『俺たちに明日はない』を観ました。
車を盗もうとするところを見た事から、ボニーはクライドと知り合う。
刑務所帰りのクライドに興味を持つボニーは刺激を求め、共に銀行強盗を働くようになる。
まだ若いモスやクライドの兄バック夫婦も仲間に加わり、5人になったバロー・ギャングは今日も銀行を襲い、その名は徐々に知れ渡るようになる。
思いのままに強盗を働いては警察に追われる日々を過ごすバロー・ギャングだったが、警察の包囲網は徐々に狭まって行き……といったお話。
要約すると、衝動のままに強盗を続ける一行が徐々に追いつめられる話です。
クライドとボニーのカップルが、衝動のままに犯罪を重ねる様を描いた作品。
世の中にはワルっぽい男に惹かれる女性は少なからず存在しているようですが、本作のボニーもその中の一人。
刑務所帰りでありながらもなお犯罪意欲を失わないクライドとの出会いは、平凡な生活からの離脱を求めていたボニーにとっては千載一遇の機会で、惚れた男に自分を合わせるタイプです。
芸能人でもいるじゃないですか、清楚系なイメージなのに何でこんな胡散臭い男と結婚するの?と思わせておいて、しっかり失敗する女性タレントとか(笑)。
衝動的に好いた男に付いて行きたい一心も、根っことしてのタイプが異なればいずれは破綻が待っているものだけど、離れないどころか改心の兆しを与えたんだから、クライドに対するボニーの想いは本物だったんでしょう。
…つっても、そんな男女愛を説くような趣旨の作品ではないので、想像通りのオチが待っていますが…。
元々ボニーが興味を持ったのはクライドであって、強盗をやりたがっていたわけではありません。好きな人がやってるから自分も、といった感覚というか。
なので、クライドと一緒にいられればそれで良しなんですが、徐々に仲間が増えてしまい、なかなか二人っきりになれない事にもどかしさを感じるんだから、ボニーはハスッパに見えて中身は乙女なんですよね。後半になってくると、その辺が顕著に表れてきます。
見た目はそこそこ以上、ムショ帰りのワルっぽい雰囲気を漂わせる――ボニーの目に映ったクライドとは浮世離れすらした、今まで目の前に現れなかったタイプの男性だったんでしょう。よっぽど平々凡々な生活なり人生を過ごしてきた事が想像できます。
そんなボニーが一目惚れするクライドは悪どい事にもイケイケで、女性を手玉に取るようなタイプにも見えますが、男性としてはデリケートな弱点があるのが面白い。
明確な描写をせず、分かる人には分かる程度にしか見せないのも節度があっていいんですよ。
人を殺してしまったクライドがボニーに別れを告げた後のベッドシーンとか、鈍い人には何が起きているのか分からないんじゃないかな(笑)。
そんな感じで女が苦手とうそぶきつつ、単に繊細だったクライドですが、終盤にしてどうやら上手く行ったようです。
この頃には、多少ながらも強盗稼業から足を洗おうとしている様子が伺え(ボニー共々服装に変化があるのがその証左?)、真人間に近付いた事でちゃんと機能を果たすようになったと考えるのも一興です。
…この辺、わざと主語を略しているので、本作を見た人でも分からない人は分からないと思います(笑)。
「何がそんなにいけないんだ」
ボニー&クライドに感化される事を父親に咎められるモスの言葉ですが、まさに本作を表す一言。世間が思う悪を悪と思えない、完全に道徳心が歪んでしまった人たちのお話です。ここは『明日に向かって撃て!』にも通じるところがありますね。
特にクライドの倫理観は、いわゆるモラルハザードと呼べるくらいにズレています。
クライドの不幸は、それを咎める人がいなかった事です。兄であるバックもムショ帰りで、弟と一緒になって強盗をやってる時点で、もうね。
ボニーの母親は面と向かってクライドを断罪しますが、当の本人はヘラヘラ笑うだけで1ミリも気にしていないという(笑)。
クライドは犯罪者としては無垢ではあったけど、それが通用するような世の中ではなかった事をラストで思い知らされるのです。あれを可哀想な終わり方だったと感じる人は、クライドと似た気質を持つ要注意人物かもしれません(笑)。
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Blu-ray版の映像特典は、本作のベースとなった実話を追うドキュメンタリーやメイキングです。
吹替版は随所でオリジナル音声になる不完全版です。バックお得意のアメリカンジョークを吹き替えで聞いてみたかったんだけどなぁ。


