昭和のひとつの象徴だった「ハッピーバード」がどうしても欲しくなってネットで探していた。その時代にはどこの家庭にもあった、ただの水飲み鳥がみんなの心を癒してくれた。
それが手に届いたのはGWの連休中。楽しい思いの独り占めは善くないので休み明けを待って錦糸町の掛かり付けの店に持って行ってみんなで笑おうと決めていたら、式をあげたばかりの友人が奥さんよりもこの小生に仁義を切って飲みに行こうと誘って来た。勿論断る理由はどこにもなく「俺は錦糸町に届けなきゃ行けないものがあるから・・」と有無も言わさず錦糸町へ。
すると、店のマスターがバケツ一杯分の血を吐いて入院してるという。連休中に親に隠れて酒を飲む高校生の気分で鍵の掛かった店に忍び込んで一緒に一升瓶を飲み明かした矢先の出来事だけに心底胸が痛み、でも店長ならきっと大丈夫と勝手に気を持ち直して友人と酒を飲み続け、いつもの二件目へ。
やっと「ハッピーバード」がお披露目となるはずが、青い方の鳥がなかなか首を振ってくれない。今度こそ結構本気で落ち込みそうな気分を無理に酒で持ち上げて結局3時まで飲んでいた。
翌日、また店に行ったら不出来な青い鳥が出来のいい赤い鳥と同じように水を飲んでいた。この鳥を蘇生させた彼女の大きな愛を感じながらまた夜明けまで日本酒を飲んだ。
この「青い鳥」が他人には思えなかった。


水の記憶
いつもの店にコーヒー豆を買いに行った。
チェリーという名のこの店は自家焙煎で黒板にはいつも煎り立ての豆の名前が並んでる。
不思議なのは雑然とした店内にはいろんなカラクリがあって、上下するエアコンの羽の先に繋がるピアノ線の先に紙で作った人形の手足が動いていたりする。カウンターの片隅には段ボールを切り抜いて作ったこの店のミニチュアが無造作に置いてあったり。
コーヒーの香りとこのちょっとした異空間が楽しい。
今日は回っている焙煎機から「ブラジルがあがるから、はい」と言ってマスターが手のひらに熱々の豆をひとつ載せてくれた。豆が煎り上がる直前、豆はパチパチっと音を鳴らす。マスターは時々焙煎機に耳を近付けてその音を聞いている。
この店では何度か煎り立ての豆を食べたが、カリカリの食感とコーヒーの苦みがとても旨い。
「コーヒー豆を食べながらコーヒー飲むとおいしいんだよね」と教えてくれる。

今日は「ミルキーマンデリン」と「マラウイ・ゲイシャ」を200gづつ買って帰った。「マラウイ・ゲイシャ」はアフリカの豆で今回初めて。帰ってさっそく豆を挽いて飲んでみると酸味が強いのにすっきりしたとても澄んだ味。旨いコーヒーを飲んでると束の間でも幸せ。

水の記憶-コーヒーチェリー
新宿・花園神社で唐組を見る。

物語はおしるこ屋、デカダンを舞台に失業手当が支給されるはずの就労証明書「黒手帳」を巡って展開する。黒手帳、すでにその効力は失効しているのに、この手帳が支給された南の島の炭坑への郷愁から奪い合いになる。
夢野久作の『斜坑』の一節を少年、玄児(大鶴美仁音)が諳んじ、鏡ヶ池の底に今も残るという坑道への道を探し求める。

唐十郎扮する田口が金粉ショーダンサーだったり、久しぶりに巨大な水槽の中の唐十郎が見れたりちょと懐かしいシーンも。去年は鬼子母神での「ジャガーの眼」で初めて大鶴美仁音を見たが、今回は前より熟れた印象だった。他に比類のない独特の存在感を持った彼女のこれからが楽しみ。赤松由美はやっぱり唐組の舞台がよく似合う。

水の記憶-黒手帳1



水の記憶-黒手帳2


最後はいつものようにバックのセットが抜けて紅テントの外にまた舞台が広がる。新宿の街とテントの舞台空間が一体になる瞬間。
今回もまた唐十郎が織りなす心地いい虚構にほろ酔い。

