◆前回のあらすじ◆
前回——3年ぶりのMが、宿題として細く繋がっていた。
そして私は、Aに会うために航空券を取った。
【初めてのフィリピン】
フェードアウトした、と第2部の最後に書いた。
あれは、嘘ではない。
連絡は薄くなり、既読は遅くなり、私たちの間の温度は確かに下がっていった。
ただ——下がりきる前に、私の中で妙な火がついた。
このまま消えていくのは、違うんじゃないか。
Zは自分から終わらせた。
Aとは、終わらせてすらいない。
ただ、だんだん喋らなくなっただけだ。
それはあまりに、締まりのない終わり方だった。
鉄格子の家に帰っていったAを、私はまだ、あの焼肉屋の私服のまま覚えていた。
会いに行こう、と思った。
思ってしまえば、あとは早い。
この物語の男は、いつだって思いつきから行動までが早い。
会って5分でプロポーズする男である。
フェードアウトを止めに海を渡るくらい、造作もない——と、その時は思っていた。
2026年3月、私は初めてフィリピンに飛んだ。
目的は、書くまでもない。
Aに会うためだ。
子どもを産みたいと言った女性、鉄格子の家の女性、薄くなりかけている女性。
会って、確かめたいことがあった。
確かめて、どうするつもりだったのかは、自分でもよくわかっていなかったが、とにかく航空券を取った。
取って、宿を取って、日程を伝えた。
そこまでやって、返ってきた返事はシンプルだった。
「終わり」
——出発前、である。
チケットは、もう取ってしまっていた。
Aに会うために取った航空券が、行き先を失った。
宿もある。
日程もある。
ただ、会う相手だけが、消えた。
普通の男なら、ここでキャンセルするか、一人で異国を観光して帰る。
だが私は、普通の男ではなかった。
この物語を読んできた人なら、もう知っているはずだ。
私には、Mがいた。
正直に書く。
実はこの時期、Mとも連絡は細々と続いていた。
第1話で書いた罪悪感の通信線は、細いまま、切れていなかった。
Aに閉め出された私は、そのMに、連絡を取った。
フィリピンに行く。
会えないか、と。
Mは、いいよ、と言ってくれた。
我ながら、見事な乗り換えである。
Aに会うために取った航空券で、Aに振られた足で、その日のうちにMへ。
花から花へ、というより、枯れかけた花から次の花へ。
パロパロ(蝶々)とは、よく言ったものだ。
この時の私ほど、その名にふさわしい瞬間もない。
そうして私は、初めてのフィリピンに、Aに会いに行く男として航空券を取り、Mに会う男として飛び立った。
人生の予約と実装は、時々ずいぶん食い違う。
パロパロが、海を渡った。
◆次回予告◆
第3話「ずっと一緒にいてくれた」——Aに会う男として飛び立ち、Mに会う男として着陸した。
3年前に黙って消した女性が、隣にいてくれた話。
この物語は全4部の実録エッセイです。
第1部・第2部・幕間は全話無料、クライマックスの第3部はnoteで公開しています。
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