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<現地発>中米政治・経済・社会についての考察&見聞録

長年中米に在住する某国政府経済情報局部長である経済学博士が繰り広げる、最新の中米の政治・経済・社会に関するクリティカル・ディスカッション。日本との関係や違いを考慮し、小国ではあるがバライエティーに富んだ中米各国、また中米域全体の魅力についてのご紹介。

コスタリカでドル化法案が議会に提出された。民間の国家経済促進協会(ANFE)が提出したものだが、目的はコスタリカの通貨を米ドルへと変えることによって、他のセクターを犠牲に特定の産業セクターを優遇する為替工作の可能性を無くし、為替の安定を保つ為との事。同国では昨今、経済事情では正当化出来ない程、コスタリカ・コロンが米ドルに対して切上げされており、中央銀行が国全体の利益より特定の産業セクターを優遇している結果だと批判が出ている故に、今回の法案が出たものだ。

場所を変えて、エルサルバドルは2001年から完全ドル化となっており、コロンはもう見かけることが無い。法的にはドル化以前に通貨だったコロン(コスタリカのコロンとは無関係)で売り買いが出来るが、その紙幣が一度銀行などの金融システムに入るとドルに変えられてしまうので、コロンを見かけなくなってから久しい。エルサルバドルでもドル化に突入した当時、ドル化支持者はコスタリカ同様の理由を元に通貨変更の必要を唱えた。

それから10年近くの日々が経ち、支持者が言う通りにエルサルバドルでは金利が下がった故に資金調達コストと共にインフレ率も下がった。但し、通貨の切り下げが出来ない為にエルサルバドルの輸出物品が、通貨切り下げ出来る競争相手の物に比べて競争力が減り、逆に輸入品が安くなった為に既に消費過剰になっていたエルサルバドルの消費経済の悪い性格が一層顕著になった。為替の安定に関しては、エルサルバドル・コロンは90年代の殆どの期間において安定しており、この要素においてはドル化がもたらす利益は当初より無かった。よって、もしドル化が実際に何かに役立てたのなら、サルバドルの長期経済成長へのインパクトだが、上記の如く10年近く経った今でもドル化の好影響は見当たらないどころか、エルサルバドルは中南米でも最低レベルの経済成長率しか達成出来ない国となってしまった。

エルサルバドルの場合は、アメリカ在住のエルサルバドル国民から送付される多額の家族送金が同国経済の生産に対して重要な抑制効果を課しているが、コスタリカにとってはこの問題は殆ど存在しない。だが、既に中米域内では経済レベルが高く、高度成長を達成しているコスタリカにとってドル化が本当に正当な経済政策であるのか、或いは、もしドル化をしてもコスタリカの高度成長は今まで同様、留まる事無く維持出来るのか、大いに疑問であり懸念される。

毎年起こることだが、5月になって雨季が中米に到来する事は、土砂崩れや洪水などの水害の再来を意味する。今年も勿論例外ではなく、昨日から中米北部の太平洋沖に熱帯暴風雨アガサが発生し、グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグアで大雨が降り、土砂崩れの為にグアテマラで4人の死者が確認されている。降雨の度合いは明日30日まで増えることが見込まれており、事態は悪化する恐れがある。


暖かい南国の国々の中米の気候条件は凡そ年間を通して最適だが、天災に十分に備えた居住条件を満たしていない貧民が多く存在する為に、残念ながら毎年水害などの影響により多くの死傷者及び避難民が発生する。貧民が多ければ、その貧民などの税金で成り立っている各国政府も勿論、国民のニーズを満たす事が出来ない程の財政困難にいるのが日常茶飯事なので、十分なサポートが出来ない状態でいる。結果として中米各国の災害対策は、日本等先進国の国際援助に依存する面が大きい。


日本の財政も困難な状況に陥っており、他国に協力する余裕は無いと言う世論もあるかも知れないが、国際協力のお陰でどれだけの命が救われているかを認識する事が出来たら、日本国民も国際援助額の維持、或いは増加を惜しむ気持ちも和らぐのではないだろうか。

世界金融危機の為に日本経済も大きな痛手を負ったが、日本同様に中米各国のアメリカ経済への依存度も高く、程度の違いはあるにせよ2009年は経済発展が停滞、或いは後進した年となった。中米域のGDP2000年から2008年までUS$7.1兆からUS$13.4兆へと順調に増えたが、2009年はUS$13.2兆に減り、一人当たり実質GDP2009年は前年比2.3%減少した結果となった。中米とは言っても国により所得レベルの差は顕著であり、高い順に並べるとコスタリカとパナマは一人当たり約US$7,000、エルサルバドルとグアテマラはUS$3,000前後、ホンジュラスはUS$2,000、ニカラグアはUS$1,000と続く様に、貧困へのインパクトは国によってまちまちだ。



中米にとって貧困撲滅は重要課題であるが、国レベルの財政基盤が確固たるものでないと貧困問題にも手が出せない。そこで中米で懸念されているのが財政状況だが、今般の経済危機の為にGDPに対し財政赤字は2008年の1.0%から2009年は3.5%へと大きく増大した。2000年代は一時2002年と2003年に財政赤字が約3%にまで増えたが、2008年までの平均は約1.5%だったので大幅に増えた事になる。



財政赤字増大の理由は、主に消費の大幅な減少、また景気後退に対する反循環政策の支出によるもの。税収源の内で特に減少幅が大きいのが輸入、また消費の減少に伴う税収だが、それに対して内需促進目的の支出が増えた。例えばエルサルバドルでは金融以外の政府収入は11%減ったが、支出は3.4%増えた故、財政赤字が2008年はGDP比で1.0%だった所、2009年は3.7%となった。



上記の結果、中米各国では公的債務が増えた。例えばエルサルバドルではGDP比で2008年に44%だったものが2009年には52%に上がり、50%の壁を越した形となった。この値は、大いに危ぶまれるべき日本の190%に膨れ上がったGDP比公的債務には及ばないが、中米でも昨今の経済成長率はさほど高くなく、コントロールが効かなくなり雪だるま式に増大する懸念があり、中米経済統合銀行も中期的には、財政状況の悪化が今般の中米各国のマクロ経済安定にとっての最大のリスク要因の一つであると唱えている。



中米ではGDP比の租税負担率が約15%と日本の23%に対して低く、上記の状況に対して長らく後回しにされてきた財政改革が今こそ必要になってきており、各国政府がそのための準備を進めている。民間からの反対圧力が強まる一方財務赤字のレベルが上昇しており、経済・社会発展の支柱の一環であるマクロ経済の安定を維持する為には、今や財政改革の実施は必至だ。