不思議なことだ。
こんな雨の中、僕は走っている
去年と同じコース、道順は、すっかり覚えている
まあ、雨で多少視界が悪いだけで、
今現在一緒に走っているのが3人だ
ということだけは、わかる
スタート後せいぜい15分か・・・


僕はあまり、計算高い人間ではない
確かに、普段は損得を勘定にいれて、そつなくそこそこ
勝ちも無ければ負けもない、そんないやらしい側面はある
そんな風に言えば、嫌なやつだ
ところが、必死な時ほど、計算高く行動できない
その証拠、でもないが、ひょんなことに気づく。
そう2年前ことだ。


1年の時、
彼女に告白した自分はやっぱり、
彼女を好きだったんだ


と思った。



スタート直後、
作戦と呼べるものではない作戦が発案実行された
最初から全開で走る。
最後までありったけの体力でとばす。
これは、長距離だ。
それは定石で言えば、先頭の後ろで体力を温存し
最後、抜いてゴールライン、である。
まあそれが、
雨の天候で比較的短い距離なら
ハイペースで逃げることもできるが、
体調万全の話ならである。
今の僕には、定石の作戦が尚更の場面。
つまるところ正直言えば
本当に何も考えていないのである。


周囲の連中だって馬鹿ではあるが(失礼)、
伊達に運動はしていない
そう、容易くは、はいそうですか、なんて勝たせてはくれない
そうそう簡単に僕を逃してくれる訳などもないはず。
でも、今、先頭を逃げている
このペースを保てるわけが無いといえるスピードで


去年は誰もが予想するはずも無い僕の存在、
当たり前にヘタレていく、演技をしながら
つまりずるずる順位を落としているフリをして
学校が見える頃、エンジンスタート
校門手前まで、先頭に気づかれないように近づき
校庭のトラック前で、先頭
そうすれば抜きにかかりにくい。

あーなんてセコイ


ところが今年はどうだろう。
雨は変わらず土砂降り
アスファルトは不思議な雨の花が咲いているようだ
靴は濡れて重い。

後ろの2人の様子なんてカーブミラーや、
住宅のガラスなどでしか見ることはできないけど、
余裕しゃくしゃくなんだろうね
こっちはもう、やばいかな

そうであっても、僕は
角を曲がるたびにペースを上げていく
おそらく、コースの半分までしか、耐えられない
いや、もう首も脚もかなり痛い
その手前でリタイヤでも、別段不思議ではない
少しでも「事件」が起きてくれることを
期待して、もがいている
でも
もうかなり厳しい状態
わかってる。わかってきている。
僕はもう一人の僕にいう。
案外、序盤トップを競っている場合も、雑談はあるのだけど
この雨とペース、さすがに後ろの2人も無言だ

そうだ、2人も余裕があるほどでは、ない
そうでも思わなければ、やっていられない。

「すでに、妄想状態か?オレ・・・あーしんどぃ」


半分が過ぎた。もう、無理と思われた距離に
身体は悲鳴をあげているが、まだ動いている
体力は不思議と平気だったりもする。
1年という歳月、3年間の学校生活
その時間は、僕の限界を引き上げていた事は
この大会が、終わって数日後に気づいたことだ
そのとき、

「どうして3年なんだろうな・・4年でも、2年でもよかったろうに」


レースは後半に入る。
気持ちの変化か、脚の痛みが感じない。
いや、もう、麻痺し始めている
ペースこそ、まだ維持できている
脚が地面に付く度に、振動が首に響く
この痛みに耐えられなくなったとき
走ることを止めることになるかもしれない

去年、オレにジュースを奢ったヤツが、離れていく
中継の係員が、頑張れと、声援を送る言葉を聞いて
それがわかった。

さあ、優勝候補(男子人気ナンバーワン)君
君のおかげで多分僕は、最初から、作戦なしの丸裸。
自信も心の支えも何もない
どこで抜かれようが、このままゴールしようが、
もう、君次第の状況だ。
好きにしてくれ! 

雨は、まだ変わらず降り続く。




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誰かの為に、頑張る。いや。
僕は人に好かれるタイプの人間じゃない
人気者なんて、とてもいえない。
むしろ、天敵と目されがちな、
あまり友好的でもないのが原因なのか、
自分ではわからないが、クラスで言えば
頭はいいけど、感じは良くないタイプ
なのかもしれない

