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Kou

音楽雑感と読書感想を主に、初老の日々に徒然に。
ブログタイトル『氷雨月のスケッチ』は、はっぴいえんどの同名曲から拝借しました。

 

 

 

井上陽水『氷の世界』(1/3) ~NHKドキュメンタリ再現~ 

から続く

 

 

 

 

『白い一日』は、あの小椋佳が作詞、陽水が作曲したもの。

 

リリー 小椋佳さんが当時、ちょっとアカデミックなイメージがするというか、文学的なにおいのする歌詞を書く人。銀行員をしながら、この仕事、いわば内職ですからね。

みうら 謎の人だった。 顔も出さなかった。

 

当時小椋は、銀行員という素性を隠して音楽活動。同時に陽水もテレビの出ない謎の存在だった。実はそれもヒット戦略の一環だったという。

 

川瀬 最初の頃って、陽水をテレビに出したくって売り込んでも、そんなに場が無かったんですよね。みんな使ってくんないなってことがあって。それで井上陽水は、「テレビに出ません」って変わっていったんですよね。見ることが奇跡的になっちゃて。コンサート行かないと見れない。井上陽水が大きいアーティストに見えてったと思うんです。

 

 

 

 

そして多賀が意識していた人物は、それが吉田拓郎だった。

多賀 吉田拓郎が(一頭地)抜けてた。音楽の軽妙洒脱さが。陽水とは違う、わかる歌じゃないですか、拓郎の詞というのは。アルバムは始め、陽水なんかより全然売れていた。陽水はそう言わないかもしれないけれど、僕は吉田拓郎を仮想敵にして追い抜こうと・・・

 

陽水 なんてたって圧倒的に吉田拓郎という人が当時いて、僕にとっても見上げるような感じで、燦然と輝いていた事実で、当然意識はしていた。

 

 

みうら 拓郎さんはものすごく売れた『元気です。』 これさぁ、アルバムジャケットも似てる。
リリー 裏はまったく同じです。
みうら 山門の仁王みたいなもの。
リリー ロールシャッハ・テストみたい・・・
みうら ほんとだよね、たしかに。

二枚のジャケットを見較べて

陽水 このジャケットっていうのは、今初めて・・・。これは偶然かいって?、気がしたり・・・

 

 

 

 

 

 

 

なかにし礼 このふたりの出現によってね、いわゆる職業的な作詞家作曲家っていう存在は、ほとんど不要になる。つまりわれわれ職業作家が書き作曲し歌手が歌うっていうこの作業では、1970年代に抱えていた、若者たちの精神の問題を解決する作品には成りえていなかったということですよ。それを彼らがすくい取って、自分たちの作品に反映させていった。

 

 

谷村新司 高度成長に向かっていって、団塊の世代というものすごい人数がいて、そこで勝つことに躍起になっていたことから、価値観が違うんだなということを教えてくれたのが、このアルバムなんじゃないかなと思う。自分はこう思うってことを堂々と主張してもいい。共感する人は支持してくれるだろう。

 

 

なかにし礼 あの時代、『氷の世界』が出たことによって。歌謡界そのものが終わってるんですよ。その後も細々続いてますけれど、それは永遠に終わりの始まりであって、新たに作詞作曲歌うっていうその若者の姿勢がいまだに貫かれている。

 

 

 

B面④ Fun
作詞作曲井上陽水
18票 第13位

リリー 僕この曲好きなんです。
みうら アンケートとったところ、堂々最下位、18票しかとらなかった。
山口  リリーさん、すげぇ好きな曲なのに(笑)
みうら 陽水さんから見たファンの方の歌。


陽水 タイトルが、(自分の)ファンだったら、「Fan」だけれど、Fun:喜び 楽しみ 面白さ。僕の音楽を愛好してくれている女性の方々を意識したのかもしれない。

 

当時一緒にライブツァーをしていた陽水とアリス。
谷村新司 当時、アリスの方は女の子のお客さんが多くて、陽水は男の子のお客さんが多かった。陽水はよく「チンペイのとこはいいよなぁ」、黄色い声が多くてって、しょっちゅう言ってましたね。俺はぶっとい声で「ようすい~!」とか言われて、もうがっかりだよって、言ってましたけど、移動しているときに、ふと彼を見ると辞書を見ている。彼は言葉探しをしている。

 

 

 

 

 

