その日は、久しぶりに遅くまで読書をしていた。
いつから趣味になったのか、記憶にはないが、少なくとも、本を手にしている間は、嫌なことは忘れられる。
「ん…?」
静まり返った家の中で、不意に、隣の部屋から物音がしたことに気付く。
「まだ起きてるのか?」
いや、そんなはずはない。
いつも、彼女は部屋で寝ていて、そうそう起きることはない。いつも、俺の方が寝るのが遅いから、そういう習慣に気付いていた。
だが、一度気付いてしまえば、気になるもの。
思わず立ち上がると、部屋を出、おもむろに姫の部屋の戸を叩いた。
コンコン
「はい」
あっさり返ってきた答え。少し意外にも感じながら、俺はゆっくりとドアを開けた。
「何か、うなされてたみたいだったけど、大丈夫か?」
入ってみれば、汗に濡れ、恐怖している表情。見覚えがある。
そんなことを考えたが、それは姫の言葉で遮られた。
「大丈夫。嫌な夢を見ただけだから」
「そうか」
だが、理由は聞かない。それが、俺達のルールだから。
普通だったら、どんな夢か、と聞くところだろうが、そうしない。内容など、おおよそ見当はつく。
「って、私の声に気付いたんなら、王子、まだ起きてたの?」
時計を指して聞く姫に、俺は、頷いてみせる。
もう、深夜と呼べる時間帯だ。
「読書もたいがいにしないと、体壊すよ?」
「ははっ、姫にはバレバレか。もし俺が倒れたら、君の優しい看病を期待するよ」
冗談だか、本気だかつかない言葉。
それに、いちいち姫が翻弄されていることを、知っているくせに。
「看病はするけど、王子が倒れたら、私、嬉しくない…」
憎まれ口なのか、心配しているのか。
本当は後者なんだろうが、それは言ってやらずに、俺は声をたてて笑った。
「以後、気をつけますよ、お姫様」
まるで、本当の姫にするように恭しく礼をしてみせる俺に、姫は気恥ずかしそうに顔を背ける。
「じゃあ、おやすみ、姫」
「おやすみなさい。本当に休んでね?」
「わかってるよ」
俺の声の明るさに、安堵したように笑う姫。
夢は、楽しい方が良い。
それに、いつかピリオドが打たれるなら。