年金を繰り下げ受給するのに、向いている人って?

8:10 配信

あるじゃん(All About マネー)

年金初心者の方の疑問に専門家が回答します。今回は、年金の繰り下げ受給に向いている人についてです。

老後のお金や生活費が足りるのか不安ですよね。老後生活の収入の柱になるのが「老齢年金」ですが、年金制度にまつわることは、難しい用語が多くて、ますます不安になってしまう人もいるのではないでしょうか。そんな年金初心者の方の疑問に専門家が回答します。

今回は、年金の繰り下げ受給に向いている人についてです。

◆Q:繰り下げ受給に向いている人って?

「年金はできるだけ遅くもらったほうがお得ではないかと思っています。どんな人が繰り下げ受給するのに向いているんでしょうか?」(57歳男性)

◆A:年金受給開始までの生活費を賄うだけの収入を得ることができる人、金融資産を保有している人等です

現在、老齢年金は、65歳で請求せずに66歳以降、最長75歳までの間で、申し出た時から繰り下げて請求できます(※)。

※昭和27年4月2日以降生まれの人、受給権発生日が平成29年4月1日以降で、老齢年金の受給権を取得した日から起算して5年を経過していない人が対象。それ以外の人は最長70歳まで

繰り下げ受給の請求をした時点に応じて、ひと月あたり0.7%の年金額が増額されます。つまり、増額率は、繰り下げ月数×0.7%(0.007)と計算しますので、75歳まで繰り下げると、65歳時点の年金額より84%増額された年金額を受け取れます。増額された年金額は一生涯続きますので、老後生活の安心材料となります。

ただし、繰り下げしている期間は年金がもらえませんので、日々の生活費を賄うためには、年金受給開始までは働いて収入を得る、もしくは貯金を取り崩すことになります。また、老後の生活費をダウンサイジングすることも必要になるでしょう。

まとめると、下記のような人は、繰り下げ受給が可能です。

【1】年金受給開始まで、働いて収入を得ることで生活費を賄える人
【2】勤労収入は少ないけれど、保有している預貯金を補えば、年金受給開始までの生活費を賄える人
【3】多額の金融資産を保有していて、年金受給開始までの生活費を賄える

逆に、上記のような人以外は、繰り下げ受給をすることは難しくなります。

なお、繰り下げ受給をした結果、受け取る年金額が多くなりますので、所得税や住民税の負担が重くなることや、国民健康保険料や介護保険料の負担が多くなる可能性も高くなります。さらに年金収入が現役並みの所得に該当してしまうと、医療費の自己負担額が3割負担、介護保険サービスの利用も、2割もしくは3割負担になる可能性もありますので注意しましょう。

繰上げ受給にデメリットは多い

繰上げ受給は、60歳になっていればいつからでも受給を開始できます。ただし、本来の受給開始年齢から前倒しをした月数×「一定の率」を掛けて算出された減額率により減額され、減額は一生続きます。したがって長生きをすると損をする、ということになります。「一定の率」は、生年月日によって決まっており、昭和37年4月1日以前生まれの人は0.5%、昭和37年4月2日以後生まれの人は0.4%となります(令和4年4月~)。

どのくらいの長生きで損をするかというと、人によって違うのですが、0.5%で計算する人の場合、多くの人は繰り上げてもらい始めてから16~17年後といわれています。したがって、60歳からもらい始めると76~77歳くらいになると損をする計算ですね。その後は長生きすればするほど損は大きくなります。77歳前後というと、男女ともまだ平均寿命にも届いていない時期ですから、実際には損をする人の方が多い、ということになります。

0.4%で計算する人の場合は、多くの人が繰り上げてもらい始めてから20~21年後となります。こちらもやはり60歳で繰上げ受給を開始した場合は損をする可能性が高そうです。

減額の他にも、

  • 65歳まで遺族年金と併給不可(繰上げ直後に夫が死亡した妻など、65歳以降の年金が減る可能性大)
  • 長期加入者特例、障害者特例は受けられなくなる
  • 在職中(厚生年金に加入している間)は老齢厚生年金に在職調整がかかる
  • 60歳以降に障害者になった場合、障害年金に該当しにくくなる

など、デメリットも多くあります。

そんなデメリットが多い繰上げ受給ですが、なんといっても手続きをするだけである程度まとまった収入を得ることができますので、他に収入が何もなくなってしまった場合には非常に頼りになる仕組みであるといえます。繰上げを選ぶ人の中には「早死にしたらもったいない」という考え方もあるようです。「元気なうちに年金をもらって、楽しみたい」とおっしゃる方もいます。
 

繰下げ受給のメリット・デメリットは?

