イギリスは夫と娘にとっての祖国でもあり私にとっても第二の故郷とも言える特別な国です。そのイギリスに今年の5月初めに家族で行ってきました。パンデミック以来です。 

 

ほんの4年ぶりですがロンドンに到着した途端にカルチャーショックを受けてしまいました。「あれ?こんなにイギリス人ってフレンドリーだったっけ??」 

 

空港でもお店でも、いや飛行機の中から既に、目が合うとニコッとする。店員さんはにこやかに対応してくれる。過剰な丁寧さや形式的な礼儀正しさは無いけど笑顔は本物です。それからとにかく喋る。無駄なおしゃべりをする。 

 

「香港から来たの?」 

「いいえ日本です。」 

「香港に行ってみたいのよね」 

 

だから日本だってば! 

会う人、会う人とお話するのが本当に楽しいのです。 

 

実は私たち家族はここ数年イギリスのことを嫌いになっていました。 

 

理由は7年前に起きたEU離脱です。ヨーロッパ共同体であるEUを国民投票の結果離脱することを決定した理由は様々ですが、メディアに煽られた移民への嫌悪感情や外国人排斥思想が国民投票に大きな影響を及ぼしたと言われています。 

 

周囲の知人でEU離脱に投票した理由として外国人排斥思想を堂々と語るのを実際に耳にしてそれっきり私達は友達付き合いを止めた人たちもいます。 

 

EU離脱後のイギリスは深刻な人手不足(以前は国内の労働力、特に皆が嫌がる肉体労働は移民に頼り切っていたから)食料品などの物価高騰(EUからの輸入に関税がかかるようになってしまったから)などに苦しんでいるのが現状です。 

 

それにしても今回のイギリス旅行で感じたのは、そんな排斥思想をぶっ飛ばすようなフレンドリーさ、親切さ。初めて会った人同士がこんなに親しく楽しく会話が出来るなんて、他人行儀という日本の言葉からは想像のつかない文化です。 

 

困っていたらすぐに助けてくれます。ドアを開いてくれる、戸惑ってると教えてくれる。地下鉄の複雑な路線図の前に家族で立ちつくして「こっちだ、いやあっちだ」と揉めていると、インド系の若いビジネスマンがわざわざ立ち止まって助けてくれたこともあります。 

 

もしかしたらEU離脱で落胆した人々が(私達の周囲にはこっちの方が沢山います)こんなイギリスを頑張って良くしようと思う人達が以前よりも助け合う努力をしているのかも知れないと思うほど。 

 

楽しくて色んな所で色んな人とおしゃべりしました。色んな赤の他人が助けてくれました。私も赤の他人の手助けをできた!と思う出来事がありました。 

 

ロンドンのパブのトイレに入っていた時のこと。隣のトイレから仕切り板の壁越しに声が聞こえてきました。 

「Excuse me、そっちにパイパーある?」 

「え?パイパー?」 

「パイパーよパイパー」 

「あ、ペーパー?」 

 

ロンドン訛りなのか中々聞き取れず、やっとトイレットペーパーのことだと気付いた私は壁のペーパーホールダーを見ました。 

「Yes」 

「こっちに無いのよ、少し渡してくれない?」 

 

仕切りの下の方を見ると床との間の隙間が25 cmほどあります。 

「OK」 

私は紙を多めにちぎって仕切り板の下から手渡ししました。 

「Thank you!」 

 

トイレを出て手を洗っていたらブロンドのおばさんが出てきました。 

ニコニコしながら「助かったわ!」 

 

もし彼女がEU離脱派だったとしたら外国人も悪くないなと思ったでしょう。 

 

私もこんな風に赤の他人の大変な危機!を助けることができてとても良い気分だったし、自分もトイレで困ったらこうすれば良いのね!と学んだのでした。 

 

国というシステムが上手く行かない状況でも、こんな場所からもコミュニケーションが生まれる。人と人が繋がることができる。 

 

Don’t give up communication.  

 

英語コミュニケーション講座 広島大学担当講師

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