『美男子と煙草』
太宰治の短編エッセイである。
太宰が、編集者の人に「浮浪者と太宰さんが一緒にいるところの写真を撮るから、上野公園に行きませんか」と言われ、
「浮浪者の素と言われる地下道へ」いく。
そこで、浮浪者を見たところ、その「殆ど全部が、端正な顔立をした美男子ばかりだということを発見」する。
「自惚れて、自惚れて、人がなんと言っても自惚れて、ふと気がついたらわが身は、地下道の隅に横たわり、もはや人間でなくなっている」
そして、その美男子は、たいてい煙草を吸っている。
上野公園の広場で、身寄りのない少年が遊びたわむれている様子を目にした太宰。
「天使が空を舞い、神の思召により、翼が消え失せ、落下傘のように世界中の処々方々に舞い降りるのです。私は北国の雪の上に舞い降り、君は南国の蜜柑畑に舞い降り、そうして、この少年たちは上野公園に舞い降りた、ただそれだけの違いなのだ、これからどんどん生長しても、少年たちよ、容貌には必ず無関心に、煙草を吸わず、お酒もおまつり以外には飲まず、そうして、内気でちょっとおしゃれな娘さんに気永に惚れなさい。」
太宰の短編小説集『グッド・バイ』に収められている。