車椅子のおじさんの小説19 | 車椅子のおじさんのブログ

車椅子のおじさんのブログ

ブログの説明を入力します。

日曜日の午後のひととき

 ドリームサンの建物は、函館のこうがいの東山町にある借地に建っている。函館肢体不自由者保護者連合が建てる共同ホームの弟1号である。

木造平屋建てで、仲間たちの個室は、日当たりがいい12畳である。南向きの大きい窓は、函館の山に住む動物がよく見える。もちろん、ドリームサンの中はバリアフリーである。

その他にも、世話人やヘルパーの人やボランティアの人が泊まれる部屋と食堂やリフトが付いている浴室がある。

そんなドリームサンで、若者たちは、それぞれの生活をエンジョイしていた。

そんなある日の3時のお茶の時間に、英悟くんと純ノ介くんと黒段くんと世話人として働いているのぶ子さんと紋次郎が、こんな事を話した。

英悟くん「美花ちゃんはお出かけ?」

のぶ子さん「そうだよ。お昼過ぎに、ヘルパーの東ノ杉順子さんと倉庫街のブティックに行ったわ」

黒段くん「美花ちゃんは、おしゃれだからなあ」

それを聞きながら、純ノ介くんが、トーキングエイドでなにやら打っていた。

純ノ介くん「近くで遊んでいた浩くんに、パソコンにフロッピーを入れてもらうとたのんでいるのに、ちっとも聞いてくれないよ。俺は言葉が出ないから、俺の方が年上なのに、浩くんが勝手に純は年下から、いう事を聞かなくてもいいと思い込んでいるみたいだ。まあ、それが浩くんらしいところだけどさ。

英悟くん「俺をお兄ちゃん、美花ちゃんをお姉ちゃんと呼んで、いう事をよく聞いてくれるけど、純は名前で呼び捨てで、いう事をきいてくれないなあ。俺が純くんもお兄ちゃんだからいう事を聞いてあげないといけないよと言っていても、だめなあ。まあ、浩くんが純くんもお兄ちゃんだとわかってくれるまで待つしかないなあ。気長に、気長に待っていろな」

純ノ介くん「それしかないなあ」

英悟くん「浩くんをつれてきたのは、紋次郎くんでしょう。どうして、ドリームサンにつれてこようと思ったか?」

紋次郎「前に友達が指導員をしている知的障害の人たちと身体のハンディの作業所に行っていた時に浩くんに出会ったわけさ。時々行った時に浩くんを見ると、仲間たちの世話をよくするなあ。特に車椅子の人の介助をするという印象があった。友達の指導員に教えてもらって、食事介助やトイレ介助をやっていた。支援費制度が始まってしばらくして、ニュースで知的障害の人がガイドヘルパーの資格をとって、友達の車椅子の人たちを介助していると聞いて、浩くんにヘルパーの資格をとらせてあげて、ドリームサンにつけていって、英悟くんたちの介助をやれば、自立につながるじゃないかと考えて、友達にそれを話した。そいつが浩くんは半年前に入った中年の指導員の事をどうもきらっているみたいで、来ない日が多い。その指導員は浩くんの事をわかろうとしないから、きらっているだろう。電車で通っていて、時々来る事があるけど、作業所の建物まで後100メートル来て、ピー、ピー、バックしますとバックして帰っていく事がたまにある状態だから、ドリームサンの人たちが浩くんの事をわかってくれて、大切にしてくれば、いいと思うといってくれたさ。

英悟くん「そうなんだ」

紋次郎「ここで英悟くんたちに大切にしてもらえながら働く浩くんを見て、楽しそうに働いているなあと思うよ」

英悟くん「浩くんは、昔のトラック野郎の映画に出てくるようなデコレーショントラックが好きだから、去年のクリスマスにそのプラモデルをプレゼントしてあげて、一緒に組み立ててもらうように手が空いているヘルパーの人やボランティアの人にたのんだよ。手伝ってくれる人とプラモデルを組み立てる浩くんは、すごく幸せそうで、いい笑顔をしているなあと思ったよ。

純ノ介くん「俺も、永下くんとパトカーのミニカーを買いに行ってきたけど、本人にわたす時に永下くんがわたしてくれたから、浩くんは永下くんがくれたと思い込んでしまった。まあいいや。今度から自分の手でわたそうと思うよ」

