とんでもない騒動に巻き込まれ、しかも、決行まで日にちはない。
ひとまず、サイスから出来るだけ“再臨”についての文献を借りてから、ライトはそれらを丁寧に見ていった。だが、どれも伝承の域を出ないものばかり。
――さすがに、実際に“再臨”に触れたものはない、か…。
伝承とされているもの、とはわかっていても、つい浮かぶ期待感。そんな自分に、思わず苦笑した。
――結局、俺も魔導士なんだよなぁ…。
そんなことを独りごちていると、
「リン?」
呼びかけてみれば、ゆっくりと戸が開けられる。そこには、いつになく、所在なさげなリンの姿があった。
「どうかしたのか?」
「いや、ライト、怒ってるんじゃないかなって思って」
言って、そのまま、戸のところで立ちつくしてしまうリン。どうやら、帰り際ほとんど会話をしなかったことを気にしているらしい。そんな弟に、ライトは優しく笑ってみせる。
「ばかだなぁ、リンは。んなこと、あるわけないだろ?」
小さい頃はたまに喧嘩をしていたが、両親が亡くなってからは、二人で必死に生きてきた兄弟。自分達の大切さをお互い知っていて、理解しているという自負がある。
だからこそ。
ライトは、一人胸中で先程の文献を思い出す。ことの発端となった“狂気(ノア)”という、人々の負の感情。そして、それによりもたらされた災厄を鎮めるために作られた“再臨”の魔術。危険がないはずがないだろう。
もし、リンやサイスの身に何かあったら。
そう思うと、帰りに、思わず言葉数が少なくなってしまっていた。
「まぁ、大丈夫か、俺達なら」
「え…?」
唐突に言い出したライトの言葉に、リンは聞き返してくる。だが、それはすぐに不敵な笑みへと変わった。
「当然だろ? 俺達二人、最強の兄弟だもんな?」
言って、拳を合わせる二人。笑い合う二人の未来に、曇りはなかった。