水の記憶-黒手帳3


水の記憶-黒手帳4

唐組・第43回公演「黒手帳に頬紅を」
役者陣
唐十郎
鳥山昌克
久保井研
辻孝彦
稲荷卓央
藤井由紀
赤松由美
多田亜由美
高木宏
岡田悟一
気田睦
大美穂
土屋真衣
大嶋丈仁
大鶴美仁音
水の記憶-明日への神話1

岡本太郎が大好きだ。
子供の頃、万博会場、と言うよりも太陽の塔まで歩いて行けるところに住んでいた。僕にとって万博はサイケデリックな色の祭典だった。画用紙にクレヨンで太陽の絵を描きまくっていた。

友人が代官山で結婚式を上げるというので、ちょっと早めに家を出て渋谷駅で「明日への神話」を見た。この作品は太郎が太陽の塔の制作しているのとまったく同時期に作られた。彼は数多くの芸術家の中でも最も試作品を多く作る人だと思う。かつて太陽の塔のいろんなサイズの試作品を同時に見る機会があり心底驚いたが、この巨大な絵もやはり小さなサイズから試作を始めている。しかも、太陽の塔は日本で、明日への神話はメキシコで、だ。
いすれも巨大が作品なのにこれ程まで完全な同時進行が可能だったのは、やはりテーマがひとつだったからなのだと思う。
まだ原爆の記憶が新しいというのに行われたアメリカの水爆実験。この絵では第五福竜丸も描かれている。戦争への太郎の怒りとそれに負けない人間の強さが太郎の怒りとともに作品に昇華する。

水の記憶-明日への神話2


水の記憶-明日への神話3
紀伊國屋ホールで柄本明を見る。
まだスズナリでの「秘密の花園」での柄本明の記憶が残るまま、ひとり芝居では静かに時間が流れていく。
大きな鞄を持ったセールスマンがある日、世の中の視点をひっくり返してしまい、バス停の前にある電信柱と自分の体を鎖で繋いでしまう。そうすれば人からはこの人は鎖に繋がれた被害者として目に映り、上司にはセールスに行けなかった言い訳にもなる。ところが、誰も目撃者が訪れてくれない悲劇。
自分の心にある逃避願望や逃げ口上を不思議な空気に仕上げてしまった面白い芝居。
最後のシーンで傘をさした男が「傘の下には必ず人がいる」という台詞を残す。人が傘をさすのか、傘の下に人がいるのか・・・この物語のお洒落な締めくくりだった。


水の記憶-風のセールスマン


「風のセールスマン」
作 別役実
出演・演出 柄本明
週末、大阪で法事がありちょっと足を延ばして岡山に住む旧友に会った。「魚の旨い店を予約しとくから」と言っていた彼のチョイスに期待はしていたものの、期待を上回る美味しい店だった。
岡山駅で待ち合わせしてタクシーで1メーター。着いた先は「磯」という店。

彼は釣り人なので魚には詳しく魚の話を聞きながら魚を食える。料理はそんな彼におまかせ。
オコゼの薄造り、オコゼの骨の唐揚げ、オコゼの肝、黒メバルの煮付け、ワタリガニ、穴子、鰆の刺身・・・
さすが瀬戸内海の魚はどれをとっても身が旨い。それに黒メバルや鰆の刺身なんて東京じゃまずお目にかかれない。
岡山の地酒を飲んで幸せな気分に。

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その後もう一件飲みに行き、彼の自宅へ。
テーブルには一升瓶がどん。奥さんに大阪土産に買った「点天」の餃子を焼いてもらい酒を飲む。
気分はもうご機嫌。冷蔵庫に貼ってあった娘さんの木版画に感動しつつ楽しい酒を頂いた。
ごちそうさま。

岡山は十数年ぶりだったが駅を降りた時、岡山駅のシンボルだった岡本太郎の壁画が見当たらなかった。
帰りに友人に車で送ってもらい何気に歩いていたら場所を変えて壁画があった。やっぱり岡山に来たらこれを見て帰らないと。見つかってよかった。

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奥田瑛二扮する競馬記者、松崎は別れた妻(速水典子)と訪れた小学生の娘の運動会でヤクザの鉄砲玉、田坂(大和武士)と知り合い投合する。
子供の徒競走はスタートして最初に前に出たヤツが大抵一等賞を取るが、人生はそうはいかない。
彼はそんな逃げ馬に憧れ、俺はそんな生き方しか出来ないと言う。白昼マンションでヤクザを殺し指名手配を受けた田崎に、松崎は「逃げろ!」と叫ぶ。
劇中、松崎は競馬新聞に「はきだめブルース」という連載コラムを書いている。

