車椅子のおじさんの小説617 | 車椅子のおじさんのブログ

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 翌日の朝、私はトラベルヘルパーさんにおこさせて「弓子さんがあなたの初めての女の服装を早く見たいわと言いましたから、タオルでお顔をふきましたら、用意してきた物を着ましょうね」と言われました。

 すぐに、濡れタオルでお顔をふいてもらったら、車椅子の後ろにかけてあった風呂敷包みをとってもらい、開いてもらいました。

 風呂敷包みから出てきた女物の服を見て(いよいよ女の服装になれるんだわ)と心の底から喜びを限りなく湧き上がってきました。

 まずは白いショーツを身に付けさせてもらいました。

 次は薄い黒いストッキングを身に付けさせてもらいました。初めて自分の足がストッキングに包まれてくる様子を見ていて(すね毛だらけであまりきれいではなかった足がエストロゲン作用ですね毛はすっかり無くなってきれいになって、今あこがれてきたストッキングに初めて包まれようとしているわ。なんだか自分があまり美しくない生物からとても美しい生物に生まれ変わったみたいな気分だわ)と思っていました。

 つぎはボディスーツを、次は黒いセーターを、その次は紫のジャンバースカートを、次々と用意してきた物を身につけさせてもらっていったのです。

 ショーツを身につけさせてもらってから10分後、耳に金縁と黒のハートのイヤリングを付け、首に金のネックレスをかけ、私の初めての女の服装が完成しました。

 それを見ていてくれた弓子さんに「さすが女物のデザイナーだわ。センスがとても良くて、とてもすてきな大人の女性の感じだわ」と言われました。

 それを聞いた私は喜びで胸がいっぱいになってしまって、弓子さんの家での2回目のうれし泣きをしてしまいました。

 その日の弓子さんは前の日よりもかなり具合が悪かったみたいから弓子さんのヘルパーさんが作ってくれた朝ごはんを食べたら、失礼しました。失礼しました。

 その帰り道で、もしかしたら弓子さんに会うのはこれで最後になるような予感がだんだんしてきました。

 その予感が10日後に当たってしまいました。

 今月の始めごろに、弓子さんが近くのお母さまに看取ってもらって天国に旅立っていかれました。享年51歳でした。

 弓子さんのご仏前にお参りに行きたいですけど、デザインのお仕事がすごく忙しいですから、まだ行けていません。お仕事が落ち着いてきたら、お参りに行きます。

 トラベルヘルパーさんにとってもらった初めての女の服装の私と弓子さんの写真を添付します。

 弓子さんの冥福をお祈りします。

以上