車椅子のおじさんの小説573 | 車椅子のおじさんのブログ

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 それじゃ、ほんのちょとさわるね。

 裕三郎の母親はそう言って、薄い青に染められた希美女の足をほんのちょっと触った。

 裕三郎さんは、どうしますか?

 この間、ゆうちゃんに聞いたら、タキシードはなんとなくいやで、はおりはかまがいいみたいよ。自分で気に入った貸衣装を探すみたいわ。

 結婚式場でやったらウェディングドレスと羽織袴ではおかしいかもしれないけど、私の辺でやるだったら何ですいいですね。

 そうだね。近いうちに、ウェディングドレスと赤いイブニングドレスの試着をやってもらうと思うけど、都合はつく?

 金曜日の夜だったら、都合がいいですよ。

 結婚式をきみちゃんのお父さんへのサプライズにしたらいいと思うけど、どうかなあ?

 いいと思います。

 そうしたらお父さんには試着の事を言わないで、べつの用事で出かけると言いなよ。

 わかりました。父にはそう言います。

 それじゃ、金曜日の夜に来てね。

 楽しみにしています。お母さん、私を訪ねてきてくださってありがとうございます。

 希美女はそう言いながら、頭を深々と下げた。

 そして迎えに来てくれた職員に車椅子を押してもらって、会議室から出ていった。

 その3日後の夜、丸村家で着換えの介助に慣れている裕三郎に2着のドレスを試着させてもらった。

裕三郎の母親 サイズは大丈夫?

希美女 ものすごくピッタリです。

 そんな希美女をじいっと見ていた裕三郎は一言こう言った。

裕三郎 きれいだ。

裕三郎の母親 きれいだね。

希美女 2人にそう言ってくれて、ものすごくうれしいわ。ありがとうね。

裕三郎の母親 押入れの奥にしまってあって出すのがものすごく大変だけど、結婚式の時にティアラを付けてあげるから、もっともっとすてきになるわ。

希美女 わーい、そんな物を付けた事がないから、付けてもらうのがものすごく楽しみです。

裕三郎 花嫁姿の希美女がティアラを付けたら、どこかの国のお姫さまみたいな感じになるだろうなあ。

裕三郎の母親 私もそう思うわ。

希美女 2人にそう言ってもらえて、うれしいです。ところで、結婚式はいつやりますか?

裕三郎の母親 そうね。いつやりましょうね。

裕三郎 大晦日が希美女の誕生日だから、その日に結婚式をやればいいよ。

裕三郎の母親 それはいいね。結婚記念日が大晦日できみちゃんの誕生日だから、忘れるわけではないから、いいね。

希美女 大晦日でやるのはいいけど、2日前からパパの衰弱が激しくなってきているから、それまでパパがもってくれるかどうかと心配だわ。

裕三郎 たしかに、昨日俺が往診したら希美女のお父さんはだいぶ衰弱していたけど、ガンでうちの病院に入院していた患者さんはお父さんよりも衰弱が酷かったけど、その状態になってしまったから1か月半ぐらいもっていたから、確信はできないけど、しあさっての大晦日までは本人はかなり苦しいかもしれないけど生きてくれていると思うよ。

希美女 ゆうちゃんがそう言ってくれるだったら、しあさっての大晦日に結婚式をしてくださるように、お母さん、準備をお願いします。

 希美女はうつぶせで床に寝た状態で裕三郎の母親に頭を深々と下げた。

裕三郎の母親 わかったわ。1番にきみちゃんのパパに楽しんでもらえるような結婚式にしましょうね。

 そんなわけで、希美女と裕三郎の結婚式は、希美女の誕生日である大晦日にやる事になった。