ミシュラン3つ星レストラン~シンガポール・Les Amis(レザミ)編
出張の楽しみの一つは現地での美食ですが、ソロ活動になってしまうのが玉に瑕です。今回は久しぶりにレザミに行ってきました。ここは以前はクラシックなフレンチを提供する1つ星だったのですが、2019年版で突如3つ星に輝いたので、いったいどのような変化があったのか楽しみです。このレザミ(友達)という名前通り、フレンドリーなサービスが記憶に残る、良いお店です。オーチャード通りから少し入った坂の途中にあるお店は昔のままです。1階がメインダイニング、2階が個室になっているので、おひとりさまの私は1階の窓際の席に通されます。テーブル・セッティングはシックな感じで、でもお皿もカトラリー、グラスもさすがに良いものを揃えています。3つ星レストランの風格でしょうか・アミューズ・ブーシュは3種類。まずは雲丹のタルトにキャビア・クリスタル製のキャビア・オシェトラをたっぷりとあしらいます。しょっぱなから豪華な一品に期待が高まります。2つ目はグジェール。普通は少ししっとりとした食感に焼き上げるグジェールですが、こちらのはシュー生地のようにさっくりとした歯ごたえが楽しめます。しかも上にエルベ・モンス熟成のコンテ36か月という超高級品を惜しげもなく削ってあります。このコンテの香りは官能的ですらあります。3つ目は、プロヴァンス産冬トリュフとラディッシュのタルトです。このシンプルな構成が、素晴らしい冬トリュフの官能的な香りを引き立たせ、鼻腔をくすぐります。フランスのMaison Plantinのプロヴァンス産トリュフ・イベールです。1個100g~150g程度の見るからに薫り高そうなものがたっぷりと揃っています。見ているだけでため息が出てしまいます。この常夏の南の島国で、こんな最高品質の冬トリュフを味わえるとは、ロジスティクスの進化に感謝するしかありませんね。バターも念がいっており、これはフランス・べイユヴェール(beillevaire)の特注品を丸ごと一個、惜しげもなくサービスします。色々と悩んだ結果、効率よくレザミの最新の料理を味わうためにムニュ・デギュスタシオンを注文し、少し料理を変更してもらうことにしました。ワインは J. Chartron, Saint Aubin 1er Cru, Murgers des Dents de Chienをグラスで頂きます。サントーバンはピュリニー・モンラシェの西側の村ですが、南向きの畑は太陽が燦燦と注ぎ、ピュリニー・モンラシェにも負けずとも劣らなないワインを手ごろに楽しめます。やっと注文が終わってやれやれと思っていたら、なんと4つ目のアミューズ・ブーシュが運ばれてきました。これはコンソメのロワイヤルの上にクレソンのクリームを流し、たっぷりとトリュフのジュリエンヌをあしらった、これだけで十分一皿の料理として提供できるようなクオリティです。付け合わせは竹炭を練り込んだ層が鮮やかな中華風蒸しパンで、スープを最後の一滴まで残さずぬぐい取れます。美味なり。続いて立派なパンのシャリオの登場です。パンは昼、夜の営業前にそれぞれ新鮮なものを焼き上げるそうです。贅沢ですね。まずはバゲットとフロマージュのパンをいただきます。La Pomme de Terre Roseval au Caviarこれはキャビア・クリスタル製のキャビア・オシェトラを贅沢に盛り付けた豪華なお料理です。なんと追加料金でキャビアをベルーガに変更することも可能です。キャビア・クリスタルは中国の浙江省千島湖で栽培されたキャビアで、粒の大きさも黄色味が買った青黒い色も極上のキャビア・オシェトラといえるでしょう。最近はペトルシアンなどもイラン人の専門家を使って中国で養殖していると聞きます。フランスの3つ星・Meilleurでも中国産を使っていたので、その品質は折り紙付きといえると思います。付け合わせはRoseval種のレッド・スキン・ポテトで、そのワックスのような滑らかな果肉がとてもキャビアに合っています。La Langoustine De Loctudy ブルターニュ地方・ロクテュディ産の、驚くほど立派なラングスティーヌです。シンガポールでこんな立派なラングスティーヌに出会えるとは奇跡といえるでしょう。身質は最上、甘みはたっぷり、素材の良さはもちろんながら調理も完璧です。美味しいです。そこに再びキャビア・オシェトラを贅沢に盛り付け、プロワンスのオリーブオイルを乳化させたソースで頂きます。ラングスティーヌにまいたクールジェットもテクスチャーと風味の変化に一役買っています。割と誰が調理しても味が想像できてします食材なのですが、良い意味で私の期待を裏切り出来栄えでした。満足です。これはレザミで使っている自慢のオリーブ・オイル。フランスのサン・レミ・ド・プロヴァンスにあるカランケ農園の2019年の新EVOです。Unfilteredなので、濁っていますが、これが風味の良い証。オリーブはフランス原産のAglandau種を使っていて、青草やアーティチョークのようなフレッシュさ、酸はミディアム、粘性は低めで口に広がるバランスの良いタイプです。Le Zéphyr De Céleri A La Truffe Noire セロリのゼフィールというこの料理は、元来ベジタリアンメニューの一皿だったので、ブイヨンなど動物由来の出汁は一切使っていません。