14歳で調香師になりたいと決意した時は
おそらく人生で最も嗅覚が鋭く洗練されていた。
どんな香水でも丸一日つければ、トップノートからラストノートまでを完全に記憶できたし、香りの記憶を自分の血肉にすることができた。
だから、大人になったら香りの魔術師になりたいと思っていた。
時は流れ、大学時代にバーテンダーになった私は
「バラの香り」「すみれの香り」「南の島のの香り」
「人肌の香り」「喜びの香り」「大切な人を悼む香り」
とさまざまな香りのカクテルを生み出しては、お客様のお気持ちに寄り添っていた
(まだミクソロジーという概念のなかった、正統派が主流の時代です)
その後、アロマセラピストとして勤務させていただいたサロンでは、数十種類の精油(アロマオイル)を自由に調合して、お客様のオーダーメイドの香りをお仕立てして差し上げることができた
本当にありがたいことに、一本一万円をこえるローズやネロリやサンダルウッドといった高級な香りとも、思う存分に触れ合うことができた
お客様からも「この香りを閉じ込めたい」「香水にしてください」「こんなに心に響く香りは初めて」とあたたかい涙を流して感動していただけた。
香りと施術に感動して、ずっとこの感覚を感じていたいと仰ってくださったお客様へは、お守りとして精油で作ったオーダーメイドの香水をお渡しし
私の創る、香水瓶を模したジュエリーからは、いくつもの不思議な奇跡が巻き起こり続けた。
そういった「相性の良い」方からは、お互いがお別れを名残惜しく離れがたく感じ
出会えたことに感謝してハグし合えるような、最初から最後まで幸せに包まれるような、多幸感に涙溢れ
必ず次のお約束をいただけた。その約束が未来への希望のように感じていた。
いつからだろう、恐らく赤ちゃんを授かったあたりから、香りの感じ方が様変わりした
鋭すぎる嗅覚はつわりを引き起こすので、きっと脳が身体機能にブレーキをかけたのだ。
「魔女の宅急便」のキキのように、上手く魔法が使えなくなっている事に気づいた。
自分の中のホルモンバランスが変わったためか
あるいは緻密な計算と計画が必要になる妊娠出産に24時間頭を使いすぎていたせいなのか
頭はぽかぽかするのに手足と鼻は冷たいような感覚を覚えた
そして、自分の体が子宮周りに全力でパワーを集め、新しい命をお腹の中で育み生み出すことに、全エネルギーが使われているのを感じた。
外に向かって使われていた魔法が、私自身の体に魔法をかけるように、内側に魔法が巡るようになったのだ。
産前産後、たくさんの妊婦・経産婦さんにふれさせていただいて
どの方も、ご自身の何かと引き換えに、お子さまへ魔法を使っていらっしゃるように感じる。
「炊き立てのごはんの香りが」「お味噌汁の香りが」「タバコの香りが」と香りがつわりへのトリガーとなり、嗅覚に変化を覚える方は決して少なくない。
スイスの生物学者クラウス・ヴェーデキント博士の研究によると、女性は自分と異なる(HLA)遺伝子型を持つ男性の匂いに惹かれ、自分の赤ちゃんの香りを好ましいと感じるそうなので、思春期〜出産適齢期に最も嗅覚が鋭くなるのは道理である。
実はあの時、とてもショックだった。
香りを生業にして今まで生きてきたのに、特定の精油が香らなくなってしまったり、そのためボトルを取り違えてしまったり、普段ではしない失敗をした。
「香り」に助けられて生きてきた私は、心の中で小さく絶望した。
だからこそ、出産が終わったら、嗅覚が戻ったら
もう一度「香り」に向き合って、喜びを生み出したいとずっと思っていました。
その集大成が「世界を旅する香油瓶」です
「香りの魔法」のつかいかた、私も時折ふと忘れてしまうことがあります。
そんな時は、ぜひ会いに来てください。
美味しいハーブティーを囲みながら、不思議な奇跡を巻き起こしましょう。