今回は本編とは関係ない話

 

 これは甘音がかなでの家に保護された後の話だ。
「そっちに行ったぞ、青龍!!」
 うっそうとした森の中で、【神鳴】を使いながら器用に木々を避けて、空が走る。
 相手を追い込む空の声を受けて、おっかなびっくり【加速】で追いかけていた俺は、ダークイーターを構える。
「ふっ!!」
 真一文字にそいつを斬りつける。しかし、
「当たらんよ」
 そいつは刃の表面をヌルリとすり抜けて俺の横を通り抜ける。
「クソッ、またかわされたぞ!!」
 これで何度目になるかわからない悪態をつく。
 とはいえ、文句を言ってもはじまらないので、仕事はこなそう。
「がっ!?」
 攻撃をかわしたそいつのどてっぱらに、俺のダークイーターが突き刺さった。
 切り払った刃に氣を乗せて、軌道上に【加速】のレーンを作っていた。
 そこにダークイーターを乗せて射出したのだ。
「たわけ」
 スパンと、いつの間にか横に来ていた空が俺の後頭部をしばいた。
「斬撃を当てる訓練だと言っただろうが。かわされる前提の策を巡らせてどうする」
 それはそう。けれども、
「だとして、逃がすわけにはいかねえんだろ、こいつら」 
 そう言って、地面にダークイーターで縫い付けられた敵を指差した。
「気にするな。どうせお前がいなくとも捕らえるのが早いか遅いかの違いに過ぎん」
 空は何の感慨もなくそう言ったが、俺にはそうもいかない。

 ――何せ、これは正式な賃金が発生する『バイト』なのだから。

 

 

「お金を貸してほしい、ですか?」
 話は俺が命にバイクをもらったことから始まる。
 とある日の夕食中に、俺は向かいに座ってサンマの身と骨を箸で綺麗に取り分けるヒメに切り出した。
「ああ。バイクの免許が欲しくてな」
 俺は昨日の夕食で残っていた生姜焼きをモグモグしながら言った。別なもの作るの面倒だし。
 色々あって、無免許でバイクを乗り回したわけだが、人にバレないからといってそのままでいいとは言えないだろう。
「え〜、別によくない? めんどいし」
 ――バイク渡してきた張本人はなんかそんなこと抜かすが、もしやこいつ……
「まさかお前、免許を……」
「いや、持ってるわよ。動かし方知らなきゃ応用できないし」
 だとしても、平然と法を犯せというこいつの遵法精神どうなってんだ。
「? なに?」
「……なんでもない」
 人んちで手伝いもせず遠慮なく飯を食うやつに、今さらな話か……
 モグモグと、最初に骨を外し、身をバラバラにしたサンマとご飯をかき込んでいる命を横目に見ながら、俺はヒメに向き直った。
 とはいえ、実際面倒である以上に、ただの一介の学生である俺にそんな金はない。だからヒメから借りようと思ったわけだ。
「別に必要経費として出してもいいですよ?」
「いいわけあるか」
 ヒメのありがたい提案を、しかし俺は断った。
 色々支援されといて今更かもしれんが、一応外様の俺がどちらかと言えば個人的な理由で金を借りるのだから、そこは一応区切らなきゃいかん。
 なら真っ当なバイトしろよとも思うが、そんな時間はねえし、なんかあったらバイトを蹴る可能性が高い現状では、借りたほうがいい。
 それに、ヒメならいざとなれば俺を『労働力』として使える。返済で面倒なことにもならないだろう。
「ふむ……では、早速ですがバイトをお願いしても良いでしょうか?」
 と、ヒメはみそ汁をすすりながら、俺に今回の仕事を依頼してきたのだった。

 


 で、その依頼内容が「妖怪退治」だったのだが……
「本当にいるんだな、妖怪って」
 俺はダークイーターで縫い付けられたやつを見ながら、そう呟いた。
「くっ、不覚……そしてこの刃は深く……」
「やかましいわ」
 俺はダークイーターをさらに深く押し込んだ。
「おっふっ!? 容赦ないなキミは!?」
 押し込まれたそいつは珍妙な声を上げて抗議をしてきた。まだ余裕あるなこいつ。
 正面から見れば、何の変哲もない普通の成人男性だ。言われなければ妖怪とは気が付かない。


