こんにちは、弁護士の高島惇です。

 

自主退学勧告を巡る紛争について、最近の動向などを説明したく存じます。

 

自主退学勧告の違法性に関する判断基準について、昨今は退学処分とその性質が本質的に異なるとして、独自の規範を定立する下級審判例が増えています。

例えば、福岡高判令和2年5月29日判時2471号74頁は、自主退学勧告が本質的に退学処分と異なるとしつつ、「自主退学勧告は、当該学校の生徒としての身分の喪失につながる重大な措置であるから、学校が生徒に対して自主退学勧告を行うに当たっては、問題となっている行為の内容のほか、本人の性格、平素の行状及び反省状況、当該行為が他の生徒に与える影響、自主退学勧告の措置の本人及び他の生徒に及ぼす効果、当該行為を不問に付した場合の一般的影響等諸般の要素を特に慎重に考慮することが要求されるというべきである。」、「これらの点の判断は、基本的には、学校内の事情に通暁し、直接教育の衝に当たる校長及び教師の専門的、教育的な判断に委ねられるべきものと解される。しかし、自主退学勧告についての学校当局の判断が社会通念上不合理であり、裁量権の範囲を超えていると認められる場合にはその勧告は違法となり、その勧告に従った生徒の自主退学の意思表示も無効となると解するのが相当である。」として、自主退学勧告が裁量権の範囲を超えているかどうか検討し、仮にその範囲を逸脱して違法である場合には、かかる勧告に従った生徒の意思表示も当然に無効となると理解しています。

同様に、東京地立川支判令和2年2月5日平成30年(ワ)1143号も、「退学処分ないしそれに準ずるような退学勧告については、他の懲戒処分と異なり、生徒としての身分を剥奪する重大な措置であることに鑑み、当該生徒に改善の見込みがなく、これを学校外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って許容されるべきであり、その要件の認定については、他の処分の選択に比較し、特に慎重な配慮を要する。」、「しかしながら、退学勧告の選択も、前記のような諸般の要素を勘案して決定される教育的判断にほかならないことからすれば、具体的事案において、当該生徒に改善の見込みがなく、これを学校外に排除することが教育上やむを得ないかどうかを判定するには、各学校の教育方針に基づく具体的かつ専門的、自律的判断に委ねざるを得ないのであるから、当該事案の諸事情を総合的に観察し、当該勧告の選択が社会通念上合理性を認めることのできないようなものでない限り、同勧告は、懲戒権者の裁量権の範囲内にあるものとして、その効力を否定し、また違法と判断することはできないものというべきである。」としたうえで、「一般に、退学勧告自体に違法性が認められる等の特別な事情がある場合には、その勧告に従った自主退学の意思表示も無効になる余地があるものの、本件における原告の自主退学の意思表示は、違法な退学勧告に基づくものではないことから、有効であると認められる。」として、原告の請求を棄却する判断を下しています。

このように、自主退学勧告につき実質的な退学処分と同視すべき事情が存在するかどうか(懲戒処分としての退学処分に準じて同様の枠組みで判断すべきかどうか)を検討するのではなく、自主退学勧告の法的性質を直接的に検討した上で、仮にかかる勧告が裁量権の範囲内にとどまり適法である場合には、自主退学の意思表示に瑕疵があるかどうかを問うことなく、自主退学も有効であって学校に法的責任は生じないと理解する傾向にあるのです。

 

また、自主退学勧告を直接根拠付けた事由以外にも、原告には日頃から多くの問題行動があったとして、後付け的に訴訟で問題行動の存在を網羅的に主張立証してくるケースも増えています。

この点、問題行動の具体的内容としては、授業中に他の生徒と雑談していたとか、集団行動時に引率教諭の指示を聞きなかったとか、指導にもかかわらず忘れ物や宿題忘れが改ざんされなかったというものであって、単独では懲戒事由と通常評価し得ない態様を多数並べることで、原告の素行の悪さ及び学校秩序への悪影響を立証しようとする趣旨であることが一般的なようです。

このような主張に対しては、心身が未だ成熟していない児童生徒の場合、一定の教育的指導を受けるのは当然であって、かかる教育的指導を捉えて事後的に懲戒事由としての性質を主張することが不当である旨指摘するとともに、そのような軽微な指導をいくら積み重ねても当該生徒を学外へ排除する正当化根拠とはなり得ず、むしろ教育的指導を通じて人格的な成育を促すのが学校の役割である旨、適宜反論するのが重要になるものと理解しています。

 

上記のとおり、自主退学勧告を巡る紛争については、退学処分に関する最高裁判決では説明しきれない側面が示され始めており、その整合性を図る観点からも、改めて最高裁にて判断する必要性は年々高まっているものと思料いたします。

この辺りについて、当職が執筆した「いじめ事件の弁護士実務~弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)においてより詳細に検討しておりますので、興味のある方は是非ご一読いただければと存じます。