まず、音量が大きい。ついに来たな、王道の店だなという感じが、地階を見下ろす入口を覗き込んだあたりからし始める。
店内は、入口近くのカウンター前に展開された会話コーナーとリスニングコーナーに分かれている。私が入ったときはご近所の年輩女性グループ3.4人が井戸端会議のような感じで会話されていた。
何かサークルかなんかの打ち合わせだったのかもしれない。閉鎖的な空間ではなく、地元の人の生活の中にちゃんと組み込まれている店であるようだ。
リスニングコーナーは、大スピーカーに低めのソファー席があって、どっぷりと座る感じ。
腹も減ったので、900円でセットを頼む。ブレンドと何かスイーツが付いていた。後で振り返ってみるとこのスイーツの名前も忘れていた。
正直、食べ方がわからなかったのでスマホで検索してはみた。まあ店の人に聞いてみるのが良かったか、と若干反省したが、いまさら立ち上がってカウンターに行くのも面倒なので、このままソファに沈んだまま食べることにした。結局、適当に食べた。ケーキの生地部分と、クリームとフルーツが別個に置かれて平皿に載って出てくるようなものは何というのでしたっけ。
後で思い出したら、書いておこうと思う。何とか思い出したいと思う。
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思い出せそうにないので検索した。そうだ、シフォンケーキだった。ストロベリーのシフォンケーキのセット、ホットコーヒーを注文したと思う。
お恥ずかしい。このあたりの知識は全くといってない。キッシュという名前も、四谷三丁目の茶会記さんで初めて聞いたような気がする。
シフォンケーキを初めて食べたが、結構食いでがある。ケーキのパン部分に具やクリームが乗っていないので、自分の食べ方で味の変化がいろいろと楽しめてしまう、ある意味贅沢なスイーツだと思った。
それ以上のコメントは今の私には無理だ。申し訳程度についてくるチーズケーキのようなものと違って、その倍はケーキ生地部分がある。
各席のテーブルにはメニューが置いてある。メニュー自体は女性の文字で手書きされていた。原本があってカラーコピーか印刷されているのかもしれない。やや店内が暗いのでその辺りは判別できなかったが、手作り感があって、繁盛している喫茶店さんという雰囲気もまたこの店にはあるのだな、と思った。
メニューにはまた、この店の載った雑誌記事のコピーが入っていたりと、様々な読み物もあるので、周囲の卓のを2、3冊手にとってみることをお勧めしたい。
私が読んだのは2012年のオーナーのインタビュー記事だった。これはまた興味深い内容だった。このジャズ喫茶のプレイスタイルについて書かれていた。
ジャズDJvsジャズ喫茶ということで、アナログLP1面をかけるのがジャズ喫茶のスタイル、一方JamJamのジャズDJは1曲ずつ曲をつないでいくものらしい。
確かにそうだな。こういうスタイルの店と言えば、小林武史氏プロデュースの代々木のカフェがそうだった。DJイベントのような試みも行われているようだった。DJといってもヒップホップではない。
私が入ったときは、女性が切り盛りしており、オーナーが皿を回しているわけではなかった。1曲ずつのときもあれば、2曲くらいかかるときもあったが、いずれにせよ片面ずーっとというスタイルではなかった。
周囲にはジャズ雑誌やジャズ本もあった。平岡正明氏の名前があったので、手にとってみた。ジャズ喫茶の歴史、平岡氏がジャズ喫茶に入り始めた頃のジャズ喫茶の利用の仕方、店の概要などが、実にエネルギッシュな文体で書かれていた。
冒頭少し読んだだけだったが、簡単に言えば、深夜営業の店が新宿や馬場、池袋にはあり、爆音にかこつけて学生運動の打ち合わせをやるのに好都合だったと書かれていた。なるほど。そういう空間だったのかと。
さらに、このメニューを読むと実に面白い記述があった。「店内では居眠り禁止です。見付けたら出て行ってもらいます」のような文言が。実に面白い(何かのドラマのセリフではない)。
むしろ、この爆音、というよりも、これだけの陽気でノリノリのジャズがかかっている中で、よくも眠れるなと思った。リスニングコーナーは私の他にサラリーマンっぽい人が1名いて、私が気づかないうちに途中で帰った。
その後、老夫婦という感じの2名が入ってきた。結構にぎわっている感じであった。気が付けば男性の方はソファーの背もたれに首が乗って上を向いて、ちょっと見には寝ているような様子であった。かといって、店の人が咎めるようなことはなく、もしかしたら、これはこの方のリスニングスタイルであったのかもしれない。女性の方が帰ろうと言いだした時、男性の反応には若干のタイムラグがあったようにも、なかったようにも感じた。まあ、気持ちよくていびきをかくようなマナーの人もいるために設定されたルールなのかもしれない。
また少し脇のテーブルに目を延せば、なにやらガイドブック、ジャズマップのような文言があった。『WAY OUT WEST -KANSAI JAZZ GUIDE-』。地図もある。神戸はもちろん、大阪キタ、ミナミ、京都のマップまである。なぜ大阪では目につかなかったのだろう。やはりジャムセッションだったので、インター8に入らなかったのだまずかったようだ。ライブスケジュール、店の広告、巻末のマップ、巻頭の特集はアナログレコードをデジタル世代が聞くにはどうすればいいのかというレクチャー記事だった。この地図があれば迷子になるようなこともなく、今回の訪問がスムーズになる。関西に来たらこの冊子を手にされることをお勧めしたい。www.facebook.com/jazgra
とにかく、次から次へと様々な情報が目に入ってきて、非常に忙しい思いであった。いささか音楽への没頭がおろそかになったかもしれない。
それにしても、陽気でノリノリな感じがする。ラテンジャズがかかっていたが、こういうのもこちらではありなのだろうか。東京近辺でラテンジャズがかかった店があっただろうか。ボサはふつうにかかるが、ラテンはなかったと記憶している。これも要チェック項目だと思った。
店を後にしながら、昂揚感がこみあげてくる。関西のジャズ。ジャズシーンというものが、あたり前ながらあるのだなと。自分は東京とは違う空間にいて、もしかしたらジャズ喫茶という空間も違っているのかもしれない。上の駄文の中にも、そうした考察のヒントとなるような違いが沢山あるのではないだろうか。正しいか、正しくないかもわからない仮説。いや仮説というより、知っている人にはとっくに知っていることかもしれないが、私は自分の生活圏から400キロ以上離れた地にいて、オーディオの聴けるカフェというものに今回初めて触れたのである。これは面白い、実に面白い。
1時間滞在。シフォンケーキとホットコーヒーセット900円也。
神戸市中央区元町1-7-2 ニューもとビル地下1F
JR元町
078-331-0876
12時から23時