 ――ただ一点、まるで布のようにペラペラであるという事実を除けば。
 
 
「しっかし、俺が知ってる『一反もめん』とはだいぶ姿が違うみたいなんだが?」
「チッチッチ、今平成よキミィ。妖怪だって流行や時代に合わせて姿を変えるに決まってるだろう?」
 一反もめんは指を振りながら、軽い口調で小バカにしてきた。
「日本一有名な幽霊族の少年だってシーズン変わるごとにキャラと声と絵柄が変わるだろう? そういうことだよキミィ」
 やべえな、コイツが何言ってるかわかんねえ。いやわかるけどわかっちゃいけねえ気がする。
「滅殺」
 空が自分の刀を一反もめんの頭に突き刺した。
「ウップス!?」
 情けない声を上げて消滅した。
「よかったのか? 話聞かなくて」
「聞かなくていいことまで話しそうだったからな」
 それはそう。
「ところで一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「幽霊族って実在――」
「なんだ? お前も剣の錆になるか」
 俺は口を閉じた。
 ……実在するのかな〜? 幽霊族の少年。

 


「しっかし軽いやつだったなぁ。死ぬ直前までノリが変わらなかったし」
 森の中を空の先導で進みながら、俺は語りかけた。
「奴等は基本死なないからな」
 と、空が珍しく話に乗ってきてくれた。
「妖怪には二種類いる。【概念そのもの】であるものと、【伝承により生まれた概念】であるものだ」
 ――珍しく饒舌に話してくれたところ悪いんだが、意味がわからねえ。
 俺のそんな空気を感じ取ったのか、空は呆れもせずに説明を続けた。
「前者は雷や水、炎など【自然そのものが形をとったもの】、後者はいわゆる都市伝説や怪談等で【存在するとされた形のもの】、といえば理解できるか?」
 ああ、なるほど。
 日本で言えば八百万。物質に宿る神や現象そのもの――雨や疫病、果ては石ころまで、自然界に存在するものが前者。口裂け女や人面犬といった、【存在しないはずなのにいると言われた存在】が後者というわけか。
「妖怪にはどちらであっても共通する特徴がある。一つは【人のイメージに左右される】。特に後者は噂や伝承に尾ひれがついたり、別のものと同一視されたりすることで特徴がコロコロ変わる」
「じゃあ、あの一反もめんは……」
「どこかの誰かが【平成の一反もめんは人間社会に紛れ込む】とでも考えたのだろう。あのパターンは私も初めて見たが」
 と、ため息混じりにそう言った。そんなに変わりやすいのか。
「もう一つは【概念ゆえに命がない】。例えば、ライターの火を消したとして、【火】が死んだと言えるか?」
 いや、消えただけでまた点ければ……ああ、なるほど。
「そういうことだ。個の意識はともかく、また点ければ【火】は現れる。同じ性質でな」
 つまりアイツも意識としての死はあるが、ほっとけばそのうち復活するから死そのものを重く捉えてないというわけか。
 俺達が遺伝子を受け継いだ別々の個体なら、妖怪は遺伝子そのものが同じ個体を何度も作り直しているようなものか。同じ人格を持ったクローンみたいな。
「概ねその認識で問題はない。そして、今回我々が行う『退治』とは」
 ガサリと、藪を越えた先に、開けた土地が現れた。
「文字通り、【概念】を『退』けて『治』すことだ」
 
 そこには、杉の木の根元に建てられた、古い神社があった。

 


