも?(その1)市場法の本質を裏読み | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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今回のお題は、2018年6月15日に国会で成立した改正卸売市場法(新法)。
法律家のような条文の逐語的解説ではありません。
池上彰さんのような学識豊かな解説でもありません。
市場法を裏読みする「なんちゃって解説」
市場法の生いたちから、その本質を裏読みして、

今回と次回で「なんちゃって解説」します。

画像 改正卸売市場法が2018年6月15日、参議院で採決され、成立しました

    「それが、花産業にどんな役に立つのでしょうか?」

 

1.市場法、改正の要点
改正というより、新しい法律ができたと考えるほうがよいかもしれません。
旧市場法では83条が、新法では19条。
ずいぶん、スリムになりました。
政府や規制緩和論者は市場法自身を廃止したかったようですから、

過度な規制や手続を削り、コンパクトにしたのでしょう。



画像 政府の本音は市場法廃止でした(日本農業新聞 2017年6月21日)

    規制緩和、自由競争になると、業界は「それは困る!?」

 

改正の要点は2つ。
①国の規制を少なくして、取引ルールをできるだけ自由化

 花業界からすると、実体に法律が近づいた程度で、自由化にはほど遠いでしょう。

 「受託拒否の禁止」は残ったのか?廃止されたのか?


②市場法よりも、同時に改正された「食品等の流通の合理化および取引の適正化法」が

今後は重要
食品等の「等」が「花」です。

内容がよくわかりませんので、この法律には触れません。



画像  改正卸売市場法成立(日本農業新聞 2018年6月16日)

     「市場開設に民間企業が参入することに、なにか問題でも?」

 

2.市場法を考えるポイント
①花はつけたし
市場法は、花だけの法律ではありません。
むしろ、花はつけたし。
対象は、「生鮮食料品等」
生鮮食料品とは、野菜、果実、魚類、肉類、
加えて、その他一般消費者が日常生活の用に供する食料品および「花き」。
(ああ、そうそう、花も入れておこうか・・)
花のためにつくった法律ではありません。


②市場開設者と卸売市場のちがい
市場法がいうところの市場は、

生産者や花屋さんがイメージする大田花きやFAJではありません。
市場とは「市場開設者」、

つまり、大田花きやFAJが入場している「中央卸売市場大田市場花き部」のこと。
開設者は東京都で、市場の建物、付帯設備をもつ家主さんであり、

公正・公平な市場取引の監督者ですが、日常的に存在を実感することはありません。
開設者は顔が見えません。
なお、大田花きやFAJは、

開設者である「中央卸売市場大田市場花き部」に家賃を払って入場し、

営業している「卸売業者」です。

図 卸売市場の構成

  市場法のがいう市場とは「開設者」のこと。

  大田花きやFAJは、開設者に家賃を払い、営業している「卸売業者」

  仲卸や資材業者も同じ

 

③中央卸売市場と地方卸売市場
これも、大田花きやFAJなどの卸売業者ではなく、顔が見えない開設者の分類。
市場法の「中央」と「地方」は、一般的な東京と地方ではありません。
市場を開設するときに、農水大臣から中央卸売市場として認可されたか、

都道府県知事から地方卸売市場として許可されたかのちがいです。
さすがに、東京都内は中央卸売市場ばかりですが、

仙台市、横浜市、佐世保市、神戸市など19の地方都市にも中央卸売市場があります。
中央卸売市場を開設できるのは地方自治体だけ。


地方卸売市場は地方自治体に加え、民間企業、第三セクター、農協も開設できます。
中央は地方より公的性格が強いといえます。
農水省や日本農業新聞、専門家が論じているのは中央卸売市場のことであって、

地方卸売市場はほとんど無視。

表 卸売市場の開設者の分類

 (市場数は宇田調査、中央卸売市場が地方卸売市場に変わったり変動がある)

 

3.市場法を貫く精神
(1)食糧至上主義
①花を重視していないのは、この法律の生いたちにあります。
改正前の市場法は1971年(昭和46年)に制定されましたが、

前身は1923年(大正12年)にできた「中央卸売市場法」です。


中央卸売市場法をつくるきっかけは、1918年(大正7年)におこった米騒動。
米の値段が高騰、庶民の生活は困窮。
地主や商人による米の売り惜しみ、買い占めが横行し、社会不安が高まった。
庶民の怒りの矛先は、米問屋など大手商人に向けられ、

