「ふっ…」
男が、呼気を吐き出すと共に、手にしていた剣を軽く振るった刹那、
「うわぁぁぁっ!」
「レット、ザグ!!」
突然、前触れもなくあがった火柱に、二人が包まれる。一瞬、ほんの一瞬だけ、気を取られ、後ろを振り返った時、
「ッ…!」
ギィン、と、金属がぶつかる音が聞こえる。次いで、とっさに自分が構えた剣が、男の剣を受け止めたとわかったのは、自分が反応した後だった。風の精霊を宿したシェオルのガイアが、男のガイアと共鳴して温風を起こす。
「良い反応だ。だが…」
言いながら、男が剣を一瞬ゆるめる。本来なら、ここは隙をついて斬り込むべきところ。だが、思うより早く、体が反応して、男と距離をとっていた。
「なるほど。運動神経だけでなく、直感も優れている、か」
全く感心した様子のない声で、男は、またも仕掛けようとしていた炎での攻撃を中断する。明らかに格下に見られている。それが、はっきりとわかる反応。
「うるっせェよ!!」
言って、シェオルは再び、自分から斬りかかる。だが、男も、軽い身のこなしで、シェオルの攻撃を交わす。
その時、
「ッ…!」
剣圧に圧倒され、ふわりとフードが揺れ、ゆっくりと男の顔が現れる。唐突に曝された姿に、シェオルは思わず息を飲んだ。
先程までは、隠れていて見えなかったもの。それが、今、はっきりと、目の前にある。
「ッ、は…っ!」
呼吸が、急に酸素が薄くなったように苦しくなる。剣を取り落とすという、剣士にあるまじきことをしたにもかかわらず、それでもシェオルは何とか戦おうと必死だった。
「どうした? 小僧」
言いながら、近寄ってくる黒い悪魔。その左頬には、焼けただれたような痕があった。
『私なら、大丈夫』
大丈夫なはずがないのに、無理に笑ってみせる少女の姿。似ても似つかないはずのこの男に、ただ一点、火傷という共通点があるだけで、身動きがとれなくなる。