【お客様は神様です7】




もう随分前の話なのですが、
とあるお店の設計を依頼された時の話しです。



もともとはどこかのお店で修行なさっていた方が独立をされるので、
良い場所に土地を見付けたのでそこを購入してとうとう独立を、
と言う話しです。

こういう方は自分が同じようにやってきたので、
本当に応援してあげたくなります。
何とかご予算の中で最高の建物をと頑張ります。



御相談を受けてご要望を聞いて企画をします。

何度か打ち合わせを繰り返して、
何度か企画を修正して、
たいそう気に入っていただくことが出来て、
ご依頼を受けました。
鉄骨造3階建ての店舗兼事務所です。



そこで設計監理請負契約をすることになりました。
いつも通りの建築四会連合契約書と約款の草案を作って持参し、
内容を説明して渡します。

支払い条件は、
頭金・設計完了時・着工時・竣工時の4回の通常通り。
それぞれ、
そこまで行った業務内容までの料金を頂くという内容です。



この内容でよろしければ次回契約書を作成してお持ちします。
と・・
 

 



建築四会連合というのは、
日本建築士会連合会
日本建築士事務所協会連合会
日本建築家協会
日本建設業連合会
の4つの協会のことで、
ここが共同で作成している設計監理請負契約書・約款が民間工事の設計監理では最も多く使われています。
一般的には一番信頼性の高い契約書と言われているものです。

あ、
設計監理だけですよ、
工事の請負契約書は別で、
それは別の工事に関する団体協会が作った物があります。

大手住宅メーカーなどではその会社独自の契約書などを使いますのでちょっとちがいますが、我々が設計監理の契約をする時などはほぼこれを使います。



しばらくしてお客さんから電話がかかってきました。

もし、
設計後に見積もりをして工事金額がオーバーしてしまったらどうするんですか?
と、
まあ誰でも心配されるであろうことをご心配なようです。
 

 

 



そこで説明します。
まず基本設計の段階で概算見積もりをして大まかな工事費をだしておいて、
その上で設計してから本見積もりをします。
概算見積もりをしているのでそんなに大きく変わることはないのですが、
その後でVEをして金額をご予算にあわせます。
と。

それでも何か天変地異とかあったりしたらどうするんですか?

確かにそういうことも無いとは言えません。
過去にも震災とかリーマンショックとかありましたし、
でもそれでもあくまでもご予算に合わせる、
何とかするのが我々の仕事です。

 

 



そうご説明したのです。



その時はそれで納得していただいたのですが、
またお電話が・・

契約書に、
もし工事費が予算オーバーしたり、
何か天変地異などが起きて工事できなくなったり、
した場合は、
そこまでに払った設計料は全額返済すると一筆入れてくださいと。



・・・・・・・・・・



そんなこと出来ない、
それは天変地異が起きても自分は絶対に一円も損をせず、
全ての負債はお前が背負って倒産しろと言ってるんです。

 


 


頂く設計監理料というのは、
そこまでに行った業務に対する報酬です。
もうすでに終わっている仕事に対するお金です。

頭金は、
そこまでの調査や基本設計にかかった費用、
それと設計中に構造計算や省エネ計算などの外部に支払うための費用。
設計完了時は、
実施設計にかかった費用。
もちろん外注費も。
着工時は、
許認可などにかかった費用。
竣工時は、
そこまでの現場監理の費用。

設計をしていると外部に払うお金も多々あります。
それを見積もりが合わなかったから全額返せ言われても、
それは無理です。
自分が儲けているわけではない、
外注や給料に支払っているのですから、
赤字どころか完全な持ち出しマイナスになってしまいます。
なんで私があなたのために全額負担してお金を払わなければならないんですか?



何かを買うにしろ建物を建てるにしろその際には我々もお客さんも工務店もみながある程度のリスクは負うことになります。

天変地異が起こるかもしれません。
見積もりが合わないかもしれません。
工務店が倒産するかもしれません。
担当者が持ち逃げするかもしれません。
お客様が夜逃げすることだってあるかもしれないんです。

車を買ったって、
前金払ったのにその車が届かなかった、
なんてよくきく話しです。

お店で全額払って買ったエアコンが冷蔵庫が届かないことだってあるかもしれません。

 

そのリスクはお互い様、
お客様だけが絶対に損をしないリスクを負わないなどということはありえません。



いくらお客様が神様でも、
私たちはお客様のために慈善事業をしているわけではないのです。



それからは何度も何度もお話し合いをします。
その上で、
予算内に納めるよう最後まできちんと建てるよう最大限努力を約束します、
万が一の場合は以降の設計監理料は頂きません、
という誓約書をつけることでご納得いただきました。



やはり、
信頼関係が本当に大事なのだということを痛感させられた話しです。

無事お店が出来上がり、
喜んでいらっしゃるお客さんを見ると、
本当にこちらも嬉しくなります。



それにしても、
これが今で、
コロナ禍・ウクライナ侵攻の前だったら、
なんて考えるとゾッとしますね。

まさに天変地異以上ですから・・
 

 



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