翌日。
ライトは宮廷魔導士、リンは何でも屋としての仕事を終えた後、夜、サイスと合流し、噂の“再臨”の安置されている王墓へと向かった。
「最初に言っておくが、お前達を連れて行くと決めたのは、俺だ。同行者は明かさないことになっている」
「何で?」
いつも通りの格好のサイスとは違い、目元以外を白装束で覆う格好をさせられたリンは、今更ながら、問う。それに、サイスは意味ありげに笑ってみせた。
「何かが起こらないためさ」
「え…?」
意味深なその言葉に、思わず聞き返すライト。だが、サイスから返事はなく、そのまま彼は歩き出して言った。
「行こうぜ、ライト」
「あ、あぁ…」
リンに急かされ、ライトもサイスの後を追う。だが、何だ、この胸騒ぎは。そして、あの言葉がやけに引っかかる。
何かが起こらないため、それは、まるで、何か起こることを予期しているような…。
「着いたぜ」
言って、サイスが指示したのは、王墓を警備する衛兵達の前だ。王墓の間に続く入口は、ここしかない、と、代々王帝一族に伝えられてきたらしい。
「サイス=トゥーリア=アミール=イムベラトゥールだ」
「はっ、お待ちしておりました!」
サイスが名乗り、王家に伝わる紋章の入ったペンダントを見せると、警備兵たちがさっと道を開ける。それに頷いてみせ、奥へと進むサイスに、ライトとリンも従った。
「よしっ、さっさと行くぞ、お前ら!!」
先程の厳粛な雰囲気とは打って変わって、まるで子供のようにはしゃぐサイスに、兄弟は思わずため息をつく。実は、魔導士として“再臨”に関心もあった二人だが、サイスの様子に思わずその気が削がれてしまった。
「全く、緊張感ねェな」
嘆息するライトの言葉に、盛大に頷くリン。だが、二人とも、何かに気付いたように、すぐに表情を変えた。
「ライト…」
「あぁ、間違いない。この先に“再臨”の書はある」
まだ、中に入って数歩程度で感じる、威圧感。改めてその力の一端を知り、思わず息を呑む二人。
「お~い、さっさと行くぞ!」
だが、そんな二人の様子におかまいなしで、サイスは少し先から手を振って二人を呼ぶ。彼からは、緊張という文字は微塵も感じられない。
「あいつも、魔術学校の卒業生だよな?」
「まぁ、国王に必要なのは、魔術の才じゃねェからな」
ライトとリン、交互に言って苦笑するが、このままサイスを突っ走らせるわけにはいかない。自分達は、次期王帝の護衛役なのだから。
「不用意に先に行くなよ、サイス」
とりあえず追いついて、不平を言ってやっても、サイスはそれを右から左へ流し、笑う。
「お前達だって見てみたいだろうが。あの“再臨”の書を」
「それはそうだけど…」
「お前には、思慮が足りなさすぎンだよ」
口ごもったリンに変わって、ライトがはっきりと告げる。そして、持っていた杖を、真っ直ぐサイスに向けた。
「魔術は言霊、人の念だ。もちろん、俺達宮廷魔導士が使う魔術は、ちゃんと精霊の力を借りているがな。でも、俺やリンくらいの術者になれば、言霊だけでそれを魔術に変えられる。それが『止まれ』という言葉であっても束縛できるし、『ヘッポコピー』なんて笑っちまうような呪文でも、人を倒せる」
言うライトの言葉に気圧されたのか、サイスは突き付けられた杖を前に、息を呑んだ。動じていないのは、同じ力を持つリンだけだ。
「ライト、いくら何でも、ヘッポコピーはウザい」
「うるせェ。例えだ、例え」
弟の言葉に笑ってみせ、ライトはようやく杖を自分の傍らに降ろす。だが、これで、サイスには十分薬になっただろう。
「じゃあ、行くぞ。案内頼むぜ? サイス」
「あぁ」
先刻までの観光気分を消して、ようやくまともに頷いてみせたサイスに安堵し、三人は王墓の間へと歩みを進めた。