前回から時間がたってしいまいました。ごめんなさい。2010年のモンサンミッシェル公演の話しを進めますね。

良平

 

1時間半ほどリハーサルをし、おのおの、確認事項や音楽的な打合せをする。音響システムがないぶん、音合わせは各自まかせ、モニターの調整もなし、みんなそれぞれスピーカーになり、モニターになり、みんなの音が聞き逃すまいと必死だ。いい雰囲気。僕は好きだなこういうの。言葉ではなく、音で話している。今回、このステージで、新曲を演奏する予定だ。それは、「エンヤ」なぜ、このエンヤを僕が選んだといえば、こうゆう事情があった。この島はもともとモン・トンブ(墓の山)と呼ばれ先住民のケルト人が信仰する聖地であったそうだ。708年にアヴランシュ司教オベールが夢のなかで大天使・ミカエルから、「この岩山に聖堂を建てよ」とのお告げを受け、ここに礼拝堂を作ったのが始まりなのだ。それから数々の増改築を重ねて13世紀にはほぼ現在のような形になった。中世以来、カトリックの聖地として多くの巡礼者を集めてきた。ということで、先住民であったケルト人に敬意を表し、ケルト音楽をぜひ演奏したいと、思ったのがきっかけである。そのなかで選ばれたのがエンヤであった。数々の楽曲のなかから、一曲選び、高橋久美子女史に編曲を願い、完成させたのが、「シェパードムーン」という名曲である。なかなかいいぞ、これ。AUN J クラシック・オーケストラにははまっているし、ここ響きにあっているな。

 

 

会場には5時半までいて、施錠してもらい楽器はそのままで、ふもとへ降りることにした。

まずは夕飯を食べにいく。せっかくなのでちらっとレストランでミニライブをやったり、テレビの取材を受けたりしながら、夕日にそまるモンサンミッシェルを眺める。

 

 

 

ホテルは2キロほど離れている。モンサンミッシェルをずっと背後に望む道のりをゆっくりとホテルまで40分以上かけて歩いてもどることにした。僕は見事な夕日が落ち、空を七色で彩りオレンジ色から暗闇へと幕をおろす空を眺め、同時にゆっくりとモンサンミッシェルがライトアップに浮かび上がるまでそこにいた。そして、あたりが暗闇に色づく頃、ゆっくりとホテルまで歩くことにする。振り向き振り向き、モンサンミッシェルをみて、立ち止まり立ち止まり、その風景を目に焼き付けた。もう二度と見られない風景かもしれないから。時間は、ゆっくりと僕らを包みながら、そしてどこかへ逃げてゆく。一歩一歩なぜか大切に地面を踏みしめながら歩く。息を大きく吸って、すこし止めて、ゆっくりと息を、まるで笛を奏でるように出した。ジャケットのチャックを上いっぱいまで閉めた。いつのまにか肌寒いほどの風になっていた。明日のコンサートがこのとき、自分自身にとってもAUN J クラシック オーケストラにとても大きな節目になろうとはこのときは知る由もなかった。