近藤 「カウンター食らうのは覚悟しとったけど」
近藤 「こんなにキレイに決まるとはな・・・」
二海 「・・・・」
近藤 「ま、どのみち無失点ですむとは思ってへんわい。なあ?」
二海 「・・・・」
近藤 「攻めて攻めて攻め倒したるで!」
二海 「・・・・」
めったにしゃべらない二海だが、考えは近藤と同じだった。
そもそも、大阪は攻撃のことしか考えていないと言われるほど、攻撃偏重のチームだ。
南野が監督に就任して以来、「超攻撃」の看板の元、大阪は実績を積み上げてきた。
取られた点数以上に取る。
3-0だろうが、さらに攻める。
守る代わりに攻める。
2-0で迎えたハーフタイムに「どうして守ろうとするんだ?」とチームに檄を飛ばし、全員を呆然とさせたこともある。
おなじく2点リードしていたときに「攻めの姿勢を出せ!なんとなくで、そのうち入る3点目などない!取りに行け!」と怒り出したこともあった。
この南野の攻撃にかけるこだわりは、選手によく伝播した。
もともと、スポーツはやはり攻撃がおもしろいものだ。
戦術、チーム力によって、守備的なスタイルを余儀なくされる選手、チームも少なくないが、やはり攻撃をしたいという本能はある。
その本能を解放し、特化し、その攻撃力で相手をねじ伏せる快感に大阪は酔いしれ、自らの存在理由にまで昇華していた。
南野指揮下でのサイドバックはほぼウィングの位置まで上がってビルドアップに参加し、ときには単独で仕掛け、逆サイドからのクロスにはファーに入り、フィニッシュに絡むことも求められる。
そして、守備時にはもちろんバックラインに入る。
守備が手薄になりがちな大阪の場合、絞ってCBの位置でFWと対峙することもある。
ビルドアップ、ドリブルという攻撃力と、何十回もアップダウンをこなす走力。
そして、できれば守備力もやはり欲しいのだが、南野は守備力をサイドバックの必須条件にはしていない。
最低でも、走ってポジションに戻り、スペースを埋めてくれればいい。そう見えた。
事実、一年生ながら左SBのスタメンを勝ち取っている安井に、守備力はほとんどといっていいほどない。
1対1も強くないし、読みも良くない。フィジカルも強くない。
DFに必要な、自陣でミスをしないことといった最低限の固さというか、そういうものもない。
安井が、超攻撃の看板を掲げる大阪のスタメンである理由は、いくつかある。
まずは仕掛ける気持ち。
攻撃時の1対1では、必ず仕掛ける。
パスかドリブルかの判断を迫られる方がイヤだと思われがちだが、一定のドリブルができる相手の場合、必ず仕掛けられる方がDFはつらい。
よほどの相手でない限り、全部が全部やられるということはない。
しかし、ドリブルが怖いのは、5回止めても、1回でも抜かれれば、自陣深いところでフリーを作ってしまうからだ。
それは失点に直結する危険な状況である。
そしてサッカーは、何回止められても、たった一回のチャンスで点を取ればいい。
全部やられることもまれだが、全部止めるのも難しいもので、止めても止めても毎回仕掛けてくるサイドアタッカーほど、イヤな相手はいない。
もうひとつは、スタミナだ。
安井の足は速いが、90分アップダウンを続けてもスピードが落ちないスタミナもある。
前でも後ろでも、いるべきところに90分いる。それは監督にとってもチームにとっても、足元の技術以上に大切なことなのだ。
そしてもうひとつの安井の特徴は、両足のキックにほぼ違いがないところだ。
これは練習の成果だが、初めての安井を見ると、誰もが左利きだと勘違いする。
左サイドバックだから、左でクロスをあげることも多いし、余裕があるときでも右に持ち替えずにそのまま左であげることが多い。
逆足とは思えないほど速いボールも蹴れるし、曲げることもできた。
それくらい、逆足を使える練習を重ねた。
これには右SBに加井という実力者がおり、レギュラーを狙うには左を磨くしかないという理由があった。
近藤 「やっぱ、左からやられるのがウチやな・・・」
安井 (うっ・・)
近藤 「1点くらいええわい。ビビらんときっちり上がってこいよ」
近藤 「名古屋の右が怖くて上がってこれなくなるまで押し込んだら、守る必要あらへんさかいな」
ピー!
そして、前半ラスト15分が始まった。