繰下げ受給は、65歳より後に受給開始を後ろ倒しします。この場合、65歳前の年金(特別支給の老齢厚生年金)がある人は、その受給はした上で65歳時に繰下げをするかしないか判断することになります。

最低1年間据え置きするので、一般的には66歳スタートが繰下げの最短での受給開始です。昭和27年4月2日以後生まれの人は最高10年まで据え置きできるので、一般的には75歳までですね(昭和27年4月1日以前生まれの人は、繰り下げ受給の上限年齢は70歳)。

据え置いた期間の長さに応じて、1カ月あたり0.7%の率で増額計算され、増額は一生続きます。1年繰下げなら8.4%、5年なら42%、10年なら84%の増額ですね。空前の超低金利時代ですから、この増額率は魅力です。

ただし、据え置きすればもらえない期間ができますから、その分を増額された分で取り戻さなくてはなりません。取り戻し終われば、その後は得をするということになります。取り戻すために必要な期間は一般的には12年前後といわれています。66歳から繰下げ受給すれば、78歳で取り戻し、その後は得をする一方ということになります。

注意しなくてはならないのは、繰下げしても増えないものがある、ということです。

具体的には、

  • 加給年金
  • 振替加算
  • 在職し減額調整された部分

増額計算の対象になりません。加給年金、振替加算はベースとなる年金を繰下げすると、一緒に止まってしまいますが、増額計算がないので実質捨てるのと同じになります。したがって、得をするようになるまでの期間も延びることになりますが、特に加給年金は額が大きいので、影響が大きくなりがちといえます。繰下げは老齢厚生年金と老齢基礎年金で別々にできますので、こういった加算がつかない方だけを繰り下げるというのも有効かもしれません。

また、主に女性に多いケースですが、将来遺族年金を受けるようになると、自分の老齢厚生年金は仮に増額があっても、その分が遺族年金からマイナスされてしまうので、老齢厚生年金については元を取るためにはご自身だけでなく配偶者の長生きも必要になります。
 

税金、医療保険、介護保険……繰下げにはこんなデメリットも!?

公的年金も、年金額が一定の控除額を上回ると課税対象となります。年金収入が増えると税金や医療保険(国保や後期高齢者医療)、介護保険の保険料が増加してしまう場合もあります。
 

また、収入が多いと医療保険や介護保険の自己負担割合が増えてしまうことも考えられます。
繰下げで年金額が増えることは生活の安定につながりますが、その他の出費が増えてしまった結果、手取りは思ったほど増えなかった、という事態も考慮に入れておいた方がよさそうです。
 

繰上げ、繰下げ、通常受給のどれが一番いいの?

どれが一番かは、難しい問題です。個々人の家計の状況や考え方による、といえるでしょう。ただ、「年金で悠々自適は過去のこと」といわれ、潤沢とはいえない年金を目減りさせてしまう繰上げ受給は、避けられるなら避けた方がベターといえるのではないかと思います。

繰下げ受給をすれば年をとったときにもらえる年金額が確実に増えますが、寿命の問題もからんできますし、実際問題として「65歳以降年金がない、あるいは少なくても生活に問題がない」人でないと、繰下げはしたくてもすることができません。経済的な事情や、年金に対する考え方、さらにいえば人生観そのものによって、一人一人に合った受給の時期を探っていくことになると思います。年金の受給開始は一生の問題です。あくまでも慎重に検討されることをお勧めします。

まあ、結局、国にボラれる。