◆前回のあらすじ◆
前回——8ヶ月かけて冷ました気持ちは、Zの顔を見て3秒で蒸発した。また毎週、高速90分の日々が始まった。
【見てはいけないもの】
再開してからの日々を、少しだけ書いておく。
同伴は、何度もした。
ニンジャが消えた時代の恋は、店公認のデートを重ねるしかない。
待ち合わせて、食べて、そのまま店に入って、閉店まで。
以前より通う頻度は少し減った。
それでも、ほぼ毎週出かけた。
90分の高速は相変わらずで、財布の軽くなる速度も相変わらずだった。
店のスタッフや店長とも、すっかり顔見知りになっていた。
セット時間の終わりを知らせに来るスタッフは、いつからか「延長ですよね」と語尾を確認に変えていた。
聞く前から答えの決まっている客。
それが、あの店での私の座席だった。
断ったことは、たぶん一度もない。
一度冷めた恋の二周目は、一周目より静かで、その分だけ長く続く。
そんな日々の先に、2回目のサヨナラが来た。
その夜も、私は閉店までいた。
ドレスのZを見届けて、歌を聴いて、名残を惜しんで、店を出て——駐車場で、見てしまった。
他の客の車の窓に、Zが顔を入れて、何かをしているのを。
距離があった。
暗かった。
何をしていたのか、正確にはわからない。
わからないが、わかった。
ああいうものは、わかってしまう。
私は大声で叫んでいた。
何を叫んだのかは覚えていない。
その夜Zに送った鬼のようなLINEの内容も、よく覚えていない。
Zの返事は「なにもしていない」だったと思う。
それすらあやふやだ。
覚えていないのである。
本当に。
あの夜の記憶だけ、フィルムが焼けたように飛んでいる。
トラウマというのは、記憶に穴を開けるらしい。
世界で自分だけに許された場所だと思っていた「一歩の隙間」は、たぶん、駐車場の数だけあった。
答え合わせは、こうして最悪の形でやってきた。
◆次回予告◆
第8話「桜」(第1部・完)——それでも、である。男は謝り、Zは三度目の来日を果たし、二人は初めての桜を見に行く。何度も聞いて、何度も「違うよ」と言ってもらった質問を、男はきれいすぎる帰り道にまた落としてしまう。
この物語は全4部の実録エッセイです。
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