米問屋を打ち壊すなどの食糧暴動に発展。

画像 米騒動

   1918年(大正7年)米の値段高騰に怒った庶民が米問屋を打ち壊し

 

治安対策、社会政策のために制定されたのが「中央卸売市場法」
その精神が、いまの法律に引きつがれている。
つまり、治安対策のために、都市に開設する「中央卸売市場」に、

国民へ「食糧を安定供給」させるための法律です。
食糧至上主義のため、花は法律の対象外でした。

というよりも、このときにはまだ花市場はできていなかった。


この大正時代にでき中央卸売市場法が、

1971年(昭和46年)に「卸売市場法」になり、

野菜、果実、魚類、肉類の「生鮮食料品等」に、花が加えられました。

画像 大正12年3月29日 中央卸売市場法公布

    大正天皇と摂政皇太子(昭和天皇)の御名御璽 


②食糧至上主義であるにもかかわらず、

日本人の主食である米がなぜ市場法の対象になっていないのか?
米は、日本人の血肉、米があって農村があり、国土がある。
社会政策、農村対策のため、市場経済に任せることはできない。
国家が直接、間接的に統制をしています。

「中央卸売市場法」をつくるより先に、

1921年(大正10年)に「米穀法」を制定し、統制をはじめています。
米穀法は、1942年(昭和17年)の戦争中に統制を強めた「食糧管理法(食管法)」になり、

米余りで時代にあわなくなった1995年(平成7年)に、やっと廃止され、

「食糧法」に改められました。
法律はかわっても、米は直接的、間接的、強い、弱いはあっても国に統制されています。


食糧法の正式名称は「主要食糧の需給および価格の安定に関する法律」です。
この「主要食糧」を「花」にかえた「花の需給および価格の安定」こそ、

いま花業界が強く求めていることです。
しかし、市場経済の申し子である花産業の生い立ちからして、

こんな法律ができることは決してありません。
業界として、「需給および価格の安定」を果たさなければ、

だれも助けてはくれません。

(2)中央卸売市場はメジャーリーグ、地方卸売市場はマイナーリーグ
市場法の前身が「中央卸売市場法」ですから、

法律が重視しているのは中央卸売市場で、地方卸売市場はつけたし。
法律では、中央卸売市場は「広域的な流通の中核的拠点」、

地方卸売市場は「地域における集配拠点」と定められています。
つまり、中央卸売市場が正選手なら地方卸売市場は補欠。
また、都道府県知事が中央卸売市場を管理監督し、

中央卸売市場としての役割が果たせていないと判断すれば、

地方卸売市場への転換を命じることができます。
つまり、中央から地方への降格。
中央卸売市場がメジャーリーグなら地方卸売市場はマイナーリーグ。


(3)官公は正しい、民間はあやしい
花が属する農業の世界は、官尊民卑。
「官公は正しい、民間はあやしい」
農村、農協を基盤とする日本農業新聞も同じ思想のようです。

 

日本農業新聞が率先して、

新法では「自治体関与が後退」、「民設公正さ不安も」と、

「官公(公設)は正しい、民間(民設)はあやしい」を主張しています。

画像 改正市場法、自治体関与が後退して、民設になると公正さ不安?

   (日本農業新聞 2018年6月12日)


(1)食糧至上主義、

(2)中央メジャーリーグ・地方マイナーリーグ、

(3)官公正しい・民間あやしい

この3つが、旧市場法を貫く精神でした。
このことを知っていないと、市場法改正の意義が見えてきません。

次回は、

新法はどれだけ自由化されたか、

業界は自由化をのぞんでいるのか、などを「なんちゃって解説」します。

昨年の解説をもあわせてお読みいただければ幸いです。
2017年12月17日「花いちば創立記念日に市場法改正を考える」
https://ameblo.jp/awaji-u/archive3-201712.html
2017年12月24日「「シャンシャン」と「ゆいひん」の格差から市場法改正を考える」
https://ameblo.jp/awaji-u/archive2-201712.html

 

「宇田明の『まだまだ言います』」(No.127 2018. 6.17)

2015年以前のブログは

なにわ花いちばHP(http://ameblo.jp/udaakira)でご覧頂けます