 杉の木が神社を貫いている、というのが第一印象だった。
「また変わったデザインだな、誰が建てたんだ?」
 俺がそう尋ねると、空が、
「誰も建てていない。自然と生み出された」
 そう答えた。
 ――んなわけがあるか。
 どう見ても神社自体は、誰かが建てた人工物だ。
 朱色の屋根に、石造りの鳥居と狛犬。拝殿と本殿まで備えた社殿が、自然に造られたというには無理がある。
「よく見てみろ」
 と言って空は杉の木と本殿の境目を指差した。
「んん〜?」
 目を凝らしてみると、本殿の屋根と杉の木の幹が癒着している。後から貫いたわけでも、外側から取り付けたわけでもなく、文字通り「くっついて」いた。
「アレは『収集機』だ」
 と、空が説明をつなげた。
「この町で生み出される【変質した怪異】を集める術式を、この杉の木を中心にして発動させている」
 要はこの杉の木はアンテナってことか。
「【怪異が集まる場所は神社】という固定観念が術式を通して影響を与えたようだ。その結果、この形となった」
「つまり、あれは神社に杉の木が生えてるんじゃなくて、杉の木から神社が生えたと?」
 空が無言で頷いた。
 と、俺たちが話していると拝殿の戸が開き、
「やあ、また会ったね」
 ――爽やかな笑顔で先ほどの一反もめんが現れた。

 


 まるで何事もなかったかのようにスルリと一反もめんは俺たちに近付き、
「『このボク』とは初めまして、さっきはナイスコンビネーションだったよキミたちぃ」
 そう言って俺と握手をした。
「――記憶は残ってるのか?」
「そりゃあそうさ。ボクは別個体とはいえ同じ【一反もめん】だからねぇ」
 ――なるほど、自認としては別人だが、記憶は【情報】として引き継がれるってわけか。
 ゲームで全滅してセーブ地点からやり直すのと同じ。ゲームの【キャラ】は別個体だが、【プレイヤー】は全滅前の情報を知っているようなものか、正しい例えかわからんが。
「だから斬撃で戦えと言ったのだ。コイツラは情報を蓄積して対抗してくる。有効な対抗策は、知っていても対処できない攻撃――【純粋な技術】だからな」
 空が呆れたように解説してくれた。
 なるほど、俺がやった搦め手は基本初見殺しだ。バレていたら意味がない。
 空のような真っ向勝負の純粋な実力での戦いが一番有効ということか。
「まあ焔の術式があればこそ、ボクはこれだけの早期復活が可能なんだけどね」
「ちなみにコイツには、ここの管理者を任せている。悪意の薄い個体で、比較的人間に友好的だからな」
 空がウンザリした表情でそう説明してくれた。まあ空の性格的に相性悪そうだしなぁ。
「……ん? じゃあなんでわざわざ戦ったんだ?」
 互いに知り合いなら戦う必要なくね?
「はっはっは、決まってるじゃないか」
 そんな俺の疑問に、一反もめんは朗らかに笑いながら、
「あの程度切り抜けられない奴が、ここまでたどり着く資格はないからさ」
 と、一切テンションを変えずに言った。
「――青龍、覚えておけ」
 空はうんざりしたように、
「コイツラ妖怪には人間の常識は、お前以上に通用しない」
 なんだ? ケンカ売られたか?
「基本、妖怪は自分の領域を侵すものに容赦はしない。コイツのような【入るたびに倒す必要がある】程度なら、まだ緩い条件だ」
「だって人間は時間経過で劣化するんだろう? 弱い奴にボクの住処を荒らしてほしくはないしね」
 ――なるほど。
 これが「悪意の薄い、比較的友好的」って言葉の意味かぁ。
「まあその性質を利用して、実戦訓練に利用してもいるんだがな」
「お互いWin-Winってやつだねぇ」
 なるほどなぁ……
 俺、出会い頭に首絞められて危うく窒息死しかけたんだけど。
「今まで怪我人とか出なかったんか?」
「ははは、何言ってるんだい、キミィ」
 一反もめんは一切テンションを変えずに、

「死ぬようじゃなかったら、【実戦】訓練とは言えないだろう?」

 悪びれもせずに、笑って返した。
「――――」
「理解したか?」
 空の言葉に、俺は無言で頷く。
 人間の常識は通用しない。
 明るく見えても妖怪には気を許すなという、空の言外の警告を心に刻んだ。

 