福岡はチューリップや海援隊など数々のミュージシャンを輩出した街。
陽水のファンには際立った特徴があったという。

元ラジオディレクター
井上悟

陽水のファンというのは、陽水が好きだ、陽水応援してますというような手紙はないんですよ。そういう行動に出る人たちじゃない。だからそれが陽水のもっている音楽性だろうと思うんだけど。でもコンサートをやるとわっと集まる。表で出ないファンというものが多かったですね。たとえばCD、レコードを買って、これ持ってるよって自慢するような人じゃないんですよ。そっと机の上に並べて聴いて、深いところで陽水を愛している、僕はほんとに売れてるのって? でも売れてるんですよね。

『氷の世界』発売の翌年、陽水をインタビューしたラジオ番組、『陽水の世界』1974年6月放送。その貴重な録音が残されていた。上記の井上悟が再生し、陽水が自分の声を四十年ぶりに聴く。カッコ内は録音再生。

 

僕はどうして歌が作れるんだろうって、考えて、突き詰めていくと、自分が非常に弱い人間だということにぶち当たる。それは恋愛にも言えるし、僕は彼女のことを、彼女が何を考えているとか、何をしたいとか、とにかく彼女の頭の中とか、彼女のこうどうばっかりすごく注意していた。で、僕が何を考えてるとか、何が嫌なことなのか、全然考えていなかったね。それは彼女から嫌われるのが、とても怖かったからね。でもそういったことで嫌われましたけどね。

陽水 ちゃんとオチをつけてるんだね。

と、大笑い。

 

 

 

陽水 「次のアルバムはロンドンで録音するよ」と言われたが、それは素晴らしいって、ポジティブに受け取らなくて、「やった」って思わなくて、「マジですか?」って。自分のリアクション覚えています。

 

 

 

舞台はトライデントスタジオ。

ビートルズ、エルトン・ジョンがレコーディングをおこなった場所だ。

 

アルバムタイトル曲の『氷の世界』。

実は陽水には、当時流行っていたある曲がイメージにあった。

陽水 スティービー・ワンダーの『迷信』のイントロダクションや、リフ、それから楽器がいいなぁって思って、まずそこから入って。

『迷信』にインスパイアされた、新たな陽水サウンド。
多賀はこのためにロンドン録音を企画したのだ。
しかし現場では想定外の出来事が次々と起こった。

想定外①
ひとつはアレンジャーの問題

アレンジャー星勝 ニック・ハリソン(ローリング・ストーンズ『悲しみのアンジー』などの編曲者)って人が、全部やることになっていたんだけれど、多賀さんがセッティングしていたんだけれど、リズムとかがそれほど得意じゃないってことがわかった。それで「星君出番だよ」(笑)って急遽、それから譜面書き出すわけ。リズム体は僕、弦・ブラスはニック・ハリスンがやったってこと。

 

なかば観光気分だった星に、急遽アレンジが託されたのだ

 

 

そしてコーラスにも想定外の出来事が。

星勝 黒人の女性コーラス3人をお願いしますって頼んだ。そして当日が来たわけですよ。そしたら全部白人じゃない、そして一人だけ男性がいたの。その人が打ち合わせの時に横座りっての? 女性特有のしぐさ、なんかそっちばかっり気になってね。
陽水 四十年前だからね。
川瀬 でもあの頃、日本人のコーラスであんな迫力のあるコーラスはなかった。

 

 

 

 

歌詞の世界は、どうやって生まれたのか?

川瀬 わけわかんない世界じゃない。「窓の外ではリンゴ売り」。

陽水 なにそれ?(笑) プロデューサーの多賀さんから、「ちょっとわかりにくいから、もうちょっと考えた方がいい」って言われた記憶がある。それまでは、はいわかりましたって従順だったんだけど、このへんから親に反抗する的なね、時期を迎えていた。

川瀬 反抗期を迎えていた(笑)

陽水 「毎日毎日氷の世界」は、過激なものを表したいひとつの表現かもしれない。

川瀬 結構、精神的にはパンクだったかもしれないよね。

陽水 窓の外ではリンゴ売りって、どうして出てきたなんて言われると、本当にわからないんですよ。

 

 

 

リリー リンゴ売りだから不思議なんですけど、子供の頃、焼き芋屋さん売りごっこしていたじゃないですか。誰かが焼き芋売りのまねをしているにしたら、全然ぐっと来ないですよね。

