夕方の花屋の二階。


店を閉めたあとの空気は、
少しだけゆるんでいる。

台所にはまだ夕飯の匂いが残っていて、
窓の外では商店街のシャッターがひとつずつ降りていく音がする。



麗は畳に座って、
洗濯物を畳んでいる。


洗濯物に蓮のものが混じっている生活に慣れたとは言えないのに、
不思議と違和感もない。


蓮はその横で、
花の伝票をざっと確認している。

仕事の延長みたいな静かな時間。


少しして、
外から子どもの笑い声が聞こえる。


通りを走る足音。

叱る声。

また笑う声。


蓮が手を止めて、
少しだけ耳を澄ます。


「元気だね。」

ぽつり。


麗は顔だけ向けて答える。

「商店街の子どもはだいたいあんな感じ。」

麗はまた洗濯物に視線を落とす。



「へぇ。」

でも、少しだけ考えている顔。


しばらくして蓮がぼそっと言う。

「麗ちゃん、
 子ども似合いそうだよね。」

本当に何気なく。

会話というより、
思ったことがそのまま出た声。


麗は手を止める。

「そう?」

驚きも照れもない。

ただ確認するみたいに聞く。


蓮は肩をすくめる。

「うん。静かな子育てしそう。」

「静か……」

麗はその言葉を口の中で転がすみたいに繰り返す。


それから少しだけ間を置いて言う。

「泣いたらどうするの?」

「抱っこするかな。」

蓮はすぐに答える。


「抱っこ……可愛い?」

「麗ちゃん似なら、なんでも。」


また外から子供の笑い声が聞こえる。

「子ども、いたら楽しそうだよね。」

蓮は軽い調子で言う。
深く考えていない返事。

麗は小さくうなずく。

「そっか。」

それだけ。

また洗濯物を畳み始める。


会話はそこで終わったように見える。

蓮も伝票に視線を戻す。


窓の外では、
さっきの子どもがまだ笑っている。


麗は何も言わない。

でも、さっきより少しだけ動きがゆっくりになっている。


蓮は気づかない。

その言葉が、
未来の理由として残ることを。


−−−−−−−−