星天に瞬いて 8 | 気まぐれ図書館

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「きっと、お父様もお母様も心配してるわ。それに、このまま、悪魔が暴れて、ライト様が傷つくのも見たくないから」

「サイス、いや、王帝陛下も、君を心配してた。君を救ってくれ、と」

「サイスくん…」


 一筋、また一筋と、彼女の頬を滴がこぼれ落ちていく。それでも、彼女は笑っていた。


「だったら、尚更ね。お願い、ライト」

「あぁ」


 レヴィエンスの言葉に強く頷いてみせ、ライトは、体中に走る痛みに耐えながら、彼女に笑顔を見せると、リンの隣に立った。


「待たせたな」

「あぁ、行くぜ!」


 言って、ライトとリンは真っ直ぐに手を伸ばし、人差し指と薬指をマモンに向ける。


「冥界アルルの王、オシリスよ。彼の御霊を鎮めよ。導きの力を、我が手に。イブリース・ケトム!!」


 刹那、リンの魔術を破ろうと必死になっていたマモンの動きが止まり、そのまま霧散する。そのかけらが、陽光の中で小さな宝石のように舞った。


 その光景をぼんやり見ていると、後ろで、どさり、と、倒れる音がする。


「レヴィー!」


 何とか悲鳴を上げる体に鞭を打ってかけよれば、レヴィエンスは浅い呼吸の中、自分を抱きかかえるライトを真っ直ぐに見詰めて微笑んだ。


「ライ、ト…」

「あぁ、ここにいる」


 言って、彼女の手を握ってやる。コートが落ちてしまった彼女の体からは、煙が立ち上っていた。次第に、体から生気が抜けていくのがわかる。


「私、最期に、ライトに出会えて、良かった…」

「レヴィー…」


 彼女の言葉に、何だか胸が締め付けられる。そう遠くない未来の、自分を見ているようで。


「レヴィー」

「リンくんも、ありがとう…」


 少し掠れた声でそう言って、やはり彼女は微笑む。それは、とても優しく、残酷な笑みだった。


「ライト、様…。もし、巡り合うことが出来たなら、また…」


 その後に続くはずの言葉は、レヴィエンスの体から立ち上っていた煙が消えていったように、途切れていった。


『また、会って下さいますか?』


 昨日の夜、そう言ってほほ笑んだ彼女の笑顔が、何となく思い出された。それが、本当に続けたかった言葉なのかどうか、もはや、答えてくれる人はいなくなったが。


「……」


 ライトは、何も言えないまま、レヴィエンスの体を支える。急速に、温もりが失われていく体。それは、彼女がオシリス神に導かれていった証拠だ。


――戦死した俺を迎えたリンは、きっと…。


「ライト」


 いまだ笑みを浮かべたままのレヴィエンスの表情を見ながら物思いにふけっていると、不意にコートがかぶせられる。見上げてみれば、仏頂面のリンの姿があった。


 だが、それ以上口は開かない。きっと、言いたくないのだろう。いつか、また自分がいなくなるのではないか、と、恐れていると。現に、ライトは、自分の身を危険にさらしても、レヴィエンスの為にコートを脱いでしまったのだから。


「大丈夫。お前がいる限り、俺はもう無茶はしねェよ」


 言って、頭に手を置いてやれば、リンは、ようやく安心したように笑ってみせる。


「じゃあ、帰って飯にしようぜ!」

「はいはい。その前に、王宮に寄ってからな」


 元気な弟の言葉に、苦笑しながら返すライト。


 見上げてみれば、朝焼けの空がやけに眩しくて。


――俺も、望んだんだ。綺麗な青空を、ずっと見ていたいと。

 胸中で独りごち、静かに眠るレヴィエンスに笑ってみせてから、ライトは、ゆっくりと前へ歩を進めた。