昔々、深夜の関西テレビである新進の映像作家の作品をシリーズで流していて、シラフだろうが酔っぱらって帰ろうがそのほとんどを見ていた。
その中で、作者の名前も何もわからずとにかく頭から離れなかった映像があった。
後に岩井俊二が映画監督として有名になってテレビで特番が組まれた時、その映像に再会。
ああ、これだ。

そしてありがたいことに岩井俊二の初期の短編がDVDになって発売されてすかさず買ったものの、長い間もったいなくて見れなかった。
そして今夜、酔った勢いでとうとう見てしまった。

独特のカット割りと色遣いが大好き。
この頃、まだ監督は29歳。
映像から滲み出る縛りのない自由さが今の自分にはちょっと痛い。

水の記憶

水の記憶

水の記憶


出演 白石美樹 上田晋也
脚本・監督 岩井俊二
1992年
また今年も元旦。
来なくてもいいのにまた新しい年が来た。
たった一夜でこれほどまでに変化した気分になる日はきっとないんだよね。
何も変わりはしないのに。

と言いつつ、朝起きて窓に向かってパシャ。
そして僕の神様は太陽の塔。

水の記憶-元旦の朝


午後日が暮れる頃、氏神さまにお参りして神籤をひいたら‘中吉’。
可もなく不可もなく・・・か。

神社の参道を歩いていて久しぶりに火を間近で見た。
火ってこんなに熱いことを忘れてた。
エアコンとか遠い太陽の熱さとかとは違って、マーシャルアンプの目の前でガリガリ割れた大音量を聴きながら鼓膜が震えるみたいな距離感。
久しぶりに感じるアナログで原始的な触感を思い出したのでした。


仕事の帰り道、久しぶりにBar‘Pique Pique’に入りタリスカーを一杯。
変わったモルトがあれば、とバーテンさんに頼むとHART BROTHERSのタリスカー15年のボトルを出してもらい薦められるまま一杯。
飲み慣れた10年よりも少し甘い余韻が消えずに長~く残る。

その間に1965年のLONG MORNのボトルがカウンターに並んでちょっと気になる。
同い年ってだけだけど。
飲んでみれば流石43年もの。
雑味がまるでない軽くて深い味。
かっこいい。
こんな味のする大人になりたいって本気で思う。
そして1965年生まれはこうあるべし、とひとり感動して酔う。

人が作ったものにはすべてに思想があるもんだ・・・
だから味が生まれる。

毎夜の錦糸町もいいけどたまには地元のバーで自分にも酔わないといけません。
朝、日の出を見たくて何度か目を覚ましてはまた寝て4時に起きた。
窓の下の漁船はライトを炊きながら漁の準備を始めていた。
ずっとそれを見ながら日の出を待った。
朝日が少しだけ顔を出し暗い空が白んでくるとあとは秒刻みに表情が変わる。
だんだんと空が染まりあっと言う間に朝焼けが広がった。

水の記憶-千倉34


水の記憶-千倉35


6時に宿を出て朝の海辺を走った。
部原、御宿と昔通った懐かしいサーフスポットを抜けて128号線を走る。
今日も天気はいい。

一宮から北に上がると夏の海は汚れてくるので、走るのは一宮までと決めていた。
途中、サーフショップのCHPに寄ってみた。Tシャツでもあれば買って帰ろうと思ったけど買いたいものが見つからずに店を出る。

水の記憶-千倉36


水の記憶-千倉37


帰りはどこから電車に乗ってもよかったのだけど、東浪見駅に行きたかった。
無人駅で小さな駅だけど、ここで写真を撮って旅を終わろうと思った。
ところが木造の無人駅の思い出があったのが綺麗に変身してしまっていた。
それでも駅のホームに出ると大きな駅にはないのどかさがあった。

水の記憶-千倉38


水の記憶-千倉39


水の記憶-千倉40


水の記憶-千倉41


やっぱり夏が好き。
昼寝してすっきりして再びサドルにまたがり今日来た道を少し戻る。
山間の方へ向かう曲がりくねった長い坂をひたすら上がる。
水をかぶったような汗が出る。
千葉の行きつけの店でいつも腰古井という酒を飲んでいて一度この酒蔵に行きたかった。