みうら 焼き芋じゃだめだよね。

 

 

 

 

伊集院静 ヨーロッパやアメリカというよりも、ロシアとか北欧とかのにおい、不条理、質屋の老婆を殺す若者じゃないけれども、ドフトエフスキーが持っているような世界を彼は感じていたんじゃないでしょうかね。

 

 

 

山口 フレーズがこの曲は突出してショッキング。
リリー 「軽い嘘でもいいから今日は一日はりつめた気持ちでいたい」。日常性を持たせながらも、全然違うことを考えている。
 

 

『氷の世界』は若いミュージシャンの支持が厚いアルバム

ミュージシャン スガシカオ 氷の世界はビートが黒いので、陽水さんて、ブラックミュージックの人なんだということをなんとなく思っていた。ブラックミュージックプラス文学的な歌詞。すごく陽気なビートに悲しい歌詞をのせたり・・・

 

 

 

 

中沢新一 やっぱり今に通じているというのは、「人を傷つけたいな誰か傷つけたいな」。誰もが感じていたことなんですね。で、みんな口にしなかったんです。

 

 

 

小室等 「だけど出来ない理由は やっぱりただ自分が恐いだけなんだな」。このフレーズがなかったら、クオリティはすごく落ちますよね。

 

 

 

中沢新一 ノーベル賞ってのは日本人に驚きでもあるし、この賞はいったい何なのってのを、陽水さんはいち早く、そんなに頑張ってノーベル賞でもとりたいわけ?って毒をはらんだ言い方をしてくるわけですよね。

 

伊集院静 若者にとっての不条理、そいういものがこの時代溢れていたんだと思うんですよ。「リンゴ売り 指切り 傷つけたいな 優しい」ってね、そういう流れというのは、あのときの日本の社会、日本という国家が若者を迎え入れるときの拒絶の仕方っていうね。もっとたくさんの井上陽水がいたということはまちがいない。その人たちが支持をしてくれた、自分たちの目の前の不条理を言ってくれた。

 

 

B面5曲目の『小春おばさん』も実はロンドン録音
147票 第4位

陽水 たしかにマイナーな曲なんだけど、どこか骨太のサウンド。でもなんで『小春おばさん』をロンドンで録ったのか(笑)

 

 

みうら 氷の世界より狂ってる。
リリー こんな普遍的な抒情的な話を、あのアレンジで絶叫している。
みうら プログレッシブロック。
 

 

リリー この貸本屋、まぁ怖くて行きたくない(笑) 貸本屋を開けたらとんでもなく長い廊下が続いていた。

 

 

 

 

曲順はどうやって決まったのか

 

 

川瀬 何回かつなぎ直して、それで頭から最後まで聴いて、こうじゃないなとか、また何回か入れ替えて。
陽水 何回も何回もね。
川瀬 曲間とかさ、これは詰めた方がいいとかさ、これは終わってすぐ出た方がいいとかさ。
陽水 普通に聴けば違いはわからないんだけれど、俺たちは、たとえば3~4人が聴いて、ちょっと短いね、とか、これだ!とか。また頭から聴きなおす(笑)おしりの3~4曲目の順番なんて、また頭から聴きなおしたりして。頭から聴かないとこの感じはわからないとか言って(笑)

 

 

ジャケット写真を撮影したカメラマンが録音スタジオを覗くと、

カメラマン 中村冬夫  (みんな)疲れ切っちゃってるわけですよ。二時間も三時間も同じもの聴いているわけですから、で、わけわかんなくなって、そこへ僕がひょこっと行くと、「あっ、ちょうどいいや、冬夫、どれがいいか聞いてくれる?」みたいな(笑)

 

 

みんな二十代、長髪でジーンズで若きスタッフたちが、のべ三か月かけて録音。アルバム『氷の世界』が完成した。

 

 

 

四十年ぶりにマルチを聴きなおした感想は?

陽水 こうやって時間の経過とともに、こうやっていろいろ当時、星君とか他にもたくさんいたんですけれど、当時は普通の状態で奇跡的だな、ありがたいなて思わなかった、それが普通だったんだけど、こうやって時間が経過して、四十年たってみると、他の人とはできたかなって。だから偶然の出会いっていうのかな、本当にラッキーだったと思いますよね。

 

 

 

 

井上陽水『氷の世界』(3/3)  ~NHKドキュメンタリー再現~ へ続く