〝北の地に生を受けた馬たちはなぜ早さを身に付けるに至ったのだろう。アフリカの草原を走る鹿は素早い猛獣たちに怯えた進化論通りの生き物だ。しかし北の荒野には金輪際馬より早い猛獣がいたためしなどないのだ。馬の群れは幻の猛獣〝馬喰い〟から逃れるために走り続けているのだと、寺山修司は詩った。幻を知るほど悲しく美しいことはない。ヤクザたちは人を殺した。鉄砲玉というヤツだ。鉄砲玉は速く速く定めを追いつめ逃げて行く。言葉を持たない悍馬が俺の前を逃げていった。〟

そんな出来事と前後して娘の学校の不感症の女教師、薫が松崎によって女にされていく。
最初にホテルに入った時に松崎は彼女に言う。
「女馬もあんまり強くて長いこと走ると競争心が勝っちまって男馬を寄せ付けなかったりするそうだ。・・・退屈だろう、いつでも帰ってくれ」
空振りに始まった二人の関係は、しつこく付きまとう薫によって回数を重ねる。競馬実況をしながら女の裸に指を這わせる松崎に絶頂を迎える瞬間、女の体が男にしがみつく。

唐十郎が麻生という博打作家の役で登場する。彼が現れるとやはり場が演劇的に染まる。「北の国から」に登場してもそうなのだから、これはいいとか悪いとかではない。麻生は彼の編集者である松崎の前妻に結婚を申し込む。

何年ぶりの設定なのか、松崎と前妻の真理子が赤い絨毯の上に敷かれた布団の上で絡む。元夫婦の勝手知れたるお互いの体なのか、自然で激しい濡れ場。
「こんなことになるんだったら夏がよかったな・・・クーラー消して汗びっしょりになって・・・」
速水典子にはこんな台詞がよく似合う。ぞくっとする。
そして、横たわった松崎の背中にそっと抱きつきながら、真理子は麻生と結婚することを告げる。

そんな真理子まで博打の代償にして麻生は松崎と馬で勝負する。負けが込んだ松崎が最終レースで逃げ馬で勝負に勝つ。
そして、賭けの勝ち負けではなく自分の人生は自分で決める、と告げて負けた麻生に真理子と一緒になるよう言って競馬場を去る。

今日のレースに勝っても来週にはどうなっているかなんて、誰にもわからない。わかってたまるか。

水の記憶-新極道記者


「新・極道記者」 1996年 
企画   : 奥田瑛二
監督   : 望月六郎
原作   : 塩崎利雄
キャスト    
松崎辰雄 : 奥田瑛二
野島真理子: 速水典子
手塚薫  : 金谷亜未子
麻生魁  : 唐十郎
田坂邦泰 : 大和武士
佐伯   : 金守珍
タマ   : 相原真由子
井崎   : 井崎修五郎


今日はご出勤のあと錦糸町のやってるはずの店に行ったら閉店間際でやむを得ずその店を断念、しばらく彷徨った後に結局電車に乗って地元に帰り、久しぶりに「呑兵衛」に入った。ここの店はフランチャイズのくせに店長がジャズ好きで自分で編集したMDを店内に流していて、普通に酒が飲めて刺身が食えてジャズが聴ける美味しい店。
初めて入った時にはWEATHER REPORTの「8:30」が流れていてあまりに懐かしくてお勘定の時にレジの前に立つ店長に話しかけてしまった。
今日は初鰹をつまみに影虎を飲む。
日曜日だし一人で飲むといろんな感情が渦巻いてきて心が破綻するので今日は程々に・・と思っていたのにしばらくするとコルトレーンのオンパレードが始まり、気付けば目が空を彷徨いながらまた酒を頼んでしまい。久しぶりのバラードを聴きながら気分はどんどん自虐に向かうのでほどほどに帰宅。

飲む度に思うけど多分、すべてのタガを思い切って外してしまえばいくらでも酒が飲めるので死ぬほど酒を飲んでしまえばこのまま道で野垂れ死んでしまえる。
出来ることなら、日が昇った路地裏のしょんべん臭い道で倒れているところに一番大好きな女が現れて泣きながら俺を叱り抱き上げられたところに彼女の柔らかい乳房があってやっと探し当てた乳首を噛みちぎる途中で息を引き取りたい。
という話を錦糸町のママにしたら、酒飲む人はみんな飲んで野垂れ死にたいっていうよね、と言われてなんだ、そんな当たり前のことんなんだ・・と思ってショックだった。

