―― 虚の軼詩 はじまり No.2 ――
――帝社
ここは最高神である上帝が在るべき場所。
中は薄暗く、奥に行くほど闇に満ちていく。
そこへ一人の男が入ってくる。
「…上帝様、報告いたします」
「どうした」
暗闇の中から、応える声がする。
上帝は決して、他の者の前に姿を見せない。
「煇の姫(きのひめ)さまが…汞瀏(こうりゅう)と共に堂を出ました」
「……」
黙り込む上帝が何を考えているのか、それは誰にも分からない。
やがて、暗闇の先から足音が聞こえてくる。
どうやら誰かこちらに向かってきているようだ。
男はハッと息を詰まらせる。
現れたのは、煇の姫と同様に上帝のお気に入りである少年。
その名は…いや、その通り名は琳の皇(りんのきみ)と言った。
こうして人前に出てくるのもかなり珍しく、男は片膝を着き息を潜める。
「…アイツはどこに行った?」
”アイツ”とは、煇の姫のことだろうか。
男は顔を伏せたまま、応える。
「ただ今、兵が後を追っております」
「おい、いいな?」
その言葉は上帝に向けられており、そもそも上帝にこれほどの態度をとれるのは
彼くらいだった。
「…いいだろう。行ってこい」
許しがでたので琳の皇は口元を緩ませ、スッと姿を消す。
琳の皇は見てくれは全くと言っていいほど『人間』であったが、その力は姿に似合わぬほど
強かった。
そしてまた煇の姫にも特殊な力があるというが、それを見た者は天界にはいなかった。
――つづく。