◆前回のあらすじ◆

 

前回——会って5分で「結婚しよう」と軽口を叩いた男。Zは大きな目がなくなるくらい笑った。

 

 

 

第二話【高速90分、通い妻ならぬ通い客】

 

 

 

その夜のうちにLINEを交換した。

 

交換した瞬間から、Zはまめだった。

 

おはよう。

 

ごはんたべた? しごとおわった? ひらがなの多いメッセージが毎日届く。

 

私も毎日返した。

 

40を過ぎた男が、通知が鳴るたびスマホを裏返して確認する生活が始まった。

 

翌週、もう会いに行った。

 

高速で90分。

 

しかも近くのビジネスホテルを取って、2日連続で通った。

 

1泊してまで通う店か? と当時の私に聞きたい。

 

当時の私は「うん」と即答するだろうから聞くだけ無駄である。

 

そしてその遠征で、私は人生で初めて、ああいう店に一人で入った。

 

これがどれくらいの事件か、わかってもらえるだろうか。

 

私は一人で居酒屋にも入れない男である。

 

カウンターで店主と何を話せばいいかわからず、注文の声が小さくて聞き返される側の人間である。

 

その男が、異国の言葉が飛び交う夜の店の扉を、一人で開けたのだ。

 

人は、恋をすると行動から先に変わる。

 

自覚はあとから追いかけてくる。

 

それからはサヨナラの日まで、ほとんど毎週通った。

 

週末が近づくと自然と車が南を向く。

 

地元の友達に声をかけて、はるばるフィリピンパブ遠征などという意味のわからないイベントも開催した。

 

友達も友達で、なんだかんだ付き合ってくれた。

 

往路の車内は男たちの馬鹿話で、復路は決まって静かだった。

 

財布が軽くなると、男は無口になる。

 

金の話をしておこう。

 

1回の来店で、セット料金、Zのドリンク、延長、指名料。

 

調子に乗ればすぐ諭吉が数枚消える。

 

それが毎週。

 

高速代とガソリン代は別勘定。

 

この時期の明細を今エクセルに起こす勇気は、私にはない。

 

 

◆次回予告◆

第3話「ニンジャ」——同伴ではない、店に隠れた非公認デート。Zが小さくないリスクを取って会いに来た昼、帰り際の車のそばで起きたこと。

 

この物語は全4部の実録エッセイです。

 

 

第1部(全8話)は無料、クライマックスの第2部以降はnoteで公開しています。

 

 

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