やっとの思いで蔵に着き、何種類か利き酒をさせてもらい、錦糸町の店宛てに一升瓶を一本送った。

水の記憶-千倉29


水の記憶-千倉30


帰りは上った坂をひたすら下りる。
風を独り占め。
車やバイクにこの快感はないのだ。

そのまま勝浦駅の方に向かい、鯛の浦のおばさんが教えてくれた“さわ”という店を探す。
ネットで調べると黄色い暖簾が目印とあった。
5時すぎに店に着くと店内はまだ空いていたがあっと言う間に満席になってしまった。

石鰈とサザエの刺身を頼み、腰古井を飲んだ。
新しいサザエはアワビより旨い。
絶品の肴と旨い酒に満足。

水の記憶-千倉31


帰り道、商店街に花火屋があって中を覗いてみた。
駄菓子屋のように賑やかで見た目も楽しい。

水の記憶-千倉32


宿に戻るとフロントのところにイギリス人の客がいてしばらく自転車の話をする。
キャノンデールに乗っていると言っていたが、僕の乗っているランドナーに興味を持ったよう。
部屋に戻ると窓を開けて潮の匂いを嗅ぎながらベッドに入った。
窓の外は漁船が並んでいる。

水の記憶-千倉33
朝の房総フラワーラインを抜けて297号線から128号線へ。
和田浦に出たところでさすがに腹が減りおにぎりを2個食べた。
曇天だった朝の天気はどこへやら。
空は青く海は蒼い。
朝の8時でも太陽は容赦なく身を照らす。
ペダルを踏むと少しづつ景色が変わって行く。
気持ちがいい。
夏の太陽の匂い。

水の記憶-千倉19


水の記憶-千倉20


水の記憶-千倉21


鯛の浦に出ると土産物屋があったので冷たいものでも飲もうと思って自転車を止めると店のおばさんが出て来た。
「自転車でどこまで行くの?」
「今日は勝浦まで」
「冷たいお茶でも飲んできなよ」
そういう訳で冷茶と冷たい和菓子をもらい、ペットボトルのお茶までプレゼントしてくれた。
笑顔の可愛いおばさんだった。
「勝浦で酒飲むんだったら“さわ”って店があるから行ってごらん」
と飲み屋まで教えてくれた。
これ、旅の醍醐味。

水の記憶-千倉22


ここから先はアップダウンとともにトンネルをいくつも抜ける。
時々人がいないことを確認して絶叫してみたり。
坂を上るのは下るため。
これもまた気持ちいい。
噎せ返るような濃い緑の匂いとワンワンと鳴く蝉の聲に包まれて絶叫せずにいられるか。
海を見下ろす絶壁を走りながらどさくさに好きな子の名前も叫んでみたがさすがに恥ずかしかった。

水の記憶-千倉23


水の記憶-千倉24


こうしていくつものトンネルを抜けて鵜原を通るともう勝浦。
最後のトンネルを出て下ったところに今日の宿「カクイ」というペンションがあった。
一階がレストランになっていて昼飯はそこで食べることにした。
夜は魚を食べたいのでフライの盛り合わせを頼んだ。
冷たい生ビールとエビフライが空きっ腹に堪らない。

水の記憶-千倉25


腹が満たされたところでチェックイン。
ひとりなのにツインの部屋でゆったりした部屋で心地いい。
しかも部屋の窓から海が目の前で下は漁港だった。
思わず「完璧!」と独り言。
シャワーを浴びて一時間ほど昼寝した。
気分は最高。

水の記憶-千倉26


水の記憶-千倉27
朝は5時に目が覚めた。
朝食はとらずに宿を出る予定だったので建物の中を散歩した。

バルコニーに出ると朝を迎えた海が見える。
天気は曇天だったけれどこれもまた海の表情を変えてくれる。

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ASH&CLAYという浅井純介さんの作品を並べたギャラリー。微妙な緑色が綺麗。
レストルームには慎平さんの作品“赤いトマト”も。この作品、わが家にも飾っている。

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6時すぎにバードランドを出る。
強い潮の匂いがからだを包む。
山辺の海岸美術館を後にして海へ。

