シドニーツアーのアクティビティの中に「ユダヤ博物館」があるのですが、なぜシドニーに?と疑問に思う人がいるかもしれません。この博物館は、第二次世界大戦時(あるいはその後)、ホロコースを逃れ、シドニーに移住したユダヤ人たちによって、その負の記憶を失くさないように、同じ過ちを繰り返さないようにと作られました。訪れる前に、ぜひ近代世界史を紐解いて、その流れを理解しておいてほしいところです。


 2年前、友人の大学講師(アメリカ人)から、彼の論文を日本語に訳してくれないかと頼まれました。その論文は昨年『父と息子の物語』(彩流社、2023年、https://www.sairyusha.co.jp/book/b10030166.html)の第5章として出版されました。今年も新たに彼の書いたものが『ホロコーストと<愛>の物語』(彩流社、2024年、https://www.sairyusha.co.jp/book/b10084664.html)の第4章に入っています。


 ユダヤ系アメリカ人の彼は、アイザック・シンガー(ポーランド生まれのノーベル文学賞受賞作家)の著作をもとに二つの論文を書いています。特に今回はシンガーの2つの著作『メシュガー』と『敵、愛の物語』(どちらも日本語訳あり)を、フランクルの『夜と霧』(シドニーツアーの推薦図書の一つ)と絡ませながら論じています。翻訳にあたり、私もこの3冊を読みましたが、そこに出てくる登場人物たちはホロコーストを生き延び、戦後に生きる人たちでした。彼らの中には強制収容所を経験し、その記憶に苦しみながら現在を生きる人たちもいれば、強制収容所を逃れたことで、そこまでひどい経験はしなかったけれども、逆にしなかったという事実で引け目を感じ、やはり精神的に苦しむ人たちもいます。

戦争を経験していない私には、ホロコーストやそれを生き延びた人々について、さまざまなメディアから学び、その苦しみ、悲しみを想像することしかできません。登場人物の行動や言動には理解に苦しむものもありました。それが文化的な理由なのか、それとも彼らが経験したことが原因なのか、そのどちらでもあり得るし、そうでないのかもしれません。ただ、彼らが心に抱えているものは、深く暗い闇であることには違いありません。


  戦争のひどさ、苦しみを語るとき、日本では原爆のことを話しますが、欧米ではホロコーストがまず話題に上がります。ホロコーストが残した爪痕は今の欧米社会に大きな影響を及ぼしています。現代社会をより深く理解するためにも、もしまだホロコーストについて、ユダヤについて知らないなあと感じるのであれば、ぜひ少しでも理解を深めてもらいたいと思います。



英語コミュニケーション講座

講師 Emma