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感染症……ステロイド薬の全身的な副作用(1)


こんにちは。橋本です。


ステロイド薬を服用すると、感染症にかかりやすくなることがあります。


多量のステロイド薬を長期に渡って投与すると、様々な副作用があらわれる可能性がありますが。


その中でも、「感染症にかかりやすくなる」という副作用は、とくに注意しておきたい副作用です。


なぜかというと、たとえば、ニューモシスチス肺炎という感染症は、適切に治療をしないと致命的になる大変な病気だからです。


そのため、大量にステロイド薬を使っている場合は、入院して治療をしたり、なるべく人ゴミを避けるようにします。


感染症はささいなきっかけでなってしまいますが、時として、重大な結果につながる危険性もあるので注意が必要です。


ステロイド副作用:感染症


 


日和見感染(ひよりみ・かんせん)とは?


ステロイド薬を大量だとか、長期に渡って服用するとかかりやすくなる感染症。


このステロイド薬の服用した状態でおこる感染症にはある特徴があります。


それは、日和見感染(ひよりみ・かんせん)。


日和見感染というのは、普段は害のない、ありふれた病原体(びょうげんたい)に、感染してしまうことです。


身の回りによくあるような、人間の体にも住み着いているような、普通なら病原体にならないようなもの。


普段は害にならない、細菌、ウイルス、真菌(しんきん:「カビ」のこと)などでも、感染症をおこしてしまう。


そういうのを通常のタイプの感染と区別して、日和見感染とよんでいるんですね。


日和見感染をおこすような感染症は、健康な人なら、普通、かかることはありません。


人間が本来持っている、病原体に対する「抵抗力」によって、感染を防ぐことができるからです。


抵抗力があるから、病原体が体内に入り込もうが、感染することがないのです。


普段から、多少、そのような病原体が住み着いていようが、感染をおこすほどに、やたらと増えてしまうようなこともありません。


しかし。


ステロイドを大量、長期に服用すると、体内の炎症をおさえるとともに、病原体に対する抵抗力を落としてしまいます。


その結果、普段では害にならない、細菌、ウイルス、真菌などに対しても、感染症をおこしてしまうわけです。


ステロイド副作用:抵抗力の低下


 


たとえば、どんなものに感染するの?


ステロイド薬の内服により、抵抗力が落ちた状態では、日和見感染だけにとらわれず、様々な感染症にかかる可能性を考えて、治療を進めていかなければなりません。


なぜなら、特定の感染症だけを想定してしまうと、感染症の診断を間違えてしまい、そのために治療方法も間違ってしまう恐れもあるからです。


早期発見、早期治療するには、あらゆる感染症を想定して、治療を進めます。


その上で、一般的に、日和見感染でおきやすい感染症には、次のようなものがあります。


 


1) ニューモシスチス肺炎


典型的な日和見感染のひとつに、ニューモシスチス肺炎というのがあります。


ニューモシスチス肺炎は、昔はカリニ肺炎ともよばれていましたが、現在は呼び名がニューモシスチス肺炎に統一されています。


ニューモシスチス肺炎は、ニューモシスチス・イロヴェチという特殊な真菌(しんきん:「カビ」のこと)の一種に感染しておきる病気です。


ニューモシスチス・イロヴェチという菌は、ほとんどの人、健康な人にも、ある程度、肺に住み着いているものだといわれています。


この菌があるから、即、肺炎をおこす、というわけではないんですね。


悪い菌が体内で増えないようにする力、感染しないようにする力。


いわゆる抵抗力とか、免疫力とかいった、本来人間がそなえている機能が低下すると、こういった菌の増殖をおさえられなくなってしまいます。


その結果、普段なら害をなさないような菌に感染してしまい、ニューモシスチス肺炎を引きおこしてしまうわけですね。


ニューモシスチス肺炎


 


2) 口腔カンジダ症(こうくう・かんじだ・しょう)


口腔カンジダ症は、口の中に存在するカンジダという真菌(しんきん:「カビ」のこと)に感染することによっておこる病気です。


口腔カンジダ症になると、舌や粘膜に白い苔(こけ)状の膜ができたり、苔状のものがまったくない場合は、粘膜が赤くなったりします。


粘膜が赤くなるようなタイプの症状だと、食べたり飲んだりする時にヒリヒリした痛みを感じることもあります。


口腔カンジダ症
症例写真口腔カンジダ症(こうくう・かんじだ・しょう)


カンジダは、水虫の原因菌としてもよく知られている真菌。


カンジダ自体は、ありふれた真菌で、だれの口の中にも存在しているものです。


しかし、この菌も健康であれば問題ないのですが、抵抗力が落ちていると、口腔カンジダ症を引きおこすことがあります。


そのため、抵抗力を落とす作用のあるステロイド薬を内服しているときは、この口腔カンジダ症になっていないか注意する必要があります。


 


ステロイドでどれだけ、感染しやすくなるのか?


