渡米して語学学校に通っていた頃、初めて伺ったアメリカ人の家庭で開かれたホームパーティで、「ここは日本とは違う」「日本にいた時と同じ振る舞いではダメなのだ」ということを思い知らされた出来事があった。


その家庭は、ご主人は日本語の話せない日系2世で、奥様は日本食がお好きなアメリカ人。ご挨拶の後ダイニングキッチンに通され飲み物や食べ物などの紹介を受け、ソフトドリンクは冷蔵庫の中にあるのでHelp yourselfと告げられた。

 

正確には覚えていないけれど、リビングには15人くらいの人がおり、椅子に座って話をしていたり、立ったまま飲み物や食べ物を食べながら話している人など、皆さん自由に交流を楽しんでいる様子だった。

 

一緒に行った友人と飲み物をいただきにダイニングキッチンに行った時のこと。奥様が大きな炊飯器に視線をやりながら『恒例のソーセージご飯を炊いたの。Are you hungry, Kaoru?』と私に声をかけられた。人前で突然自分の名前を呼ばれてびっくりしたのと食事時間を過ぎていたこともあり、本当はお腹がすごくすいていたのには恥ずかしいというかはしたないという気持ちからか思わずNO!と言ってしまった。

 

奥様は『That’s too bad.』と言いながら炊飯器の蓋を開けられた途端、あたりにはソーセージと炊き立てのご飯のいい香りが漂い、渡米して3ヶ月ほどお米を食べていない空腹の私には今も忘れられない程お腹に染みるいい匂いだった。周囲の人たちは群がるように各々がお皿を差し出し、奥様からそのご飯をよそもらい、美味しそうに頬張っていた。
 

私?最後までソーセージご飯はいただけなかった。お腹がすいていないと言ってしまった手前、やっぱり食べたいとは恥ずかしくて言えず、それに奥様は私と目があっても残念ねと肩をすくめるような仕草をするだけで、『遠慮しないで一口いかが?』とか『美味しいから食べてみてよ』とは言ってくださることなく、他の訪問客が歓談している他の部屋へ行ってしまった。

 

日本で親戚の集まる会などでは、相手が遠慮しているのではと気遣って『遠慮しないで一口いかが?』とか『美味しいから食べてみたら』と言ってもらえるので、実はもう一度ソーセージご飯を勧めてくださるだろうと期待をして待っていた。でも、違った。実は冷蔵庫も開けることができず、テーブルの上に置いてあるお水しか飲んでいなかった(笑)。

 

私の言葉をそのまま受け取ってくださり、無理な勧めはなかった。期待をしていた私の方がおかしいのだ。相手の言葉を素直に受け止め、これからは他の人みたいに伝えたいことはきちんと伝えるべきだと心に染みた。中学か高校の授業で習った、When in Rome, do as the Romans doの意味が本当に理解できた1日だった。これを機に、現地に溶け込みたいと思った私は勇気を持って自分の伝えたいことを言葉で表現しようと決めた。


皆様も英語を使うときは、英語スイッチを入れ、日本にいる時の自分とは違う「英語圏の自分」になり切ってほしい。

 

ホームパーティーの主催者Judy Nakadegawa & her children and friends
1981年サンフランシスコにて

 

鈴木カオル