 それはそうとして、
「じゃあ今回退治する相手ってどこだよ?」
 一反もめんがここの管理者だというなら、退治する相手は別にいるということだ。
 まさか俺の研修がバイトというわけでもあるまいに。
「――最近、学校で話題になった都市伝説があることは知ってるか?」
 ふむ……?
 空の質問に、顎に手を当てて記憶を巡らす。
「なんかあったっけ?」
「……そうか、私ですら聞いていたのだが」
 おいやめろ、まるで俺がボッチだから知らないみたいな言い方するのは。
「コックリさんを知っているか?」
 知っている。
 十円玉で気軽に行えてしまう遊びと言われている降霊術だ。
 あまりに手軽にできるせいで学校から禁止令が出るレベルのポピュラーな話だ。
「それの携帯電話版が広まっている」
 ほう?
「やり方はとある番号に電話をかけて、ポケベルにメッセージを送る要領で番号を押して質問をする。すると、答えが返ってくるというものだ」
 空は説明しながら、巫女服の袖から携帯電話を取り出した。
「巷では、【フォンさん】と呼ばれているそうだ」
「なんだその気の抜けた名前は」
 まあよくあるローカルの都市伝説だろ、この程度なら形は違えどどこにでもありそうな話だ。
「そうだな、私も同意見だ」
 空はため息とともに、
「――その噂が、実際に死人を生み出すものでなければな」
 急に話の空気を変える一言を放った。

 


 ――音無さん。
 彼女はそう呼ばれていた。
 生まれつき声が出せない彼女は常にメモ帳を持ち歩き、そこに文字を書いて会話をしていた。
 そんな彼女に携帯とポケベルはすごく便利であった。
 数字を入力することで、今までの文字を書くよりも早く会話ができた。
 彼女は博識であった。
 学校の成績は常にトップで、雑学等にも詳しく、声を出せないというハンデを差し引いても周囲に好かれていた。

 ――そんな彼女を疎ましく思うものもいた。

 ある日、とある女生徒が音無さんの携帯を奪った。
 もみ合っている内に、彼女らは階段の踊り場から足を踏み外し、

 音無さんは首の骨を折り、死んでしまった。

 それ以降、音無さんのポケベルに質問のメッセージを送ると、携帯に答えが返ってくる。
 どんな質問にも必ず答えてくれる代わりに、音無さんの質問に答えなければ呪われる。
 ――そんな噂が、まことしやかにささやかれていた。

 


「ざっ、つぃ……」
 俺はシンプルに感想を吐き捨てた。
「ディテールが甘いし、呪いが急だし、所詮テキトーな都市伝説って感じだな」
「そのとおりさ」
 一反もめんが俺の言葉に同意する。
「そして厄介なことに、ボクら妖怪は【そんな雑な話でも実体化する】」
 やれやれと首を振って肩をすくめるというアメリカンな反応をして、
「話がリアルかどうかよりも、信じられる要素があるか、信じる人間が多いか。そちらの方が重要なのさ」
 と、他人事のように言い放った。
 うーん、情報生命体とでも言うべきか。生物としての矛盾より情報との整合性を重視するっていうのは厄介だなぁ。
「ちなみに、その話って元ネタあるのか?」
 どんな怪談だろうが、発端となる話がある。
 枯れ尾花を幽霊と見間違えた話だろうが、亡者が騒ぐとされた洞窟の正体がただの音の反響だろうが、何もないところに煙が立つのは稀だ。
 となれば、事故なり元となった少女なりがいた可能性は高い。
「――事故はあった」
 と、空は詳細を教えてくれた。
 なんでも女生徒二人が階段から落ちる事故はあったらしい。
 だが、二人とも事故以来意識を失ったままで、まだ生きているとのことだ。
「勝手に殺されるなんて、元ネタの子には同情するぜ」
「そうだな。同意見だ」
 空はため息と共に、

「噂のせいで本当に死ぬなど、浮かばれぬだろうな」

 そう聞き捨てならないことを言った。
「――どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。このまま噂が成立すれば、【音無と呼ばれた少女は死ぬ】。噂を成立させるためにな」
 空の説明によれば、こういう実在の人間をもとにした怪異は、怪異側が現実に寄せることがある。
 そして人間も【自然の一部】だ。怪異としての情報強度を増すには、死んだ人間を取り込むのが一番都合がいいらしい。
「――やべえじゃんよ」
「だから、退治しに来たのだ。完全な怪異として成立する前に」
 つまりアレか、俺たちが失敗したら人が死ぬと……
 しかも成立したら噂通り被害は拡大していくと……
 ――そういうことはもっと早く教えてくれねえかなぁ……と、肩を落とした。

