『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書)で大佛次郎論壇賞を受賞した俊英の2冊目の単著である。前著でアラブ社会を映し出す鏡として現代イスラーム思
想に切り込み、高い注目を集めた著者は、九・一一事件以降、中東地域が世界政治の中心課題になるにつれて、絶え間なくアラブの現在を読み解く時論を書き続 けてきた。これらの時論に注釈を含めて加筆訂正の上、テーマ別に再構成したのが本書の主要部分である。
扱われたテーマの幅広さは瞠目(どうも く)に値する。大事件が起きた直後に書かれたいわば瞬間的反応から長めの論文まで含まれており、後者ではエジプトやカタール(アル=ジャジーラの開設を許
した国家)の外交戦略、テロ後のアラブ思想の状況、アラブの経済的課題、文明間対話にとってイスラームや自由主義が抱える課題の理論的分析、イラク戦争と 戦後復興などが扱われている。主題の変奏についていくのはいささか苦労するが、その内容は例外なく的確かつ平易に問題の所在と自己の見解を明らかにしてお
り、筆者の理解力と表現力の高さを示している。
全体を通底する問題意識があるとすれば、異文化理解の担い手として地域研究者が果たすべき役割に 対する反省であろう。ともすれば日本のアラブ、イスラームの専門家は、一般社会の理解不足を難じる一方で、言語の難解性や専門性をタテにして、自己の思い
入れや価値観に基づいた地域像を描く傾向があったのではないか。たとえば「イスラームは本来、寛容な宗教である」という言説は、全くの間違いではないにせ よ、現代的視点からは多くの留保がつけられざるを得ないという筆者の指摘は説得力がある。
恐らく筆者
の指摘は、中東
に限らず、日本人が外の世界 を理解しようとする際に常に意識
しておくべき点であろう。「ブッシュ政権はネオコンに支配
されている」とか「中国は中華支配の復興を狙っている」といった
単純なきめつけこそ、これからの日本人が世界とつき合う上でまず避けるべき姿勢だからである。その意味で本書は国際問題
に興味のある読者
に広く読まれるべ き好著である。