新卒で始めた仕事は、秘書だった。約15年間の秘書の仕事を通して、転職も経験し、日本人のボス2人、アメリカ人のボス4人、オランダ人のボス1人を担当した。以前のブログににも書いた通り、経済的自立が就職の当初の目的だった。特に好きではない職業だったが、今振り返ると、この仕事を通して、得られたことも多々あるので、まとめてみたい。

 

 

 

ボスとは、会社の上層部にいる人である。組織の上層部にいる人は、現場にいる社員より、高い視点を持っている。視点の高さの違いが、現場と経営者の摩擦を生み出す要素の一つともいえる。秘書を経験してよかったことは、高い視点に触れることができたことである。

 

ボスは上場企業であれば株主を見ながら、外資系企業であるなら本国CEOの顔色を伺いながら、財務諸表を見ながら、企業理念に添って利益を最大化できるよう、企業内全体を見渡している。

 

各部門は、ゴールに添ったストラテジーを決めて、動いていくことになるが、そもそもゴールがあいまいだったり、明確なゴールであっても十分社員に浸透していないこともあった。なぜやるのかという対話をすることもあまりないので、何のためにやるのかというゴール意識が薄れ、ただやることに執着することがあった。各部門は部門の利益を最優先したい気持ちから、部門間の対立が生じることもあり、部門間をまたぐ水平的横断的連携がうまくいかないこともあった。

 

現場は顧客第一主義で考え、上層部はエクセルシートの数字が美しくなるような、定量的に魅せるプレゼンテーション作成を目指していた。それぞれの立場によって、無意識の中で重要視していることが異なるので、現場と上層部でも垂直的縦断的連携がうまくいかないことがあった。

 

秘書の目線から見える組織とは、例えるなら、織物を織っている行為である。組織という漢字を見ると、糸偏が二つ並んでいる。横糸は他部門の連携、縦糸は上層部と現場の連携、織りたい織物をイメージしながら、縦糸と横糸が切れないように、たるまないように、美しくなるように、指揮しているのがボスの役割だったではないかと思う。

 

少しでも理想の組織に近づけるように、私自身が、どのようなありかたで関係者とかかわり会話をすればいいのか、自問するようになった。特に無意識に行っていることは自分では気づかないので、問いかけることが大切だと思っている。この経験が、後にコーチングを学ぼうというきっかけになっている。

 

好きではないと思って始めた秘書の仕事ではあるが、そもそも仕事をした経験がなければ、もやもやするとかしっくりこないという感覚があるのは当然なことだ。そんな感覚と一緒にいるのが不快なので、嫌いあるいは好きではないと感情にラベルを貼りたかったのが、秘書時代だと思う。好きという気持ちがなくても、経験を積めば、スキルや知識が身につく。経験、知識、スキルが身につけば、役に立っているという自己有用感も高まる。

 

仕事は好きではなくても続けていれば、次へのキャリアに転用できる武器を得ることができる。好きでなくても、しばらく続けてみることをおススメしたい。