毛利元就が隠居した理由は、家中の不平不満をそらし、家中に新風を注ごうとしたことにありました。
よって隠居しつつ、それは形の上だけ。
隆元の後見役に重臣をつけ、元就は隠居後も実権を握りました。
その重臣に宛てた書状などで元就が隆元をどう評価していたかがわかります。
元就は、隆元の孝行と信仰心は「見事である」といって褒める反面、武将としての資質に不安を感じていました。
とくに隆元が山口で大内家(周防・長門の太守)の人質になっていた際、京文化を取り入れた大内家の家風に染まったことを危惧し、敢えて「武略計略調略のこと以外は不要のものだ」と諭し、「来年あたり、鷹狩りで足を鍛えたらどうか」と文化的なものに魅かれる長男に釘を刺しています。
隆元は隆元で自分自身のことをよく理解していたようです。
「名将の子には必ず不運の者が生まれるというが、才覚器量ともに父には及ばない」と帰依する僧侶に愚痴をこぼし、毛利家は盤石とみた元就が61歳の時に完全に隠居すると言いだした際も「そうなったら家を保てないので隆元も幸鶴丸(のちの輝元)に家督を譲って隠居する」とまで言っています。
それだけ父の偉大さを熟知する隆元ですが、その父へ、家の将来に関係する重大な方針転換を迫ったことがありました。
(つづく)
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