未必の恋をした(9) | ネヴァーランドのオーガスティーヌ

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第9章

恋が疑心暗鬼の海で溺れてしまったら
本当のコトバ伝えたくても届かない


「どうだったの、映画?」
ママさんがニヤニヤしながら聞いて来た。
「あんまり面白く無かったですよ、映画は」
サコは素っ気無く言った。本当は竹下君とのデートのことを聞かれているのだとわかっていた。冷やかされたくない気持ちが強かった。
映画は期待した程面白く無かった。嘘はついていない。
「あら、そう?」
ママさんはからかい甲斐がないと思ったのか、会話はそれきり途切れた。
サコは追求されなかったことにホッとした。自分の間違いに気づかずに。

(今日も来ないんだ……。)
カウベルが鳴るたびにカウンターから期待をこめてサコはドアを見る。
前は千田君が入って来るのを楽しみにしていた。
今は待つ相手が違う、それだけのこと。
それまでは意識していなかった相手なのにと、サコは自分でも感情の変化が不思議だった。
始まりはとても些細なことだったりする。
いつ誰を好きになるかなんて理屈ではわからないものだ。
正確に言えば、好きになりそうな予感がしていた。もっと話したい、もっと知りたい、ココロはとても欲張りになる。

それから、一週間、竹下君は現れなかった。
最初はただ来ないのを寂しく感じただけだったが、次第に心配になってきた。
もしかすると、部屋にまで入れておいて、何も無かったのは肩透かしだったのだろうか?それって、ただの友達とか、弟くらいにしか見ていないから、安心されてたのかもって誤解されたのだろうか?
考えなくてもいい想像を巡らしてしまう。
そうして、疑心暗鬼の海に溺れる。その海は深くて、暗い。

重い気分で店のドアを開けると、ボックス席にはほとんど客がいなくて、カウンターの周りだけが華やいでいた。
新しくバイトに入ったミナちゃんが、タクシーの運転手たちを相手に笑い声をあげていた。目がひときわ大きくて、物怖じせず、誰にでも上手に媚びれるミナちゃんは、すぐにこの店の常連さんたちにも馴染んでいた。
心なしか、ママさんもサコとの時より楽しげに見える。
「サコさん、もうバトンタッチの時間だったんですね~」
ミナちゃんは19歳、少し年上のサコを”さん”付けで呼ぶ。
「少し遅れちゃったみたい、ごめんね」
サコはチラリと時計を見ながら、謝った。
「全然平気ですよ~ぉ」
伸ばした語尾が鼻にかかる。別に悪い子では無かった。でも、苦手なタイプだった。
ミナちゃんはサッサとエプロンを外すと、ポニーテイルにしていた髪を下ろし、化粧を直すと、挨拶もそこそこにスキップしそうな勢いで店を出て行った。

「現代っ子よね」
ママさんは笑っている。
少しずつ店に来る客も入れ替わり、風景も変わってきてきた。
サコがバイトし始めて、もう1年が経つ。
なんともいえない寂しさが胸を掠める。
「ね、サコちゃん、今週の定休日開いてる?」
「あ、はい?」
「昔の常連たちと盛岡まで車で行くことになったのよ。サコちゃんも行くでしょ?」
ママさんの口調はもう決定事項のように聞こえた。
何も予定が無いことを見透かされているようで、気持ちが沈んだ。
その日も竹下君は来なかった。



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そろそろ終わりも見えてきたかな?
いきなり1年経っているというのも、いきなりなので、その辺は修正していきますf^_^;

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