 


「しかし、なんで【フォンさん】なんだろうね?」
 一反もめんが手をあごに当てて首をひねる。が、
「そっちは単純な連想ゲームだ」
 何のことはない。雑な当て字だ。
 音無さん――音が無い――不音(ふおん)。
 そこに電話――テレフォンの後半だけ取って、【フォンさん】。学生の噂らしい微妙に小癪でテキトーな名付けだ。
「で、退治って具体的にはどうするんだ?」
 ぶっちゃけ、ここまでの流れに俺が必要なのかと思い始めた。このままだと給料が出るか怪しい。
「やることは簡単だ。一反もめん」
 空はそう言って一反もめんに先ほど取り出したものとは別の携帯電話と、それにキーホルダーのようにつながったポケベルのセットを渡した。
「はいはい、納めてくるね」
 渡されたセットを持って、一反もめんは拝殿に入っていく。
「あの社は怪異を出力する依代のようなものだ。一反もめんが短時間で復活したのも、あの社の効果だ」
 ちなみに人間が入ると良くて死ぬ。悪けりゃ存在を情報としてバラバラにされたあげく、自我を消されてシステムの一部に成り下がるとのこと。こっわ。
「そこに、被害者少女の携帯とポケベルを納めて怪異化させる」
 ちょっと待て。
「怪異化したら女の子は死ぬんじゃないのか?」
「――お前、怪談はどのタイミングで完成すると思う?」
 と、真顔で聞き返された。質問を質問で返すなと言いたいところだが、まあ考えてみる。
「――実体化した時?」
「違う。【現実の被害者が生まれた時】だ」
 空いわく、現実で【自分は優れた殺人者だ】と言ったところで、一人も被害者がいなければ、それはただの妄言だ。【現実】ではない。
「この段階では、完成前の怪異は【ただの噂】でしかない。どれだけ力があろうが、それを真実だと知らなければ、な」
 観測されない事実は、どんなに凄かろうと机上の空論でしかない。そういうことだろうか?
「そこで、完成前の怪異を『失敗させる』。最初の顕現は、情報を確定させる前例となる。【人を害する力がない】という情報が刻まれ、力を失うということだ」
 なるほど、事実を事実で書き換える。その後怪異が残ろうと、何の力もないのであれば存在しようがしまいがどちらでも同じ。かくして噂は【本当にただの噂】という正しい形に【治】されるということか。
「力の無い噂を成立させるほど、世界には余裕も暇もないからねぇ。噂の元の少女も死ぬことはないってことさ」
 戻ってきた一反もめんが説明を補足してくれた。
「……じゃあ俺は何すんの?」
 この内容に俺が混ざる余地、あったか?
「そこで見ていろ」
 おおん?
「何もするなってことか?」
「違う、『しっかり見ていろ』」
 俺の質問にあまり意味が変わったように聞こえない補足をする空の言葉に首をひねる。
「都市伝説の怪異には、大きく三つの要素があるのさ」
 見かねた一反もめんが指折り数えて、
「【怪異本体】、【体験者】、そして【目撃者】。聞いたことはないかい? 体験者は死亡するのに何故か顛末まで語られる怪談話」
 そう例えを出してくれた。
 そういや珍しくねえな、そういう怪談。体験者死んでるのになんで顛末知ってんだよって大体創作とわかる話。
「そういうことさ。結局【創作】でしかないからそういった話は力を持たない。けど、その語り部が、実は第三者であったってオチがついたら?」
 なるほど、リアリティの担保に部外者が入れば、多少情報の確度が上がる。
 おそらく今回も顛末を語る部外者がいることで、情報の成立がしやすくなるということなのだろう。
「それに、保険はいつだって必要だからねえ」
「保険?」
 一反もめんの呟きに問い返したが、奴はそれ以上答えなかった。
「では、始めるぞ」
 そう言って空は携帯の番号を入力し始めた。

 




――― 後編に続く ―――