ギャルソンはゼフィール=雲と説明して、その雲のようなスフレを味わってほしいと言っていましたが、ゼフィールはラテン語で風の意味で、ボッティチェリの有名な春に描かれている風の神様はゼフィロスです。閑話休題。料理の話に戻すと、ブイヨンは使っていませんが、卵白とクリームは使っており、それをよく泡立ててスフレ仕立てにしているので、割とプツプツした食感です。そこに泡立てたセロリのクリームを流し入れ、大きなトリュフのエマンセをあしらいます。他の食材があまり主張しないので、トリュフの芳香を楽しむには良い料理だと思いますが、ベジタリアンでない私には普通のスフレにセロリのクーり、そこに黒トリュフのエマンセかピュレ状のソースの方がありがたかったです。Le Turbot En Demi-Deuil ドゥミ・ドゥイユというのは、ご存じの通り鶏の皮と肉の間にトリュフのエマンセを一面に挿し込んでブイヨンで蒸し煮した料理なので、今回のそれとは違います。フランス大西洋産の身の厚い平目をいったん蒸してから表面をサラマンダーで焼き目をつけて仕上げ、それにトリュフのヴェール(シェフ談、なんと詩的な!)をまとわせ、ドゥミ・ドゥイユに見立てています。ソースはトリュフ風味のオランデーズ・ソース(なんとクラシックな)、そして付け合わせはふくらしジャガイモです(これまた、なんとクラシックな)。レザミでは最近すっかり見かけなくなったクラシックなテクニックを目撃することができ、楽しいです。こういうクラシックを堂々と出せるのも自信の表れですね。Le Boeuf A La Moelle Et Truffe Noireこれまたクラシックな料理です。一見ロッシーニ・ステーキのようですが、フィレ肉の上に載っているのはトリュフとモワル(骨髄)です。モワルのリッチな味わいとトリュフの芳香で食べるフィレ肉は柔らかで完璧です。ソースはペリグーではなくボルドレーズ、赤ワインのソースです。胡椒は効かせず、赤ワインの香りに加えた骨髄でソースの厚みを演出します。美味なり。付け合わせの人参もえぐみがなく、フランスのそれを思い出させてくれます。フロマージュのシャリオ。全品フランス産、かつエルベ・モンス熟成の逸品ぞろいです。熟成度合いもどれも素晴らしく、熟成香があたりに立ち込めます。。うっとりするようなフロマージュたち。向かって左よりシェーブル(山羊乳)、バッシュ(牛乳)、ブルビ(羊乳)です。どれも食べごろの熟成度合いで、本当に魅力的です。正直、少し満腹だったので残念ながらフロマージュをスキップしようかと思ったのですが、ディレクトールにどうしても試してほしいと言われ、結局お店のご厚意で3切ほどご馳走になりました。王道より珍しいものということで、手前はコルシカ産フロマージュ・ドゥ・マルケ(羊乳)、真中はローヌ右岸コンドリューのご近所サン・フェリシアン(牛乳、これは王道だけど、私が最も好むミルキーな白カビの一つ)、奥はシェーブル・ドゥ・ポワトー(山羊乳)、これはポワトー・シャホント地方で作る木灰の下でじっくり発酵させる酸味のマイルドなシェーブルです。見てください、この完璧な熟成具合を。どれもうっとりする味わいでした。アヴァン・デセールのカカオ78%のチョコレートを使ったビターで滑らかなガトー・ショコラ。細かいところまで念がいっています。Le Café, Intense De Jamaïqueこれはジャマイカ産コーヒー豆・ブルー・マウンテンを使ったデセールです。最近のコーヒー界ではブルー・マウンテンは高く評価されていませんが、こういう伝統的な価値観を堅持するのがレザミのスタイルなのでしょう。最近はやりのクリスマス飾りを思い出させる飴細工の球体の中に、ブルー・マウンテンの香りを生かしたムースとアイスクリームが詰められています。ソースもコーヒー風味のサバイヨン。全体的に甘みを抑えていますが、飴細工がとにかく甘いので、食べ手がバランスを取りながら楽しむのが良いでしょう。最期はエスプレッソ・ドゥーブル。熱々で甘い舌をきりっと占めてくれます。コーヒーの後味で重たくなった舌を、チェーサーのスパークリング・ウォーターがリセットしてくれます。こんな細かい心遣いがさすがですね。アプレ・デセールもショコラ、カヌレ、シャティーニュのモンブラン。どれも美味しかったです。食後にキッチンに招待されたので、見学してきました。残念ながらシェフは帰宅されていたので、感謝を伝えることはできませんでしたが、良い経験です。本場フランスの有名店にも負けない素晴らしい調理場です。この写真は手前がポワソニエ(魚部門)、反対側がヴィアンド(肉部門)、左奥の冷蔵庫前が肉、魚の下処理です。こちらはガルドマンジュ。広々していて機能的です。奥の壁にはシェフのSebastian Lepinoy氏のシグネチャー料理の写真が飾られていました。右から3番目は今日の一皿目、キャビアとポテトの前菜の旧ヴァージョンです。ポテトの切り方がマーキー型なのが特徴です。レザミは以前より好きなお店の一つでしたが、これほどまでに料理のステージを上げているとは思いませんでした。もともとクラシックなテクニックの基盤がしっかりしているので、材料の質を上げることで料理の格が一段も、二段も上がったようです。春のメニューに変わったころに再開することを約束し、雨上がりの車道を足取り軽くホテルまで夜の散歩を楽しみました。