夢から覚めてベッドに入らないと明日からの一週間のどこかで心が逃亡しそうなので家に帰って豆を挽いてコーヒーを入れた。今は5種類ある豆の中からミルキーマンデリン。
苦みがあってまろやか。




水の記憶-ミルキーマンデリン
5月に結婚する友人とその彼女と3人で酒を飲んだ。
店はゴールデン街のはずれにある多古八。一年振りに会った78歳の店主は元気そうに見えたが去年は胃潰瘍で入院してたという。
それでもまったく化粧もしないのにほんのりピンクの頬と白い手はとても実年齢とはほど遠い。
熱湯を掛けたおしぼりを出してもらう度、いつもその手を褒めてしまう。

自宅の庭で採れたというアサツキを出してもらい、くるっと巻いて味噌を乗っけて食べるとこれが絶品。
ほんのりと苦みがあって日本酒にはよく合う。
小さな店のカウンターにはこれまた庭に咲いたという白い椿がニッカウイスキーのコップに挿してある。
椿はいい。
濃厚でむっちりした面持ちは艶やかだといつも思う。

水の記憶-椿


カウンターの後ろには先代の母親から譲り受けたという小さな雛飾り。
陶器で出来ているらしいが、年期が入った骨董品のよう。

水の記憶-雛飾り


店を出ると「もう一件」と無理矢理ご両人を引っ張って〝クラクラ〟へ。
長居はしなかったがカオリンご出勤で先週観た舞台の話ができてよかった。

ゴールデン街の入り口で二人を見送りしばらく散歩した。
酔ってふらふら歩くのは気持ちがいい。
ふと、夕方に紀伊国屋で買った本を忘れたことに気付いて多古八に戻ってみたが店の電気は消えていた。
また店に行く理由が出来たって訳でこれもありか・・・と思いつつ都営新宿線に乗ったら夢の中。

水の記憶

二人のお陰で楽しい週末だった。
相合い傘よいつまでも・・・お幸せに。
気が付けばかれこれ10年以上のお付き合いになる舞台女優、〝カオリン〟こと井上カオリの出演ということで初めて〝赤坂レッドシアター〟というまだ新しいミニシアターに行った。
彼女と知り合った当時、僕は江古田に住んでいて彼女は加藤健一事務所の研究生だった。つかこうへいの〝寝盗られ宗介〟の文庫本をもらい年不相応な彼女のセンスにとても関心した。そしてあの本はとてつもなく面白かった。
年末に新宿ピットインで浅川マキのライヴを観に行き、帰りに久しぶりのゴールデン街〝クラクラ〟でこれまた久しぶりにカオリンに会い、今回の公演を知った。以前、カオリンからチケットを買っておきながら下北沢に早く着きすぎて夕方から酒を飲んでしまい、結局舞台を見ることが出来なかった失態があったので今回はビールを少々にして劇場に足を運んだ。

さて、舞台は小劇場へ。
石川五右衛門が実は3人組の盗賊で、朝鮮出兵を控え勢力を振るう豊臣秀吉を討つべく虎視眈々と水面下で期を狙う徳川家康の手下だったという面白い設定。
カオリンは五右衛門の一人と恋仲にあった遊女役。僕が観た芝居の中では、どちらかというと三枚目の役が多かった彼女が今回は身請け先がありながらひとりの男に惚れる物悲しくも明るく強い女を演じた。赤い着物が映えていた。
カオリンの次回は4月、本拠地の〝椿組〟での公演。


水の記憶-闇に咲く花


〝劇団伊達組〟キャスト
監修:じんのひろあき監修
演出:尾乃塚 隆
船戸 慎士(Studio Life)
尾乃塚 隆
中山 浩(アフリカ座)
岩野 未知
杉山 夕(u-you.company/アフリカ座)
増島 愛浩
井上 カオリ(椿組)
吉久 直志(カプセル兵団)
谷川 今日子(u-you.company)
玄波 孝章(元氣エンターテインメントシアター)
Marcy伊藤(世界征服計画)
小峰 めぐみ(曲者)
もちゃ(乱チキスターター)