貞観8年(866)閏3月10日、大納言の伴善男が御所の応天門へ放火、
炎上させたとして逮捕されました。
事件は、犯人である善男が左大臣源信(みなもとのまこと)の仕業だと清和天皇に訴え出たことにはじまります。
それが讒言だとわかり、事件はいったん振り出しにもどりましたが、『三代実録』によりますと、8月になって大宅鷹取(おおやかのたかとり)という下級官人が応天門を焼いた犯人として善男らの名をあげ、事態は急展開します。
ここに、大臣の座を狙う善男が源信の失脚を図り、罪をなすりつけるために放火炎上させた事実が浮かび上がったのです。
しかし、善男は当時、大納言といってもナンバー2。
源信が失脚しても、上に大納言平高棟(たいらのたかむね)と右大臣藤原良相(ふじわらのよしすけ)、その上には太政大臣の良房がいて、高棟と良相がそれぞれ繰り上がるだけ。
善男は大臣にはなれません。
一方、『三代実録』には、応天門炎上事件に絡んで処罰された者の名が記載され、伴氏一族のほか、紀氏ら藤原氏のライバルとなる有力氏族も連座し、彼らが事件を機に政治の表舞台からほぼ一斉に姿を消しました。
しかも、事件の渦中、その混乱を押さえるために良房が摂政についため、事件の黒幕が彼だったといわれるのですが、話はそう単純ではありません。
(つづく)
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