原作『吸血鬼ドラキュラ』から大胆にかけ離れた『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』とは逆に、原作に忠実に作られたと言われる1992年版の『ドラキュラ』を観ました。
▲深みがありそうで実はない、このジャケットデザインはどうも…
15世紀末のルーマニアのトランシルヴァニア。トルコ軍の進軍を食い止め、帰還した城主ドラクルは妻エリザベータの亡骸を目の当たりにする。エリザベータはドラクルが戦死したという虚偽の手紙を真に受け、自ら命を投げ捨てたのだ。
自殺した人間の魂は救われない事に怒り狂うドラクルは、血を飲み続けても生き永らえ、神への復讐を誓う…。
それから4世紀後のロンドン。ミナとの結婚を間近に控える弁護士のハーカーは、ドラキュラ伯爵からの依頼を受けトランシルヴァニアへ向かう。
ハーカーが持ち歩いているミナの写真を見たドラキュラは、その姿が亡き妻エリザベータに瓜二つである事に驚く。ドラキュラはあの日から今日まで生き続けているドラクルだったのだ。
ハーカーを幽閉し、ロンドンへ着いたドラキュラはミナを見つけ出し……といったお話。
要約すると、400年前に死んだ妻にそっくりな女性を愛する男の話です。
『Bram Stoker's Dracula』という原題が示すように、ブラム・ストーカーさんが書いた『吸血鬼ドラキュラ』=原作に基づいて作られた作品だそうです。
その昔、原作を読んでみようかなと思ったけど、かなり分厚いので腰が引けちゃいましてね(笑)。
何をそんなに書く事があるんだ?と思ったものですが、おそらくは本作と同じように、”怪物”である事より一人の“男”を描く事に重きを置いている……のかな?
それ故、正確にはホラー映画とは呼べない、もしくは呼びにくい作品です。
本作に低評価を下す人は、そのつもりで見たら肩透かしを食ったんでしょうね。
400年も生き続けるドラクルは、エリザベータに瓜二つであるミナとの邂逅を果たします。もちろんミナはドラクルなど知る由もありません。
が、逢瀬を重ねるうちに、ミナは徐々にドラクルに惹かれていく。それはミナがエリザベータの生まれ変わりであり、前世の記憶が宿っている証でもあるんでしょう(この辺は『美少女戦士セーラームーン』のセレニティとエンディミオンを連想させる)。
で、エリザベータの記憶を呼び覚まされたミナはドラクルと愛し合うようになり、バンパイアとして二人で永遠に生きようとする……んだけど、ドラクルはミナに噛み付けない。ド本気で愛している人だからこそ、自分と同じ呪われた存在にはさせられないという葛藤が切なくてね。
ホラー要素を求めている人にとっては、こういうのが邪魔なんだろうなと思いつつ(笑)、本作は恋愛映画と呼ぶ方が相応しいのかもしれません。
本作を観て思うところで、バンパイアって変身能力はあるの?と。
老けたり若返ったりと、容姿がコロコロ変わるのは質のいい血を飲んでるかどうかだと解釈するとして、蝙蝠男ならまだしも狼男にまで変身できるんだから、もう何が何だか(笑)。挙句には、霧にまでなっちゃうしなぁ。
この時点でもうこの世の者にあらずな、完全に呪われた存在になってしまった表れでもあるのです。
哀しさや切なさを背負っている事には同情できるドラクルですが、人間にとっての脅威である事には間違いありません。
そんなドラクルを宿敵視し、退治しようと躍起になるのがヘルシング教授。
演じているのはアンソニー・ホプキンズさん。既にレクター博士という強烈キャラを演じているせいか、本作でもその片鱗が見えます。
親友ルーシーがドラクルの毒牙にかかり、その最後の様子を尋ねたミナに対し1ミリも気を遣う事なく、首を刎ねて心臓に杭を打ち込んだ事実をサラッと言ってしまうような、なかなかの胆力の持ち主です(笑)。
どこか変人っぽいところがありますが実力は本物で、徐々にドラクルを追い詰める姿がカッコ良いんですよ。
内容的にも特撮を多分に使っていますが、あからさまなCGは見当たらなく、ミニチュアやマットアートといったアナログな手法による撮影が多めなのは、どこかノスタルジックで好きです。壁に映る影とかね。
本作は1992年の作品で、CGを多用するには時期尚早だったのもあるけど、古典と呼べるくらいに古い作品を映像化するなら、古い技術で撮ってくれる方がいい雰囲気が出ると思うんですよ。
今に思えば、キャストも豪華で魅力的ですね。
主人公ドラキュラを演じるゲイリー・オールドマンさんと言えば、90年代の悪役俳優の代表格。狼男やら蝙蝠男も自ら演じるだけでなく、妖しさや哀しさをも表現する姿は、まさに好演。
そしてヒロインのミナを演じるウィノナ・ライダーさんと、その婚約者ハーカーを演じるキアヌ・リーヴスさんが若く、初々しく、そしてどっちも可愛い(笑)! 顔の1/3がヒゲで真っ黒な近年のキアヌさんにガッカリしている人は、本作での美青年っぷりに驚けるんじゃないかな?
あと、個人的に本作はウィノナさんが最も可愛いと思える作品だと思っています。
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あらっ、配信版はヒットしないみたいので、興味がある方はセルフサービスで…。
ところで、冒頭で本作は原作に忠実云々と綴りましたが、確か公開当時にはそんな事を言っていたんですよ。
…が、Blu-ray版のメイキングを見ると、俳優の意見やアイデアを取り入れる事が多かったという証言があります。
この時点で“原作に忠実”ではなくなってるよね(笑)。
まぁ、察しの良い人は小説から映画に、公開媒体が変わった時点で“忠実”なんてワードは鵜呑みにしませんがね。年月が流れるごとに、これが分からないバカが増えちゃってまぁ…。