複数のデータを検証したメタアナリシスでは、プレドニゾロン(ステロイド剤の製品名)で、1日10mgなら感染症のリスクは上昇しないと報告しています 1)


1日20mg以上になると、少なくとも2~3倍に感染症のリスクが高まると考えられています。


プレドニゾロンで、1日20mg以上では、投与14日後から感染症の発生率が徐々に高くなります 2)


1日40mg以上になると、日和見感染の危険度がさらに高くなるといわれています 3)


また、もともと治療している病気が何か、でも感染症の発生のしやすさが変わってくるという報告もあります。


その1つが、全身性エリテマトーデス(SLE)という病気の患者では、46%の症例に感染症がおこったという報告です 4)


 


感染を防ぐには?


通常知られているのは、感染症に対しては、抗生物質(こうせい・ぶっしつ)のような細菌を殺す薬、抗菌薬(こうきんやく)。


または、カビを殺す薬、抗真菌薬などを、ケースに合わせて使うことです。


原因菌にあった抗菌薬をうまく選んで使えば、菌が死滅してくれます。


しかし、抗菌薬の予防的な投与は、多剤耐性菌(たざい・たいせいきん)という、薬の効かない菌を増やしてしまったり、真菌への感染を招く恐れがあります。


そのため、予防的に抗菌薬を使う場合は、お医者さんの説明をよく聞いた上で、慎重に判断する必要があります。


ただし、大量のステロイド投与から治療を始める場合は、抵抗力が極端に落ちるため、感染症にかかると致命的になることも考えられます。


その場合は、幅広い病原菌に効く抗菌薬、いわゆる広域(こういき)抗菌薬を予防的に使うほうがいいと考えられています。


たとえば、肺・気管支の細菌感染予防には、クラリスロマイシン(製品名:クラリス錠)。


ニューモシスチス肺炎の予防には、ST合剤(製品名:バクタ配合錠)。


口腔カンジダ症の予防には、アムホテリシンB(製品名:ファンギゾンシロップ)などを使います。


そして、感染を完全に防ぐことはできませんが、手洗いや人ゴミを避ける、生ものを食べないようにするなど、病原体との接触を減らす努力も、ある程度は有効だと思われます。


 


早期発見、早期治療


感染症の場合、早期発見、早期治療が原則。感染の異変に早く気づくことも大切です。


感染の初期症状としては、たとえば、


発熱のどが痛むせきが出るたんが出る口内炎ブツブツができる水ぶくれができるトイレが近くなる尿がおかしい排尿時に痛みを感じる


などがあります。


こういった症状は、ステロイド薬が強力に炎症をおさえる作用を持っているために、気づきにくく、発見が遅れがちになります。


皮肉にも、ステロイドが感染症の症状を隠してしまうわけですね。


発見が遅れると、病気の進行を進めてしまうことにもなりかねません。


少しでも異変に気づいたら、感染症をおこしていないか、喀痰検査(かくたん・けんさ)という、たんを調べる検査。


それから、肺の状態をチェックするレントゲン検査などをおこないます。


症状に効く抗菌剤を適切に選ぶには、検査によって原因菌をきちんと特定することも重要です。


 


ステロイドが減量できるまでは入院管理


このような感染症の治療や検査をすぐにおこなうためにも、ステロイド薬を多量に服用している間は入院するのが原則です。


たとえば、ひとつの例として……


プレドニゾロンで1日40mg以上が必要な場合は、入院

1日40mg以上では、病院内の移動は極力控えるか、マスクを着用する

外泊・外出の目安は、1日40mg以下になってから

病状がよくなってきて、1日25~30mgに減量できたら退院できる


など、お医者さんや病院によってそれぞれ違いはありますが、治療スケジュールの目安を設けています 5)


入院や治療のスケジュールについては、あらかじめお医者さんとよく話し合っておく必要があります。


また、感染症がおこったからといって、あわててステロイド薬を中止すると、逆に危険になることもあります。


場合によっては、症状や体調をみながら、ステロイド薬を増量して治療していくケースもあるんですね。


感染症にかかったとしても、お医者さんの指示にしたがって、ステロイド薬を服用することが大切です。


 


 


 


関連記事:

ステロイド薬を内服した場合の副作用とは?

糖尿病……ステロイド薬の全身的な副作用(2)

高血圧……ステロイド薬の全身的な副作用(3)


参考文献:

1) 小池 竜司: ステロイド誘発感染症. Modern Physician 29(5): 695-698, 2009.

2) 橋本 博史, 金井 美紀: 気をつけたいステロイド剤の副作用. 臨牀と研究 81(5): 798-802, 2004.

3) 井門 敬子, 末丸 克矢, 荒木 博陽: ステロイド剤の服薬指導. 臨牀と研究 81(5): 819-825, 2004.

4) 市川 陽一: リウマチ, 痛風, 膠原病診療update ステロイドの副作用対策はどうしたらよいか. 臨床医 26(3): 380, 2000.

5) 牛山 理, 長澤 浩平: 主な副作用の対策 ステロイドと感染症. 臨牀と研究 78(8): 1441-1444, 2001.