午後。
席に戻った美桜は、
一息つく間もなく、
パソコンを開く。
……が。
「美桜〜」
来た。
声のトーンで、
もう分かる。
「さっきの人、
誰?」
隣の席の同僚は、
にやにやが、
隠しきれていない。
「誰でしょう」
とぼける。
「いやいや。
彼氏って言ってたよね?」
「声、大きい」
「聞こえるって」
後ろの席の同僚も、
くるっと椅子を回す。
「外回りで来る彼氏、
ポイント高くない?」
「ランチ?」
「どこ行ったの?」
質問が、
一気にくる。
美桜は、
一度深呼吸してから、
「……郵便局んとこの定食屋」
正直に答える。
「えー、
もっとオシャレなとこ
連れてってもらいなよ」
「仕事中だし」
そう言いながら、
耳が熱い。
「でもさ」
隣の席の同僚が言う。
「美桜、
いつもより柔らかかった」
「え?」
「表情。
全然ちがった」
一瞬、
言葉に詰まる。
「……そう?」
「そうそう」
「仕事の顔と、
完全に切り替わってた」
美桜は、
画面に視線を落とす。
——そんな顔、
自分で見てない。
「いいなー」
後ろの席の同僚が言う。
「ちゃんと
生活してる感じ」
その言葉が、
少しだけ胸に残る。
午後の仕事。
いつも通りのはずなのに、
ふとした瞬間、
口元が緩む。
慌てて、
画面に集中する。
——だめだめ。
夕方。
また声が飛ぶ。
「ねえ、
今日のランチくん
また来る?」
「来ません」
即答。
「じゃあ、
次は夜?」
「……業務外です」
笑い声。
美桜は、
苦笑いしながらも、
どこか落ち着いている。
冷やかされているのに、
嫌じゃない。
春樹が、
自分の生活に
ちゃんと存在していること。
仕事の中に、
滲んでしまうくらい。
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