千倉の海は綺麗だと思う。
外房の他の海とは違って普通に生活する町の中に溶け込める気がする。
千倉港に行きしばし漁船に見とれる。
海辺を走ると小さな港がいくつもいくつもある。
その度に立ち止まって船を見る。
波止場にいる時は船にとっては休息の時。
眠っているようにも見える。
カラフルな色使いの旗がかわいい。

水の記憶-千倉9


海辺を走り千倉海岸へ。
しばらく夕方の潮風をからだに浴びてぼうっと波を見る。
やっとここに来たって感じ。

ここから今夜泊まるバードランドという宿はすぐ近く。
去年もここにお世話になったがお気に入りの宿。
リビングルームにはJBL4344にマッキントッシュC38とMC300を置きジャズを聴かせてくれる。

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チェックインしてシャワーを浴び、再び自転車に乗って晩飯のため千倉駅の方へ。
駅近くにある“ゆきのや”という普通の居酒屋に入った。
冷たい生ビールにカツオ刺しを食べる。

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腹八分目にして店を出て日の暮れた海辺を走った。
視覚が閉ざされた夜の波音は心に滲みる。

バードランドに戻り、ここから本格的に酒を飲む。
夜はダイニングルームがバーになる。

水の記憶-千倉12


水の記憶-千倉13


最近のデジカメはすごいという話になって、バルコニーに出て満月の写真を撮ったりした。
すごいと言えば金星まで写っているのだからやっぱり進化してる。
でもやっぱりプロダクツとしての魅力はないよね、という話になってマスターに古いコニカを見せてもらった。
自分にとって魅力的なものは必ずしも機能的ではないのだ。
バーボンを飲みながら夜がフェードアウトしていく。

水の記憶-千倉14


夏のショートラン。
目的は太陽の光をいっぱい浴びること。海風をいっぱい浴びること。蝉の聲を浴びること。
ずっと楽しみにしていた今回の旅。

ところが前日に高熱を出し、でも会社を休む訳にもいかずどうなることかと思ってしまった。
会社の診療所でロキソニンをもらい医者には旅行を止められたものの、夜はいつもの店で軽くビールを飲んで帰宅。

翌朝、天気は上々。
熱は測らない。熱があったことは忘れることにして荷造りし、ランドナーをばらして輪行袋に詰め込む。
内房線安房鴨川行きの電車に乗るとあることに気が着いた。
着替えと薬をいれたデイパックを部屋に忘れてきた。
まぁいっか・・・

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千倉駅に着き自転車を組み立てる。
暑い。
工具を回すしばらくの時間にTシャツがずぶ濡れになるくらい。
どんどん俺を照らしてくれ、真夏の太陽。

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自転車にまたがり、まずは海岸美術館へ。
ここに来るのは3回目。
毎年夏になるとここを訪れる。
浅井慎平さんのこの美術館、とても心が癒される。
美術館を囲む自然と海から離れた山間に流れる風と館内に静かに響く水の音。
そして浅井さんの写真たち。

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以前ここを訪れた時、フロアの中心に置かれた長椅子に少女が座ってずっとジョーロに落ちる水の音を聴いていた。
まるで浅井さんの写真の中の光景みたいだと思ったことを思い出す。

なんせ着替えを忘れて来たのでショップで絵はがきとTシャツを買って千倉海岸に向かう。
半年以上ぶりにCANDYに行った。
夕方、晩飯のつもりで地元の焼き鳥屋に行きビールを飲んで帰ろうと思っていたら、野球中継がないためかイルカのディスクジョッキーで次々に懐かしい曲が掛かるラジオ番組が流れていた。ついつい酒が進んでしまい、気が付けば9時前。
なんだか無性に綺麗な音が聴きたくなって久しぶりにCANDYへ。
やっぱりここで聴く「音」は綺麗。どのプレイヤーが好きだとか、どの曲が好きだとか、そんな好みと同じように人にはただ単に「音」の好みがあるよう。
チックのピアノも聴きながら、タンカレーを一杯だけのつもりが、また何杯か。
同じカウンターにはまだ修行中の若いピアノ弾きがいて、自分の心にはそんな彼の今に憧れ錯綜する思いが浮かんだり消えたり。
でも、この店は自分の原点でもある。高校生の頃から、この店で自分の心に駄文をたくさん書いてきた。

水の記憶