宿坊の朝は早く、まだ暗い5時ごろから
あちこちから、ほら貝の音がする。
かすかに太鼓の音も交じってるぞ。
ほら貝の生音、なかなか聞けないですよ?
町全体で一斉に鳴るんですよ?
もうお寺系は修行が始まるようだ、早いな!
静山荘の滝修行も朝早く、朝6時に出発だ。
1時間程、山道を滝まで歩き
とある東屋に着く。
え?
着替え、ここ?
東屋、屋根も柱もあるけど
壁が全く無いんですけど?
「ここで着替えて、下に降りてきてください。用意して待っているので」
そう言って崖を、スタスタと降りていく神主さん。
待たせては申し訳ないと、白装束に着替え
2人で降りていくと
「今日は今年一番の寒さだそうで、滝の水量が少ないですが、水は冷たいので、しっかり準備運動をしましょう」
祝詞に合わせて、船をこぐような、運動をしばしする。
え?滝?
チョロチョロとしか流れてないのですが、
どうやって滝に打たれるの?と、?の私達。
「私が祝詞をあげている間、手は印を結んで、
しっかりと滝に背中を付けて入って下さい」
順番は、神主さん、私、娘。
所作は神主さんを真似ればいいらしい。
神主さんが終わり
「次の方!」の声と共に水に1歩
ヒェぇええええ
冷たいッ、これ凍ってないだけで、0度近いのでは
腰まで滝壺に浸かった時には
冷たい→痛い→痺れる→体の感覚がほぼ無い
それなのに背中を流れる水が痛い
しばらく頑張ったけど
もぉお、無理っ 祝詞は途中だけど無理無理
「もう無理です、リタイヤしますッ」
岸に向かってザブザブ歩く私。
神主さんの「次の方」の声と共に
入れ違いに入ってくる娘
娘に「ダメだったらママみたいに、リタイヤしていいからね」
と目で訴えかけておく。
根性ある娘は祝詞の最後まで浸かってた。
そして、待ってる間、濡れた白装束が体温を奪っていく。
「風邪を引かないよう、素早く着替えて帰りましょう」と神主さん。
ブルブル震えて体の自由が効かない私たち。
ペンギンのようにヨチヨチ(ヨタヨタ?)と崖をのぼり
東屋に着き「とにかく、娘を着替えさせねば」と凍えた手で
バスタオルで娘の髪を拭いていると、髪が白くなっていく。
なんの怪奇現象だよ!
軽くパニックになりながらよく見たら
霜?
寒さで髪が凍ってきてる。
どんだけ寒いんだよ。
濡れてる白装束を娘から引き離し、畳んでると
ものすごくノリの効いたシーツみたいになってきて、畳みずらい。
何これ?
「ママ、それ凍ってるよ」
マジか! 人生初めての経験だぞ。
娘を着替えさせた後「ママも早く着替えた方いいよ」と
凍えた手でモタモタと着替える。
着替え終えた途端、耳にごぉぉぉっと血液が流れる音を感じる。
耳だけでなく、全身の血管に血液が流れるのを感じる。
なぜか、「手のひらに太陽を」の歌詞が浮かんだ。
血って熱いんだね。
手の先まで血管が開いて、
流れる血潮と熱さを全身で感じる。
体って危機的状況になると、こうなるんだ?
命が懸命に生きようとしているサマを
一歩引いて、冷静に観察してる自分に、
なんかちょっと笑えた。
自分の体なのに、
外から見てるかのような感覚が面白いなと。
帰りの山道を歩いている間ずっと、
命が必死に体を生かそうとしている
その感覚がしてた。
静山荘に着くとすぐ、朝風呂に入れてもらえて
「よく温まって下さいね」と。
十分、体は暖かかったけれど
ご厚意に甘えて、二人で風呂に入った時、ぽつりと娘が
「帰り、斜め上から自分を見てる感じがしてた」と。
ごめん、娘よ。
ママはそこまでじゃない、
一歩引くが、せいぜいだったよw
こんなにヒドイ体験なのに
娘は気に入ったらしく
3年後、縁あって、大晦日から新年にかけて
零時から始まるお寺の水行に、母娘して2年連続して参加しましたよ。
いやだって、娘がやりたいって言ったらもう
そりゃ参加するしかないでしょ。
娘よ、冬の荒行だぞ?
そんなに気にいる要素ある?
やる前の、エイヤッという覚悟と気合はハンパなくいるし
そして終わった時のやりきった感と、スッキリ感はスゴイとは思うが。
人生には尻込みしたくなることも多いよね
お寺の和尚さんが言ってたけど
「一番怖いと思っていることに飛び込むのが、実は正解だったりするよね」
あー、あるよね。覚悟もハンパなくいる。
だって怖いって思ってるのに向かって行くんだから
勇気も気合もいる。