英悟くん「俺は、車椅子の肘掛けの内側にプレゼントをおいてもらって、浩くんにプレゼントだから持っていきなと言ったから、お兄ちゃんがくれたと思ってくれたはずだよ。

紋次郎「それだったら、英悟くんがくれたと思っただろう。考えたな」話しているうちに自分の部屋で遊んでいた浩くんが食堂に来た。

英悟くん「お仕事だよ。お兄ちゃんにプリンを食べさせて、ブラックコーヒーを飲ませてくれる。お仕事が終わったら、おやつを食べな」

浩くん「わかったよ」と仕事をやり始めた。

それを見た紋次郎の心の言葉「浩くん、楽しそうに介助しているなあ。よかった」



紋次郎の死

 12月のクリスマスのころ、ドリームサンのクリスマス会をヘルパーの人たちや歩ランティアの人たちを招待して、盛大にやった。

美花世さんの提案で、招待した人たちに笑ってもらうために、住人全員がストッキングをはいて

衣装を着けて、動物の仮装をした。

 英悟くんは、黒い狼になった。

 純ノ介くんは、ワオテナガザルになった。

美花世さんは、白鳥になった。

浩くんは、黒いウサギになった。

それを見た人たちは、おもしろがってくれていた。

黒段くん「おもしろい。ハンディ野郎の人たちが、本格的に、頭から足の先まできちんと仮装した姿を見た事がなかったから、すごくおもしろい」

順子さん「私も、すごくおもろいわ」

紋次郎「美花ちゃん、よく考えたな」

英悟くん「美花ちゃんは女の人だからいいけど、俺たちもこんなへんな物をはかせられて、いい迷惑だ。そうだろう、純」

純ノ介くん「ハイ」とおもいっきり大きい声で返事した。

英悟くん「浩くんも、そうだろう」

浩くんは、ほんのちょっと首を立てにふった。

順子さん「3人ともふまんみたいだけど、なかなかかっこいいよ」

英悟くん「そうかい。かっこいい実感よりも、気持ちわるい実感が強くて、今すぐにもぬぎたいよ」

美花世さん「だめ。クリスマス会は始まったばかりで、来ていない人がいますから、元の姿に戻ったら、困ります。評判がいいみたいだから、クリスマス会が終わる11時過ぎまで、このままでいると思いますよ」

英悟くん「エッ、後3時間近くもこのままでいるのか。お世話になっている人たちがおもしろがってくれるだったら、しょうがないか。

浩くん「がまんするよ」

純ノ介くん「俺は、足が細いから妙にかっこいいから、後3時間ぐらい、このままでいてもいいと思うよ」

英悟くん「さあ、いつまでも仮装の事を言っていないで、招待の人たちとディナーを食べたり、ゲームやクイズで楽しもう」

それから、英悟くんたちと招待した人たちは、楽しいひとときをすごした。

11時半過ぎに、クリスマス会が終わった。

招待した人たちは、後片付けをしたり、英悟くんたちの着替えを手伝った後に、帰った。

英悟くんにあいさつする紋次郎「今夜は、仮装したおまえさんたちを見られて、おもしろかったよ。また来るわ」

英悟くん「今日はありがとうございました」

それを聞いた紋次郎は、ドリームサンの玄関に向かった。

紋次郎は、その昼間に、クリスマス会でアルコールが入るから、深夜1時に代行運転の予約を入れておいた。

懐中時計を見る紋次郎「12時50分過ぎか。そろそろ道南自動車代行運輸の人たちが来るだろう。そろそろRZ-7の所に行くか」

紋次郎は、しゃれたワインレッドのショートブーツをはいて、玄関を出て、愛車の27年前のEX-7の所に向かった。

ドリームサンの前の駐車場はいっばいだったから、道路の向こうの空き地にEX-7を止めていた。

紋次郎は、左右をたしかめて道路を渡り始めた。

そのごろ、ドリームサンの100メートル手前を走るバンがいた。

紋次郎が道路の半分以上渡った所で、そのバンのライトの光が見えた。

そのバンの運転していたおじさんが、紋次郎を見つけて、急ブレーキをかけたけど、間に合わなくて、紋次郎をはねてしまった。

そのバンのおじさんはバンを止めて、紋次郎の所に行って、声をかけたけど、意識はなかった。

やってきた運転代行の人たちが事故の事を知って、救急車を呼んだ。

救急車が来て、なにやら騒がしい外の様子に気づいたのぶ子さんと泊まりのヘルパーの永下くんが外に出た。

運転代行の人に聞くのぶ子さん「事故ですか?」

運転代行の人「お宅の関係の人がはねられたみたいです。昼間に男の人がドリームサンの前からマンションまでの運転代行依頼の電話を受けまして来ましたら、事故におあわれた事を知ったのです」

それを聞いたのぶ子さん「まさか、紋次郎さんが」

その時、救急車は病院に向かっていた。

永下くん「道路に、おれた紋次郎さんの松葉杖が落ちていましたし、向こうの空き地に紋次郎の車が止めたままですから、紋次郎さんは車にはねられたみたいです」

のぶ子さん「それじゃ、私が消防署に紋次郎さんを運ばれた病院を問い合わせるから、永下くんは英悟くんとドリームサンのリフトワゴンで病院に行ってもらえますか」

永下くん「はい、行きます」

永下くんは、部屋でアルフィーのCDを聞きながら眠りにつこうとしていた英悟くんに紋次郎の事を伝えた。

英悟くん「このドリームサンを作るのにすごくこうけんしてくれた紋次郎くんが寝ていらない。すぐに仕度して、病院につれていってください。のぶ子さんに、他の仲間たちには、こんな時間だから朝俺が帰ったら、俺から伝える。俺が帰ってこなかったら朝のぶ子さんから伝えてくださいと言ってください」

永下くん「はい、わかった」と言いながら、英悟の外出の仕度をしてあげていた。

10分ぐらいで仕度ができて、のぶ子さんに紋次郎の病院を聞いて、リフトワゴンで病院に向かった。

その病院に着いたら、すばやく英悟くんを降ろして、夜間救急センターで紋次郎の事を聞いてみた。

紋次郎は即死だった。

                             つづく