こうして雨に打たれている自分が、
不思議でたまらなかった
高揚感も何も無い
うっすら後悔すら、感じている
何をいまさら、こんなこと・・・・・

「ゼッケン順で、並んで下さいーー」
まあ、この状況、収拾なんてつくはずないだろう
周囲の風景はまるで自分と関係ないことのようだ

「関係ない・・・・よな・・・」



好きな子は居た。
1年の時、告白してみたこともあったが
友達にしか思えないと、断られた
しかも返事ももらえず
催促したら、彼女の友人がそれとなく言ってきた
まあ、かといって名誉の為,弁解すると
それっきりな訳でもない。
それらしい存在は居たこともあった
ただ、それが自分の身体に鞭打つほど
頑張れる相手だったかは、わからない。
ちなみに、今は、まるでいない。
名誉のために、なってないか・・・・。


夏は終わりを告げようと頑張っているようだった
もう少しそこで、遊んでたい
そう、もがいているような、暑さと涼しさと
スタートライン
無数の出走者の最前列
後ろの人は可愛そうだ。でも、オレも去年その中に居た
今、一番ゴールに近い
けど、考えてみれば何キロという遠いゴールのほんの少し後ろ

「さあ、勝ちにいくぞーー」
またまた、オレって千両役者
どう考えても、無理だろ

ヨケイナコトヲ
無謀な事に対する自分へのイイワケ
ああ、オレってそんな軟弱モノだったね
希望を溜め込んで、はけ口もなく
ただ、現実が通り過ぎると、「あーあ、やっぱり」
なんて、心の中で納得させようとしていた

子供の頃から耳元で言われ続けたような言葉
・・・・人生に、思い通りになることなんてない・・・
まあ、その通りだよ。本当に
日本人の負け戦精神は、いい訳にすぎない
でも、その先を誰かが教えてくれると思っていた
希望はかなわなくとも、何かいいことがあるって

「バーン!」

ほら、くだらない感傷に浸ってるうちに
始まったぞ。

一ついえることは、もう、ここで
「やっぱり、辞めます」なんて言えない事
不思議と身体が軽くなった気がした
もう、やることはわかっているのだから。




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今のところ、痛みは首だけ、
両足は動く、肩が少し重い
雨が冷たい

スタート前にすでに、ずぶ濡れだった。
集合前に、持ってきてるありったけの痛み止めを飲み込んだ
首の周りはテーピングしてもらいたかったが、
この雨のせいで、周囲にひしめく喧騒には、
その願いも遠のいでいく


お偉いさんはいいだろうけど・・テントの中だもんな
こっちもずぶ濡れ、あーあ
「髪の毛、短くしとけばよかった・・夏だもんなあ・・」
すかさず、顔は知っているが名前が出ない少年A
「いや、もう、秋だろ」
毎日学習塾で生活しているもので・・・
全く季節感ないエアコン育ちです・・・・



さてさて、昨年度第一位は、最前列スタートとなりました
優勝候補の八木君、元気ハツラツで、こっちに視線を頂いております。
どれをとっても、オレが、目立ってやるぜ軍団です。
はっ、と気づくと、わが後輩、おいおい、目がマジだぞ・・・
ああ、そっか、彼女いるんだ、コイツ。



「先生、オレ出場します。手続きの担当って、体育教師の先生でOKですよね?」
「ん??首は大丈夫なのか?無理するなよ」
「はい」
「ん?でるの?お前」
「ああ、完走するだけでちゃんと成績になるだろ」
「がんばって!うちのクラス2位だから」
「雨、上がる予報とか、ない?よね・・・」
「天気予報外れてるから、予測不可能」
「あ、そっ」
「何時スタート?」
「15:00、だけど遅れてる」
「雨ダモンネ」
「今年も優勝よろしくねー」
「あんた、首大丈夫なの?」
「出走者名簿の訂正は済んでいますので、最前列でお願いします」
「また、優勝かあ???」
「お、ジュースお返しにきたか?」
「さあね。まあ、後で考えよう」
「そしたら、賭けにならんだろ!」



3年間かあ
もう、終わりなんだなあ
初恋も校庭の奥にあるテニスコートだったなあ
そもそもテニス部に入部したのに人数調整で(人身売買だった)
バスケ部に。サッカー部はもう、人数が多すぎて断られたし。
考えてみれば、何も残せないというか、何かしてもよかったかもしれないのに
だから出る訳でもないんだけが・・・
ただ、それだけの為に2日前に交通事故にあった身体に鞭打って
大雨の中、全校生徒による校内マラソン大会出場
あれ?1年のときは、何してたんだっけ?
女の子の胸、眺めてたかな?あら?w
まあ、いいや。
考えてみれば、一生涯で1度の機会だ
途中棄権でも、走り出してみればいいかもしれない。



「本年のレースも、最後の出走です。雨の中大変ですが・・・」

話が長いのは、全国共通の校長先生殿。
しかし、欠場を謳いながらスタート直前になって
出走となると、その気の連中は、やぶさかでない様子
勝つとなると、容易ではない。

「え・・・今、オレ、勝つこと考えてる?」




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